108日目 任務の締めくくり
●108日目(グリウス歴863年8月20日)
今日はホフマン伯爵一行を送り届けることになっている。
送り届けるだけなので、アンジェとマリアには
アメリアの手伝いをしてもらい、
ランゴバルドには俺とリリーだけで行く事にした。
「お土産よろしくね。」
そういって2人は城に出かけて行った。
しばらくすると、ホフマン伯爵一行が館にやってきた。
馬車のうち、1台はこちらで使って構わないという事で置いていくようだ。
馬はさすがに地下室に入っていけないので、馬も置いて行く事になった。
残り2台の馬車のうち1台には荷物がぎっしりと詰まれている。
もう1台の馬車は貴族用の馬車なので荷物はほとんど乗っていない。
この2台の馬車は異空間収納の中へしまった。
一行を地下室まで案内する。
「ゲート!」
勿論目的地はランゴバルドの冒険者ギルドの一室だ。
始めて入るゲートに全員が入ることを躊躇っていたが、
ジェスが1番乗りで入っていった。
それを見た全員が恐る恐る入っていく。
最後に俺も入り、ゲートを閉じた。
ハードロックで施錠されているので、狭い部屋に全員がいる。
合言葉を唱えて扉を開ける。
ちなみにハードロックでの合言葉はすべて日本語で設定している。
これは、聞かれても簡単に真似できないようにする防犯上の理由だ。
ぞろぞろと部屋から出ると、何事かとギルド長の部屋から
シモンギルド長が出てきた。
「なんだ騒がしい。」
「久しぶりだね。シモンギルド長。」
「うお、アルスじゃないか。いつ戻ってきたんだ。それに後ろの・・・」
ホフマン伯爵を見て、絶句する。
「ああ、ようやく任務完了といった所だ。この通り、ホフマン伯爵を無事連れ帰ってきた。」
「これは、伯爵様。ご帰還おめでとうございます。」
「シモンギルド長も息災かな。」
「お陰様で。この後はどうされるのですか。」
「そうだな、一旦、辺境伯に挨拶をしに行こうかと思っておる。アルスよ。世話になったな。アルスのおかげで、無事任務も果たせた。これは、謝礼だ。元々、道中で使う予定だった費用だ。少ないが受け取ってくれたまえ。」
そういって、金貨の袋を手渡した。
「それじゃあ、一度、馬車を出したいんですけど、シモンギルド長、馬を4頭ほど、準備してもらえますか。」
「ああ、わかった。おおーい、誰か馬を用意しろ。」
そういって、ギルド長は階下に降りて行った。
それに続いて俺達も下に降りていく。
ギルドの表に出て、馬車を異空間収納から出す。
「アルス、お前との冒険は楽しくていいな。また、機会があったら一種に冒険しような。」
ジェスが手を差し伸べて握手をする。
「アルス、元気でな。また会おう。」
トールとも握手する。
「あんたは簡単に死なないとは思うけど、マリア様に怪我させるんじゃないわよ。わかった?」
ロザリーはそっぽを向きながら手を出してきた。
「そっちこそ、兄貴のいう事をよく聞くんだぞ。がんばれよ。」
そういって、握手を交わす。
そのあとに、ドラン法務官、ロバート軍務官、エマ魔法士官、
オーバン秘書官、トルネ執事、シンシア譲とも挨拶を交わす。
そうこうしている内にギルドの馬がやってきて、馬車に括りつけられた。
ホフマン伯爵一行はランゴバルド辺境伯のところへ向かっていった。
ホフマン伯爵一行を見送った俺は久しぶりのランゴバルドの街を
散策することにした。
アンジェとマリアに何かお土産でも買っていこうと思ったからだ。
歩きながら屋台を見ていると、
俺の知らない食べ物があちこちで売られていた。
「前にこんなの売ってたかなあ?」
気になったので、一つの屋台に声をかけた。
「おじさん、これは何?」
「らっしゃい。これはな、法国から来たテンプラという食べ物だぞ。」
「テンプラ?天ぷらだと。」
「うまいぞ、買ってかないか。」
「1本くれ。」
「あいよ。銅貨1枚な。」
銅貨を渡し、その場でかじる。
「こ、これは・・・とり天だ。」
食べながら、おやじに話しかける。
「前は、こんなのなかったよね。」
「そうだな。最近は法国と流通が盛んでな。法国の食いモンがたくさん入ってきてるんだ。いまや、法国ブームであちこちの屋台で法国で食われてる食べ物が売られてるぞ。」
「でも、これ、ここで作ってるんだよね。」
「ああ、商業ギルドでレシピと材料が売られてるからな。レシピは高かったが、元は十分取れそうだ。ハハハ。」
そのあとは当然、買い漁った。とり天、おむすび、いなり寿司、
野菜の天ぷら、みそ汁、チャーハン、
調味料も醤油、味噌、マヨネーズ、ケチャップ、一味や胡椒まであった。
懐かしいものを手あたり次第だ。
容器の問題があったが、もちろん新しく買い足した。
思わぬ出費に金貨10枚も屋台で使ってしまった。
お土産はこれでいいだろう。
さて、問題はチフーラ砦に行かないと報酬が貰えないという事だ。
先程、任務達成の署名をホフマン伯爵からもらってあるが、
ゲートが使えれば一瞬で着くが
間借りした部屋がまだ残っているかどうか怪しい。
それというのも、あの砦では日々、改装と強化がなされていて
簡易に建てられた宿泊所は無い可能性が高かった。
その為、一度町の外へ出ることにした。
人目につかない場所に行き、ゲートを試すためだ。
「ゲート!」
だが、予想通りゲートは出なかった。
であれば、一度法国に寄ってから、チフーラ砦に向かうしかない。
「ゲート!」
現れたゲートに入っていく。
ゲートの先は、フォーテルムーン法国のユミコの執務室の横の部屋だ。
外に出るには執務室を通らないと出られない構造になっている。
ユミコの執務室に入ると今は誰もいなかった。
まあ、ユミコもいつも執務室に籠っているわけじゃない。
頭をポリポリと掻くと別の扉がガチャっと開いた。
入ってきたのは若い女性だった。
「アルス様?」
その若い女性はたしかユミコの側仕えみたいな感じの仕事をしていて
よく隣の控室にいた女性だった。
「こんにちは。ユミコはいる?」
「こ、こんにちは。あっ、ユミコ様は今お食事に行かれております。すぐに呼んでまいりますのでお待ちを。」
そう言って、慌てた様子で部屋を出て行った。
別に呼ばなくてもよかったんだが、
仕方なくソファーで腰かけて待つことにした。
バタバタバタと廊下を走る音が聞こえたと思ったら、扉の前で止まった。
だが、すぐに入ってくる様子がない。少し間があって扉が開いた。
「アルス様、おかえりなさい。」
開くなり、ユミコは声をかけてきた。
「ユミコも元気そうじゃないか。」
「ええ、おかげさまで。アルス様もお元気そうで何よりですわ。それよりも突然、っていうか、いつも突然ですけど、どうされたのです?」
「いやね、依頼の都合でチフーラ砦に行くんだけど、一番近いのがここだったから、寄らせてもらったよ。」
「そうだったんですね。急ぎですか?でなければ、少しお茶でもご一緒しません事?」
「ありがとう、別に急いではいないから、いただきましょう。」
先程、それを聞いたユミコを呼びに行った女性が控室のほうへ入っていった。
「そういえば、さっき、ランゴバルドからこっちに来たんだけどさ。なんか色々とやってるようだね。」
「えーと、何をでしょう。」
「食べ物だよ。屋台で日本の食べ物があっちこっちで売られてたよ。」
「ああ、その件ですか。ええ、復興にどうしてもお金が必要でしたので、ジュノー王国の商業ギルドと取引をしましたのよ。おかげで、食材の輸出も大幅に増えて、レシピも高く買い取ってもらえて大変助かりましたわ。」
「でもよく作物を育てられたね。俺が最後に寄ってから1週間くらいだと思うんだけど。」
「実はですね。これはアルス様にも詳しくは教えられないのですけど、魔法を使いました。教えられないというよりは、私も詳しくはわからないだけなんですけどね。それにより、短期間で収穫まで持っていけたのですけど、若干弊害もありました。ですがその対策も見つかってなんとか短期間に体制を整えられたのですわ。」
「弊害って?」
「単純に魔法で収穫を早めると、土地が早く痩せてしまうのです。でもおかげで、難民の方にもお仕事が回せて皆さん大変ですけど、普通の暮らしになりつつありますわ。」
「そうか。それはよかったね。でも魔法かあ、そんな魔法あったかな?」
「この魔法って、エルフの方々が使える特殊な魔法のようですね。ジュノー王国経由で支援に来て頂いたんですよ。」
「そうなんだ。土地が痩せる対策ってどうしたの?」
「それは簡単ですよ。肥料を作りました。腐葉土は勿論ですが、いわゆる焼き畑や骨粉を撒いたり、植物油を作るときに出る油カスや鶏糞なんかも使ってますよ。」
「ずいぶん詳しいんだな。農業でもやってたの?」
「田舎が農業をやってましたから。うろ覚えで試行錯誤しながらやってますよ。それで、面白いことを発見したんですけど私たちのいた世界に魔物なんていなかったじゃないですか。骨粉って言っても大体は動物の骨や魚を丸ごと磨り潰したりするんですけど魔物の骨は何故だか効果が出るのが早いんですよ。あっ、骨粉の肥料って普通効果が出るのがかなり遅いんですよね。それが分かってから、冒険者ギルドに骨の買取りをしてもらってるんです。結構新人冒険者の方々には好評みたいですよ。」
「そうだろうね。新人だと倒せるモンスターも限られるし、数も多くないから、多少でも買い取ってくれるなら万々歳なんじゃないかな。そっか、じゃあ、法国は順調に復興が進んでるんだね。」
「順調を通り越して怖いくらいですよ。それより、アルス様に一つお願いがあるのですけど。」
「なに?」
「アルス様が発見された北部山岳地帯にあると思われるダンジョンなのですけど、入り口があると思われる場所が特定できました。ですが、今は大量の土砂に埋もれているのでその撤去作業が必要なんですが、撤去してしまってよいものかどうか悩んでいるのです。」
「どうやって見つけたの?」
「神託を受けました。ですので、入り口の場所に関しては間違いないと思います。ですが、アルス様が見つけたダンジョンにはモンスターが大量にいると言ってましたよね。今、この国には強力な冒険者はいません。開けたはいいが対処できないのであれば開けないほうが良いとも思ってます。軍の再編成も練度もまだまだですし、帝国との関係もあります。仮に軍隊を投入すれば、前線の維持もままならなくなってしまいます。そこで、今、ダンジョンの入り口に要塞を建築するべく、ジュノー王国経由でドワーフ王国に建築の協力を要請中なのです。ドワーフの方々も協力的だそうで、早ければ数日のうちに調査と設計者が第一陣として来ると思います。」
「そうだね。ダンジョンの入り口を開けた途端、モンスターホードが発生したらたまんないもんな。」
「それで、そのお願いなのですが、ダンジョンを開ける際にアルス様に臨席してもらいたいんです。」
「それは構わないよ。」
「ありがとうございます。何せ、古い書物を調べるとダンジョンを開けた際には必ずと言っていいほどモンスターが多かれ少なかれ湧いて出ると書かれていたので助かります。」
「いつくらいの予定を立ててるの?」
「それはまだ、未定です。ドワーフの方々次第といった所でしょうか。予算も多くはないですし。」
「そうだね。復興のほうを優先すべきだよな。」
「それと女神様から所謂、言付けです。以前、アルス様が手に入れた送還のワンドだけでは、悪神を送還することができないとの事です。絶対的な魔力が足りないとの事です。元々送還のワンドは2つで1つの魔法具で『神送りのロッド』というものらしいです。もう一つのワンドを探し出して神送りのロッドを完成させなさいというものでした。もう一つのワンドがどういったものなのかはわかりませんが、見つければ分かると言っておりました。」
「よくわからないが、わかった。つまり、もう一つのワンドを見つけないと使えないってことだね。」
「すみません。もう少し、詳しく聞ければよかったんですが、他にも懸念事項が多くて、時間切れとなってしまいました。」
「いや、いいよ。それだけでもありがたいよ。」
「そうそう、アルス様に持っていってもらいたいのがあるんですよ。ちょっと待っててくださいな。」
そういって、ユミコは側仕えのメイドに何やら話した。
メイドはそのまま部屋を出て行った。
「持って行ってもらいたい物って何?」
「それは後でのお楽しみです。」
しばらく、ユミコと近況報告やら雑談やらをしていると、部屋をノックして先程のメイドが戻ってきた。
「お待たせしました。」
渡されたのは、鍋だった。
「開けてみてください。」
鍋の蓋を取ると中には黒い物体が入っていた。
「こ、これは、まさか。」
「そうです。とうとう完成しました。あんこです。粒あんです。自信作です。」
「まじかあああ。すごいよ、ユミコ。さすがだ。」
「ぜひ、皆さんで召し上がってくださいな。」
「ありがたく、受け取っておくよ。リリー味見するかい?」
そういって指であんこを少しすくって出す。
リリーは少し匂いを嗅いだ後、パクっとそのまま口にした。
「おいひぃ」
リリーはクルクル飛び回りながら悶絶した。
「味見だけだからな。あとでみんなで食べよう。」
そういって、すぐに異空間収納にしまった。
放っておくとリリーが盗み食いしかねない。
俺たちはユミコに礼を言って、主にあんこの件だが、すぐにお暇した。
それというのも、ここからフライとテレポートで砦まで
向かう必要があるからだ。
軽く屋台で早めの昼食を済ませて、食料も若干補充して出発した。
ただ、失敗したのが、新しい調味料や日本食などは、ランゴバルドより、
2割から3割ほど安く売ってたことだ。
買い増ししたことで差額を減らす事で納得することにした。
後悔はない。
それから、テレポートを駆使して砦まで戻ってきたのは、
夕方より少し前となっていた。
砦に入った俺達は中の様子に少し驚いた。
前はほとんどが木材で作られていた建物が、
かなりの数の建物が石造りに代わっていた。
木材で作られた建物もあるが、
そのほとんどが防壁の反対側の法国側であった。
造りも簡易なものではなくしっかりとした造りなのも驚いた。
それに、エルフやドワーフの姿も多くみられた。
もはや、普通の街並みに見える場所を通って、砦の本部に到着した。
俺の顔を知っているのか、すんなりと通された。
「よく戻ってきたな、アルス。」
この砦の司令官のバッシュが出迎えてくれた。
「そっちも無事で何より。」
「お前ひとりか。」
「ああ、報酬を受け取りに来た。ホフマン伯爵一行はもうランゴバルドに送り届けた。これが任務達成の書類だ。」
ホフマン伯爵からもらった任務達成のサインの入った書類を渡す。
それを受け取ったバッシュは部下に渡すと、下がらせた。
「今、用意させる。それで、ここを通らずにそのゲートという魔法で移動したのか。」
書類に簡単に経緯なども書かれていたので、それをみ見て質問された。
「場所は限られるけど、便利な魔法だからね。本当はここにもゲートで来たかったけど、俺の使ってた部屋は無くなったみたいだしね。」
「そうなのか。それは済まないことをしたな。ここも見ての通り、ドワーフが来てから大改装したからな。古い建物はあくまで仮の建物だから、まさか必要になるとは思ってなかったんだよ。」
「いや、俺も言わなかったのだし、しょうがないよ。」
そのあと、パルーアでの出来事を掻い摘んで報告した。
「大変だったな。こっちは小競り合いだけで大規模な侵攻はなかったから、そっちに戦力を集中させたのだろうな。」
そのような話をしている間に3人の彼の部下が入ってきた。
「どうやら書類の確認も取れたようだな。ではアルス、こちらは報酬の金貨1000枚と魔石600個だ。確認はどうする?」
「大丈夫、収納したらすぐに数がわかるから。」
金貨の入った袋1袋と魔石の入った袋6袋を受け取り、異空間収納に入れた。
数はきっちり合っていた。
「この後はどうするんだ。」
「パルーアに戻るよ。アンジェとマリアが待ってるからね。俺は報酬を受け取りに寄っただけだから。」
「そうか、残念だ。お前がいれば助かるんだがな。」
「向こうも大変だから、戻らないわけにはいかないんだ。」
「気にしないでくれ。任務ご苦労だったな。」
「ああ、それじゃあ。」
本部を出た後、すでに外は暗くなりつつあった。
人気のない場所に行って、ゲートの魔法でパルーアに戻った。
館の地下から1階に戻り、食堂に入った。
「おかえりなさい、アーくん。」
「おかえりー。リリーもおかえり。」
「ただいま。」
ただいまなんて久しぶりに口にした気がした。
この一言だけでここが今いるべき自分の家なんだと感じる。
ここでしばらくゆっくり過ごすのも悪くないな。
そんなことを思いつつ、今日の出来事をアンジェとマリアから聞き、
俺も話した。2人はお土産の食べ物をえらく気にしていたが、
明日までおあずけである。




