10?日目-その6
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その6
ぽっかりと穴の開いた部屋の入り口にパルーアの兵士が2人、
驚いた顔をしてこちらを見ている。
「陛下、女王陛下、ご無事ですか。」
兵士の一人が続けてこちらに声を掛けてくる。
「私たちは大丈夫です。」
アメリアが兵士に向かって答える。
「只今、人を呼んで参りますので、お待ちください。」
そう言って、兵士の一人は駆け出していった。
ぽっかりと穴の開いた部屋から出るには一度下に降りる必要がある。
よく見るといつの間にか梯子が掛けられており、入り口とこちら側両方から
丸く窪んでしまった部屋の底に行けるようになっていた。
いつの間に梯子を掛けたのだろう。
そんな疑問はさておいて、俺とアンジェは問題なく降りられる。
マリアも気をつければ問題ないだろう。
ただ、ドレス姿のアメリアには梯子を昇り降りするのは少し厳しそうだった。
「アンジェとマリアはこの梯子で向こうに行ってもらっていいかな。女王にはこの梯子の昇り降りは少々酷な気がするから飛んで向こうに渡るよ。」
「ええ、そうしてくれると助かるわ。アメリアは昔からそそっかしい所があるから、梯子から落ちたら大変だものね。」
マリアはアメリアの方を見てくすりと笑った。
「マリア姉さま酷いわ。」
そう言いながら本人も梯子の昇り降りをする自信は無さそうだった。
まずはアンジェが下に降りる。続いてマリアもゆっくりとだが降りて行った。ゆっくりなのは単に服装の為で足元が見づらい為だ。
下までは5m程もある。
そして通路側に設置された梯子を昇って通路に入っていった。
続いてマリアも梯子を昇った。
「では、俺達も行こうか。しっかりと捕まっていて下さい。」
「フォーリングコントロール!」
「フライ!」
念のため、アメリアにフォーリングコントロールを掛ける。
落下速度を調節できるこの魔法を掛けておけば、
間違っても怪我をすることはないはずだ。
フライの魔法は自身にかけて一気に向こうへ渡る事にする。
「暴れないでくださいね。」
そう言ってアメリアの腰に腕を回し、落とさないように
しっかりと抱えるとゆっくりと飛翔する。
「えっ、ちょっ、キャッ。」
アメリアは突然浮き始めた事で、俺にしがみついてくる。
そして、無事に通路側へ渡った。
「ねえ、アーくん。」
「なに?」
「なんでフライなの?テレポートでいいじゃない。」
アンジェとマリアはむすっとした顔でこちらを見ている。
俺としたことが、確かにテレポートで良かったかも。
「それにいつまでアメリアを抱きしめてるのかしら。」
アメリアもそこまで言われるまでギュッと目を閉じたままで
いつの間にかこちらに渡って来ているのに気づいて、
慌ててしがみ付いているのを止めた。
それと同時に俺もアメリアの腰に回した腕を離した。
「ほ、ほら、こんな狭い中でテレポートを使って失敗したら大変じゃないか。外なら多少位置がズレても問題ないけどさ。ハハハ。」
「嘘ね。」
ギクッ。
「まあ、今回はそう言う事にしておくわ。」
こういう事は少し気をつけよう。
「と、とりあえず、こんな所では何だから、戻ろうか。」
「私はここの警備がありますので、離れられませんから、気をつけてお戻りください。」
兵士の一人が言ってきた。
「ああ、大丈夫だよ。お仕事ご苦労様。」
ここからシグルドの部屋まで1本道だから迷うことはないが、
大広間の縦穴の場所はマップを使わないと迷うかもしれない。
通路の所々にランプが設置されているので薄暗いが
全く見えない訳じゃないけど、アメリアが歩くのは大変そうだ。
異空間収納からランタンを取り出す。
このランタンは、コンティニュアルライトがかかっていて、
魔法をディスペルされない限り、消える事のない明かりを灯す。
これでだいぶ明るくなったはずだ。
「では行きましょうか。」
先頭にはアンジェが、その後ろにマリア。
マリアは自身のワンド、昔使っていた魔法の発動体なのだが、
それにライトの魔法を掛けて持った。
その後ろにアメリアが続き、俺が最後尾でランタンを持って続いた。
大広間に到着した。
確かここではガーゴイルとシグルドの私兵達が戦闘していて、
残ったガーゴイルと俺達で戦った場所のはずだ。
だが、いつの間にか死体もガーゴイルと思しき残骸も無くなっている。
不思議に思い、皆で立ち止まっていると、
奥の方からドタドタと数人が走ってくる音が聞こえてきた。
「アメリア女王。よくご無事でお戻りになられましたな。お怪我はされてませんかな。」
走ってきたモルガン公爵と兵士が10人程であったが、
矢継ぎ早にアメリアに訊ねるのであった。
「アルスもよく無事でいてくれた。心配したのだぞ。」
心配も何もシグルドの部屋に突入してから
数時間程しか経っていないはずなのだが。
「心配も何も別れてから数時間しか経ってないと思うんだけど。」
「何を言ってる。3日も消息が分からず、こちらは大騒ぎになっているのだぞ。」
「は?そっちこそ、何言ってるのか分からないんだが。」
「アーくん、もしかしたら、わたし達本当に3日くらいいなかったかもしれないわ。」
アンジェが考えるように言った。
「どういう事?」
「昔、何かの書物で見たのですけど、精霊界に入った人がこちらに戻ってきたら1年後の世界だったという話があるわ。もしかしたら、それと同じことが起こったのかもしれないわ。」
あー、なるほど。
こっちの世界と向こうの世界では時間の流れの早さが違っているってやつか。
浦島太郎状態だな。
「そうすると、俺達が3日で帰ってこられたのは幸運だったのかもしれないな。それにしても他にも精霊界に行った人間がいるのか。」
「いえ、この話は初代国王の逸話ですわ。」
マリアもこの話は知っているようだった。
「ああ、なるほどね。それよりも結構疲れたし、早く戻って休みたいな。」
「そうだな。女王陛下もお疲れのようだ。すぐに戻るとしよう。」
モルガンの号令の下、兵士達に囲まれてようやく縦穴の所まで来た。
「陛下、申し訳ございませんが、陛下にはこの籠で上に上がって頂きます。」
そこにあったのは、縄梯子とロープで降ろされている籠が置かれていた。
籠は多分物資を降ろすのに使われていたのだろう。
周辺には、バリケードや木箱が置かれているので容易に察することが出来た。
まず、兵士の内一人が昇って行った。
しばらくすると、準備が整ったとの声が聞こえてくる。
アメリアが籠に乗ると、モルガン公爵の合図でゆっくりと
籠が持ちあげられていく。
更に暫くすると、上から無事に到着した旨の声が聞こえてきた。
「では、アルス達はこの縄梯子で上がってくれるか。」
「いや、俺達は魔法で上がらせてもらうよ。アンジェ、マリア。」
俺の意図を汲んで、アンジェとマリアが前に出る。
「ダブルスペル・フライ!」
アンジェとマリアにフライの魔法を掛けると2人はスッと上に飛んで行った。練習の成果もあって難なく上に着けたようだ。
「フライ!」
さっき、掛けた魔法だが途中で効果が切れる可能性があるのでかけ直す。
そして、そのまま飛んで上に上がっていった。
上に上がるとそこにも兵士達が10人近くいた。
天井には滑車が括り付けてあり、その先のロープは兵士達が握っていた。
なるほど、手動なのね。そりゃそうか。
その後、数人の兵士達と一緒にモルガン公爵も上がってきた。
下の兵士たちはどうやら、ここで警備をしている者達のようだ。
部屋を出ると、外は眩しかった。
俺達の感覚からすると、本来夜というか夜中という感覚なのだが、
「今、何時くらい?」
「おう、今は昼を少し過ぎたあたりだな。」
モルガン公爵は歩きながら答えてくれた。
「公爵、貴族の有力者を至急集めて下さい。それと、私たちに軽い食事を。そこで私達に起こった事と今後のパルーアについて皆に伝えなければなりません。」
「御意。」
「それと食事は私の応接間に。そしてアルス様達の分も一緒に用意して下さい。」
モルガン公爵が返事をした後、兵士に頷くと兵士達の数人が
急いで走り去っていった。
女王の応接間で軽く食事を済ませた俺達は
貴族達が集まるまでの残り1時間程休息することにした。
そこでアメリアから貴族達に話す内容を簡単に聞かされた。
「前にも言ったけど、俺が表立って国政に顔を出すと混乱すると思うんだ。アンジェとマリアはそうでなくてもそれが元で国が荒れるのは本意じゃない。だからあくまでもサポートするだけというのを忘れないで欲しいかな。」
「分かっておりますよ。フフフ。」
本当に判っているんだろうか。
時間になり、俺達は玉座の間に移動した。
この国の貴族はそれほど多くはない。
家だけで言えば騎士爵を除けば13家だけらしい。
騎士爵は戦闘で功績を建てた者がなる爵位で純然とした貴族ではない、
いわば継承権のない準貴族的な扱いらしい。
今、集まっているのはこの13家と
騎士団の団長クラスの騎士爵数人がいるだけだった。
俺とアンジェとマリアは雛壇の玉座の脇に立つように言われてそこに立った。
「皆、急な招集に応じてくれて感謝します。知っている者もいるでしょうが、私は第一継承者のシグルドに薬を盛られて連れ去られました。ですが、ここにいるジュノー王国所属のAランク冒険者であるアルス様とその妻であり、元継承者のアンジェリカ様とマリアンジュ様に助けられて事無きを得ました。」
そこまで聞いた貴族たちはオオォと感嘆の声を上げた。
女王が手をかざすとピタッと静まり返った。
「私が連れ去られた場所は、初代から続く儀式の間でした。久しく忘れ去られた場所をどうやってシグルドが知ったのかは今後の調査となりますが、シグルドは私を生贄にして何かをなそうとしたようです。ただ、シグルドもどうやら利用されていたと思われます。シグルドを利用していたのはカッツェ伯爵。彼の正体はデーモンだったのです。」
その言葉を聞いて一気にざわつき始める。
デーモンの存在は知っていただろうが、
よもや自分達の身近に潜んでいる事など想像もできない
といった感じだろう。再び、アメリアが手で皆を制する。
「デーモンは眷属のレッサーデーモンを呼んでアルス様と死闘を繰り広げました。魔法が飛び交い、剣戟を重ね、それは壮絶な戦いでした。私はこの時、確信したのです。アルス様は英雄の中の英雄であると。そして果てる事のない戦いのようにも思えましたが、アルス様はデーモンに致命傷を負わせたのです。ですがデーモンは自身の命を代償に私達を巻き込み自爆したのです。ですが、それもアルス様には予想の範囲だったのです。無力な私達を魔法の力で守り、自爆から救ってくれました。この自爆攻撃でデーモンはシグルドと共に滅び去る事になりました。」
一気に捲し立てたアメリアの話にここにいる俺を除いた全員が
オオォと大歓声を上げたのである。
確か、アメリアは戦闘中どころか精霊界に行ってから目を覚ましたはず。
はっとなって、マリアの方をチラリと見た。
マリアは涼しげな顔をして明らかに視線を合わせないよう
そっぽを向いている。
マリアめ、誇張が過ぎるよ。
アメリアに何があったかの説明はマリアがしていたはず。
精霊界にいた時とこっちに戻ってから通路で
何やら話していたのを憶えている。
暫くの大歓声の後、再び手で制して静かにさせる。
「その戦闘の後、アルス様の導きで私たちは精霊界に足を踏み入れる事となりました。」
あー、そこは確かに間違ってはいないが、
別に導いたわけじゃなくって事故だろ。
「そこで、水先案内人のピクシーのリリーさんのおかげで、最上位精霊と邂逅する事となりました。」
いつの間にか肩の上に乗っていたリリーが貴族達に手を振っている。
「最上位精霊たちは初代国王と契約を結びし者、そして今までパルーアを守ってくれていた者達でした。ただ、その最上位精霊たちの話では初代国王が結びし契約が近年履行されておらず、パルーアを守ってきた力が弱くなっていると。そして、私達にこう言ったのです。契約を破棄するか、継続させるか、新たに結び直すか。そこで私たちは精霊の話と、王族が持つ知識を総動員して、新たな契約を結び直す事にしました。」
貴族達もこの先の話が重要な事だと感じ取って固唾を飲んで聞き入っていた。
「その契約とは、まずこちらの提供するものは初代の頃と同じように魔力を精霊界に送る事。その為の儀式については教わってきました。今までその儀式は国王一人で行っていたもののようですが、今後は10人の選ばれし者達で行っていくことになります。具体的には今まで王位継承者を選んできたペンダント、この証に選ばれた者が行います。ペンダントはパルーアに10年以上定住しているものの中から魔力が大きい者達が自動的に選ばれる事になります。私はこの者達を守護伯爵の地位を当代のみに与える事としました。ただし、守護伯爵は政治的な役割には付けない事も宣言しておきます。そしてこの守護伯爵の任命は証に選ばれた後に国王が任命及び罷免する権利を持ちます。罷免された者はその段階で選定者から外れ、次の選定者に証は移っていく事となります。次に・・・」
政治的な取り決めなど様々な内容が通達されていく。
初めは不安がっていた貴族たちも以前と変わらない処遇という事で
落ち着き始めた。
「最後に、王家の人間は私が最後となりました。このままでは、王家の存続も危ぶまれます。そこで特例ではありますがアンジェリカ姫とマリアンジュ姫の両名を王位継承者として復権させる事にしました。」
ざわっ。貴族たちのざわめきが聞こえると同時に寝耳に水の俺は思わず、
はっ?っと声に出しそうになった。
そして横にいるアンジェとマリアをちらりと見ると
2人とも口をパクパクさせながら驚いているようであった。
どうやら、アメリアの独断といったところか。
先に公表してしまえばこちらのものとでもいうのかもしれない。
ただ、アンジェもマリアもさすがは元王族。
すぐに笑顔で何気ない顔に戻っていた。
ただ、目は笑ってませんけどね。
「そして、我が国を救ってくれた、まさに救国の英雄であるアルス様にも私はこの国にふさわしい恩返しをしたいと思っています。私はアルス様に名誉侯爵の地位を授ける所存です。ですが、アルス様は政治的な地位も不要、権力も不要とおっしゃっています。ですが、今私達がこの救国の英雄に報いる事ができるのは残念ながらこれだけだと感じています。」
「パルーア、万歳。」
「アメリア女王陛下、万歳。」
「アルス名誉侯爵、万歳。」
「アンジェリカ姫、万歳。」
「マリアンジュ姫、万歳。」
貴族や準貴族である騎士爵達、護衛の兵士や使用人達、
その場にいる全員が大きな喝采とともに口々に叫んでいた。
ようやくその場から解放されたのだが、
この後、夜からパーティが催されることになった。
主賓は救国の英雄であり新名誉侯爵の俺、王位継承権が復活した
アンジェとマリアの3人である。
ただ、俺たちは丸一日起きている状態なので疲労はピークに達している。
その為、夜まで部屋をあてがわれて、そこで休むこととなった。
俺は案内された部屋に入るとすぐさまベッドに倒れこみ、
あっという間に眠りについた。
アンジェとマリアも同様だったそうだ。
「アルス様、起きてください。」
体を揺すられて目を覚ますとメイドの格好をした若い女性が
俺を起こすために体を揺すっていた。
「君は誰?」
大きな欠伸をしながら、この女性に尋ねた。
「私はミーシャといいます。アルス様の側仕えを命じられました。どうぞ、よろしくお願いします。」
「ああ、よろしく。えーっとミーシャさん。」
「早速ですが、お時間がございません。服を脱がさせていただきます。」
「ああ、えっ?」
こちらが答える間もなく、されるがまま服を引っぺがされていく。
寝起き間もないこの状態で思考も回らず、混乱の極みである。
よく見るとミーシャの横には桶に入ったお湯があり、
そこにタオルが入っていた。
「お体を拭かせて戴きます。」
その言葉にハッとして、自分の格好を確認する。
よかった、下着まで取られなかったようだ。
それでも他人にしかも初めて会った女性に体を拭かれるのは
何とも恥ずかしい気持ちだ。
一通り体を拭いたら、今度は椅子に座るように言われてそのまま座る。
桶をテーブルの上に置き、髪を洗いだした。
「本来なら、浴室で洗ったほうが良いのですが、お時間もないので、これで我慢して下さい。」
そう言いながらテキパキと髪を洗った。
いつもならクリーンの魔法で清潔さを保っていたけど、やはりお湯はいい。
久しぶりに湯船に浸かりたいものだ。
髪も洗い終わり、乾いたタオルで拭きなおす。
「お着替えはこちらで用意いたしましたので、こちらをお召しください。」
といいながら、着替えも手伝うというか着せられていく。
「ミーシャさんはここでの仕事は長いんですか?」
「いえ、今日が初めてです。それと私の事はミーシャで構いませんよ。」
なんでも話を聞くと今日突然親から登城するように言われて
連れてこられたらしい。
それで気になってさらに詳しく話を聞くと、
事の発端は女王の演説の後にあった貴族間の話し合いから始まっていた。
アンジェとマリアの側仕えのメイドは
以前仕えていた者がいいだろうという事で簡単に決まった。
誰が仕えていたかもモルガン公爵のほうで分かっていたので問題はなかった。
問題があるのは俺のほうだったらしい。
はじめは普通に客人扱いでという流れだったのが
格下の貴族たちが自分の娘にやらせたいというようになり、
それが徐々に自分の娘にやらせるという売込み合戦になり
また名誉侯爵なのだからそれなりの人間でないとダメだとなって
全く決まらなくなってしまったらしい。
さすがに長男や長女の売込みはなかったが、次女や次男、三男や三女など
政治的につながりを作りやすい子供たちが
親の自薦で話し合いも膠着状態となってしまったとの事だ。
だが、時間はそう長くかけられないとして、
あくまで暫定という形でくじ引きで決まったそうだ。
そしてそのくじで当たったのがエバンス男爵家のミーシャなのだという。
俺との繋がりを持ちたい方法として手っ取り早い方法なのだろうが、
自分が寝ている間にそのような不毛なやり取りがあったのは複雑な心境だ。
そもそも俺とアンジェ、マリアは結婚しているんだから、
娘を近づけても意味はないと思うけど。
その事をミーシャに言ったら、首を傾げられてしまった。
俺、首を傾げられるようなこと言ったかな?
それについてはミーシャに聞いて多少理解できた。
というのも、そもそもこの国では一夫一妻制ではなく、
一夫多妻制か多夫一妻制なのだそうだ。
結婚の前提としてどちらかが未婚である事が条件で、
両者ともに結婚している場合は駄目なのだそうだ。
ただし、その事は両者納得の上、神前でもその内容について
制約しなければならないらしい。
ただ、一夫多妻や多夫一妻ではよほどでないとトラブルが多く
上手くいかない事が多いという事だ。
その為自然と一夫一妻で落ち着くのが普通らしい。
それからこの国では離婚は悪徳とされ最悪手とみられ、
離婚に追いやった側は生涯重い足枷を背負うことになるのだとか。
その足枷は単にお金であったり、
使役というほぼ奴隷に近い扱いを受ける事もあるようだ。
その内容の精査にも離縁後の強制力も魔法が使われるという事だ。
また、話し合いで解決する場合もあるが、
その場合両者ともに再婚は非常に難しくすることになる。
また、社会的信用もなくなり、最悪職を失うこともあるらしい。
正直、この話を聞いて背筋が冷たくなる感覚に襲われたが、
ただそれだけ結婚に関して神聖視しているという事で
ある意味立派だとも思う。
そのような話をしていると、使用人の男性から
パーティ開催の知らせが届けられる。
パーティ会場にはミーシャと先程知らせに来た男性の使用人に
案内されて行く事となった。
アンジェとマリアについて聞くと、2人は来る途中にすれ違ったので
既に会場に入ったのではと男は答えた。
会場前まで来ると門衛が来場の知らせを声高に伝えた。
扉が中から開けられ一人で会場に入っていった。
中に入るとワッと歓声が上がる。
ミーシャに教えてもらったとおり、最初に雛壇に向かった。
そこで女王へ挨拶をして主賓である俺が女王をエスコートして
会場のメインテーブルまで連れて行かなければならないらしい。
この流れは皆も知っているようで、女王までの道のりは
しっかりと空けられていた。
雛壇の前で一旦止まり、貴族の礼をする。
「この度は嬢王陛下のご配慮に賜り、至極光栄に存じます。この先は私めがエスコートをさせて戴く事をお許しください。」
「許します。」
その言葉を聞いて、雛壇に上がっていく。
女王の前で手を差し伸べると、女王は立ち上がりその手を取って
一緒に雛壇から降りていく。
女王の後ろには当然ながら護衛の近衛兵が黙ってついてくる。
メインテーブルまで来ると部屋の端に陣取っていた演奏者達が
音楽を奏で始めた。
そしてこれがパーティの開始の合図となる。
パーティが始まると、貴族たちは挙ってアメリア女王へ挨拶にやってきた。
そして、その次にアンジェやマリアの元に行き、
最後にこちらへ挨拶にやってきた。
初めは、名前を律義に覚えようとしたが、途中から諦めた。
ええ、無理です。初見で大量の人間の名前を覚える芸当は
持ち合わせてませんって。
一応、このパーティには爵位持ちと
そのパートナーのみが参加を許されているので、それが救いだった。
これに娘だ息子だといた日には挨拶も碌に終わらずに
時間だけが過ぎたことだろう。
その挨拶もようやく一段落して食事に手を出せるようになった。
「アルス様、お疲れ様。」
声をかけてきたのはアメリアだった。
アメリアの方は慣れたものであっという間に挨拶が終わっていた。
「ああ、お陰様でね。それにしてもあの演説誇張しすぎなんじゃないか。」
「そうですか?マリアお姉さまから聞いた通りにしか話してませんわよ。」
「いや、確かに戦闘の話はギリギリの戦いだったし、それはいいんだけど。救国の英雄なんて持ち上げ方はオーバーだろ。」
「そうでしょうか。現にアルス様がいらっしゃらければ、この国は今頃デーモンに支配されているか帝国に支配されているかのどちらかだと思いますわ。」
「それにしても前に見た時よりも貴族の数が少ないように思えるんだけど。」
「それはパルーアの貴族の半数は騎士爵のせいですわ。男爵以上の貴族はこれだけですわ。」
「そうだったんだな。」
「アルス殿。」
振り返ると、ホフマン伯爵が近づいてきた。
「ホフマン伯爵。」
「心配しておったのだ。3日も行方が分からんのでな。話は聞いておるよ。ずいぶん活躍してきたようだな。」
「そんなことありませんよ。」
「それはそうと、今後の予定を伝えておこうと思っておったのだ。明日、女王陛下と最後の調整を済ませた後、我々は一度、本国に戻ることにした。出発の予定は明後日だ。帝国兵も撤退したことで、帰りやすくなったのでな。それで護衛の件だがパルーアの護衛が途中まで付くことになったのでアルス殿にはここで自由にしてもらって構わない。一緒に戻るのであればやぶさかではないが、そっちも時間がかかるであろう。」
「お気遣い感謝します。」
「なに、また、戻ってくるんだろう。報酬も受け取っておらんだろうしな。冒険者ギルドにはこちらで事情を伝えておこう。」
「重ね重ねありがとうございます。一度、そちらに戻る予定ですけど、まだ予定も決めてないのでよろしくお伝えください。」
「いや構わん。話に割り込んでしまってすまないな。女王陛下にも大変失礼しました。」
ホフマン伯爵は貴族の礼をして立ち去って行った。
「そういえば、まだお伝えしてませんでしたが、城下に継承者専用の館があるのですが、アルス様達にはそちらでお過ごし頂けるよう手配をしています。明日の昼過ぎには移れると思いますので、お好きにお使いください。それと当面アンジェリカ様とマリアンジュお姉さまをお借りすることになりそうです。お二人にはその館から登城して戴くことになるのですが、構いませんか。」
「それはアンジェとマリアに訊いてください。私は構いませんよ。」
「ありがう。ではお二人には私から伝えておきます。」
アンジェとマリアは今、隣のテーブルで他の貴族に
あれやこれやと質問攻めにあっている。
俺のほうにも話を聞きたがっている貴族がいるのだが、
女王の近くにいることでちらちらと見られるだけで寄ってこない。
これはこれでありがたい。
だが、この後、モルガン公爵につかまり、
結局は根掘り葉掘り訊かれることとなった。




