マルちゃんが死んだ。
〇
マルちゃんが死んだ。
私はどうすることもできなかった。
「…」
ふくよかでまるっぽかったマルちゃんが少しずつ痩せていき、歩幅が少しずつ狭くなっていって、すぐに疲れるようになって、しだいに走らなくなって、散歩に行っても早く帰ろうと来た道を戻ろうと促していた。
そんな姿も可愛くて、愛おしくて、歩いて疲れて口を開けて舌を出してハッ!ハッ!言ってるキミを写真に収めて、抱っこをすると全てを委ねるキミに顔を近づけた。短い足で器用に歩くキミが好きで、撫でられ慣れすぎて頭に手を持っていくと(この手の位置だとおでこだよね)と首をすくめるキミが好きで、帰ってきたときにふてぶてしくゆっくりこっちに来るキミが好きで、そのままおやつの場所に誘導するキミが好きで、おやつの時だけ「バウ!バウ!」と声が漏れる君が好きで、お腹の真ん中をかいてあげると口角を上げて気持ちよさそうにしているキミが好きだった。もちろん今も大好きだ。
そんなキミが今、魂がなくなり固まった状態で私の前に静かにいる。
「…」
ママが泣いている。パパは下を見ている。私も下を見ている。
ぁぁ、なんでだろぅ…泣いてしまえばいいのにどうしてか泣けない。
大きな声でがむしゃらに泣いたらいいのに、取り乱せばいいのに…
でもそんなことをしてもマルちゃんは還って来ないよと、いつにもまして冷静な自分が俯瞰して見ている。
「…」
私はなんて不器用なんだろう、なんなんだコイツと自分を殺したくなる。あんなに好き好き言っておいて涙の一滴も流さないのかと胸ぐらをつかんでビンタしたくなる。でも、なんだろう、これも私っぽいなと思ってしまう自分もいる。
泣いて消化していいのか、それは自分の為なのか、マルちゃんの為なのか、よくわからない感情がぐちゃぐちゃして、声も出したくなくて、自分の「ふぅ、そうだね…」と冷静を装っている声も聞きたくなくて、忘れたくなくて、失くしたくなくて、でもどうせ忘れて、全ての記憶が時とともに薄まっていって、全体的にしか思い出せなくなって…
「…」
何してんだ私…
この考え意味ないね…やめよう、辞めよう、そうしよう、悲しいのやめよう、かわいいよマルちゃん、今もなお可愛いよ、愛してるよ、でもそんなマルちゃんが死んでも私は涙を流さず、不器用ですからなどとほざきながら、上を向くこともできない私は、マルちゃんを一瞬見ては目を逸らす。直視できなくて体のみのマルちゃんを直視できなくて、触った時の(ぁ)という感覚が怖くてもう触れたくなくて、自分で曲げられなくなった足を、かげなくなった鼻を、澄ますことが出来なくなった耳を、瞬きも出来なくなった目を、もう戻ることが出来なくなった体を、直視すると疲弊した。




