第十七話 時代を引っ張る生徒
前回のあらすじ
消しゴムが投げられた。
俺はこんな場所、もう気にしていない
「すいませんでした、マスター。でも、信じてください! 私はマスターに迷惑かけるために授業を受けたわけじゃないんです!」
「知っている、気にするな」
失敗するとわかっていたから、気にもしていない。
俺は身だしなみを整えるために、鏡を見ている。つまりトイレの中にいる。
上が吹き抜けのように繋がっているんだよ。ここは使われていない体育館のトイレでほぼ俺達しか使っていない。あまりにボロすぎて維持費がかさむため誰も所有していない場所だ。
でもトイレ自体は汚いが、誰かが掃除している跡もあるし、俺はぜんぜん不満はない。
しかし、ここは男女で会話する場所じゃないぞ。もう授業は受けないことにホッとしていてコイツ、常識を忘れている。
「叶帆、これからどうする?」
「へっ、あ! すみません。私、予定を」
「俺はこれから体育副委員長に会おうと思っている。依頼の相談するためだ」
授業なんてもういい。仕事の方が優先だ。
「う、わ、私も、行き、ます」
歯切れが悪い。俺も叶帆も知っているからな。あの鬼怖い上級生、体育副委員長を。
会わないでいられればそうしたいところといったところだろう。でも、それは無理な相談だ。
「なら、五分待つ。それまでに身だしなみを整えないと、死ぬぞ?」
「はいぃいい!」
本来会うのに一時間ぐらい準備したいところだ。山登りの服とか、海を泳ぐゴーグルとか。さすがに、空には居ることはできないと思いたい。
さて。今日は誰の担当になっているかな。
「よお、慎」
「あれ~、ひっさしぶり~! どうやら無茶をしているみたいだね~」
「お久しぶりでござる」
「お久しぶりです、皆さん」
声をかけてきたのは疑似学園都市で名の通った、体育委員会の幹部達だ。
俺がどんなことをしでかしたか分かっている、でも問題だとも思っていない。
変わらない関係、いつも通りだ。
「慎、また百メートル走、勝負してくれないか」
「またですか?」
「慎殿ぉ! 走り幅跳びの記録を伸ばすために協力を」
「待って、新体操部としてはツイスターゲームで体の柔らかさを見せつけて」
「ダメぇ、最後のはダメです。罠です、罪です、変ですぅ!」
マスターに近づけさせません! と悲鳴によく似た声で腰を引きながら威嚇している。
懐かしい。時間として、俺がブレインになってもう何か月か経つのだろう。もう、二年生だった先輩達も最上級生だ。
早い、しかし先輩達とドンパチやりあった日々はもう遠い昔。
久しぶりの再会でも叶帆は弱気な犬と同じ感じで唸っている、でも口元はうれしそうだ。
俺を尊敬しているのが伝わってくるからだろう、それは時間をかけて少しずつ築いたものだったが、もう心からは大事にする気持ちはなくなった。
遠い、遠い。俺の心を支配しているのは、どうがんばっても死んでしまうあの人しか頭にない。
「叶帆ちゃんも、どうだ? 頼りがいがあるブレインだろう」
「はい、マスターは、誰にも負けないマスターです」
『し~ん~‼』
「て! なんですか、先輩⁉」
男性先輩から内緒話をするように肩に腕を巻かれた。他の男子先輩達と小さな声で、にやけながら、
「羨ましいぞ~。暴走した彼女を自分の超能力を犠牲にしてまで助けた女の子だ。もうメロメロを通り越して目が曇りまくっているぞ~さあ、吐け! どこまでいった?」
どこまで、って。好感度なんて気にしていない。
でも、確かに他人から見たら気になるか。まだ一学期の終わりぐらいしか経っていないのに俺の取る授業に一年生のこいつが付いて行っているし。
『きゃ~ぁあ!』
盛り上がっている女性陣。照れている叶帆は胸をしきりに気にしている。
「やっぱり、男性はこれが……」
「そういえば、慎く~ん‼ あの子とはどうなの? ほら、学列争選でαを貰った、あのツンデレちゃん!」
「はぁぁああ! お前、叶帆ちゃんというものがいながら、他の女にも手を出しているのか! どっちかにしろ。いや、どっちかくれ!」
『気持ちわる~!』
「うるさい! 俺はここで生涯のパートナーを見つけろって言われているんだよ」
バカね~、私達にそんな甘い展開あるわけないじゃない~。と女性先輩達は男の夢を笑う。
気持ち悪いと言われた先輩は膝をつけて項垂れた。現実に打ちひしがれたらしい。でもキッと前を向く。
「だから、そのためにも俺は努力を惜しまない。さあ慎! 俺の訓練に付き合って」
「慌てないでください、ちょっと今日は用事があるので別の日にしてくれませんか」
『なにぃ~‼』
こいつら、全員付き合ってほしかったらしい。おいおい、疲れて明日筋肉痛になること間違いなしだぞ。
「すみません。それにしてもやっぱり、先輩達がここにいるってことは体育副委員長も近くにいるってことですね」
「あ~。お前、もしかして姫様を取り返そうとしているのか、生徒会から」
「生徒会、今回はそういう話なのですね」
「ああ、姫様にも困り者だよ。さらわれるなんて」
「お疲れ様です」
さて、先輩たちの目が変わる。超能力を持つ者は自分の力の範囲を広げ、自衛隊を目指す者は対超能力者用の構え、マネージャーを目指す者は後方でパソコンを開き攻略法を探すようだ。
「なら生徒会に嫌々従っている、部下になった俺達を倒してみ?」
やっぱりそうなっているか。分かっていたがここで派手に行動すると会えないことになるだろう。
体育副委員長に会おうとは、そういうことだ。
でも、お互い話し合ったわけでもないのに。
パタン、とパソコンを閉じる音に合わせて武器を収める先輩達。
「止めだ止めだ‼ 今のお前なら勝てるだろうが、叶帆ちゃんのため、ここは目をつぶろう。あの人も一生捕らわれの姫になってもらっても困るしな」
「ありがとう、ございます」
先輩はくいっと後ろを差す。昔と違いお前の邪魔はしない。それがよりよい未来に繋がっているんだろ? と目は訴えかけているようだった。
「わかっているかぁ! 俺達は負けたんじゃない。本気が出せなかっただけだ。昔の仲間との戦闘でな」
「はい!」
彼らに急き立てられるように走り出した‼
今日は二話投稿します




