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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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104日目-その5 精霊界

その5


一瞬のまばゆい光に包まれて、目を開けると風景が一変していた。

そこは、まるで林のように見えるが、

よく見ると樹木ではなく黄金色をした枯れ木のような物が

いくつもそびえていた。

そして、今まで真っ暗な場所にいたせいなのか、異常に明るく感じる。

その明るさも、晴れ渡った陽の光ではなく、少し黄色がかったというべきか、

全体が黄金色をしているようにも見える。

さらに、普通では奥を見れば暗く見えるはずだが、

逆に白くなっていっているのも、ここが普通の空間でない事はすぐに判る。

そして地面を見れば、足の感触は地面の上を立っているように感じるが、

まるで水面の上に立っているかのように

地面が波打っているようにも見える。

地面も黄金色をしているので

この世界全体が単色の世界なのかと見紛(みまご)うほどだ。

だが、それも(つか)()

その黄金色の世界が実は(かす)かに多彩な色に一瞬顔を(のぞ)かせているのが判る。

「ここは何だ?」

あまりにも見た事のない想像の域を出た風景に思わず、言葉が漏れる。

あまりの絶景に心を奪われていたが、アンジェ達の事が頭に過ぎり、

後ろを振り返る。

後ろにはアンジェとマリアが自分と同じように、

景色に呆然としている姿があった。

その足元には、リリーが地面にちょこんと座っているのも確認できた。

そしてその後ろにはアメリアも地面に寝そべっている。

あの場にいた全員があの光によって、ここに飛ばされたようだった。

「アンジェ、マリア、リリー。」

3人の名前を呼ぶ。

「あれっ?アーくん、いつからそこに?」

アンジェが不思議そうに答える。

「いつからも何もずっとここにいたけど?」

「えっ?そうなの?名前を呼ばれたと思ったら、目の前にフワッてアーくんが現れた様に見えたから。」

「私も。」

その答えにマリアも同じ状況のようだ。

リリーがいつの間にか肩の上に乗ってきていた。

「ここはね。セイレイカイよ。あまたのセイレイがすまうせかい。」

「リリー話し方が変わった?」

「ここはね。向こうの世界と違って、認識も感覚も違う世界。それが精霊界。」

「やっぱり、話し方が変わってる。」

「それはアルスがそう望んでいるから。」

「私もリリーの話し方が違うのが分かるわ。」

マリアが言った。

「アルスはあっちの世界でも、こっちの世界でも特殊な存在。その存在力が2人にも作用して同じように感じてしまうのよ。もともと、この世界には形作られたものは存在しない。でも今アルスの存在によって、この世界はアルスが感じたものを表現して現している。この世界は精霊のみが存在している世界。」

「つまりどういう事?」

リリーの話し方に圧倒されながらも、話の内容が理解しにくく、訊ねる。

「アルス、精霊を感じて。」

精霊と言えば、土の精霊、水の精霊、火の精霊、風の精霊、

光の精霊、闇の精霊の六大精霊が有名だったか。

そこまで思った瞬間に、目の前の空間が歪み始めた。

地面と思しき場所から3つも不定形なものが、

空間に突然現れた3つの不定形なものが現れた。

それは徐々に形作られていく。

地面から現れたのはドワーフのような姿ではあるが、

小人でとんがり帽子をかぶった、

そう、俺のイメージしていた土の精霊ノーム。

同じく地面から現れた、水色の女性の姿の水の精霊ウンディーネ。

空間から現れた燃え盛る炎を纏った蜥蜴の姿をしたサラマンダー。

同じく空間から現れた、

リリーと同じ姿だが透き通った少し青緑色したシルフ。

そして、地面から現れた真っ黒いフードを被った

まるで死神のような格好をした闇の精霊シェード。

空間から現れた天使のような姿の光の精霊ウィスプ。

「あなたがイメージしている精霊の姿がこれなのね。」

リリーはくすりと笑いながら言った。

違和感を感じつつも妖艶な声音で話すリリーは

不気味さよりも高貴な感じがした。

「さあ、来るわよ。」

リリーが両手を広げて何かを迎え入れるように中空を見つめる。

先程現れた精霊が再び不定形になり、徐々に大きくなっていく。

そしてそれぞれの元素が塊をなし、人型に近づいていく。

まるで巨人くらいの大きさの人型は完全には人の形状こそならなかったが、

明らかに人の形を成していた。

「人の子よ。」

土の精霊であったものが語り掛ける。

「古の契約に基づき再びこの世界に参った者よ。」

風の精霊であった者が続ける。

「此度の来訪は契約の破棄か。」

「新たな契約の締結か。」

闇と光の精霊であった者が続けた。

「契約?契約とは・・・」

言いかけると、直接頭の中に情報が飛び込んできた。


その昔、パルーアを建国した1代目の国王がどんな理由かは分からないが、

精霊界に迷い込んだ。

そして、精霊と契約を結ぶ事になった。

契約の内容は、精霊の加護、それは精霊界に魔力を送る事で

それに見合った力を精霊から借り受ける事。

だが、魔力が送られなければ、その力は徐々に弱まるというもの。

精霊の門の前で儀式を行うと魔力が精霊界に注がれた。

そしてその分の力を行使することが出来ていた。

初代国王が偶々(たまたま)持っていたペンダントは

元々、同じ能力を持っていた物だったが

初代国王はそこに保険を掛けたのだ。

もし、儀式を行えなくなった場合にそなえ、

微々たるものではあるがこのペンダントを通して

精霊界に魔力をそそぐことが出来るように精霊に頼んでいたのだった。

初めは魔力を常に送り続けた時の国王たちだったが、

いつしかその魔力を送る事が無くなっていった。

それは、初代国王のいた時代が英雄の時代と呼ばれる人が

大きな力を持っていたからこそ、成り立っていたからだった。

その力も世代を重ねるごとにある意味退化していった人間の魔力は、

いつしか質の悪い少量の魔力しか送ることが出来なくなっていったのだった。

更に、その恩恵も世代を重ねるごとに薄らいでいき、

終いには儀式そのものを忘れるまでに至っていた。

そしてその魔力も今や枯渇(こかつ)寸前まで来ている。

初代国王は、制約が自然消滅してしまう前に、

自ら血を分けた子孫が再度ここに来られるよう、精霊に嘆願していた。

その代償として、国王は精霊の門の守護者として離れ無い事を誓ったのだ。

ただ、精霊も人間の事情を()み取って

ペンダントを着けた者が2人以上いれば、

一定期間離れられるようにしてくれたのであった。

このペンダントは元々守護のペンダントで

英雄の中の一人が売却する目的で作った物だった。

当時は大した物ではなかったが、この契約の中で精霊の門と繋がった事で

精霊の門に近ければ近いほどその守護の能力が強化されるという

副産物が生まれたのであった。

ペンダントの所持者たちが争えなくなったのも、守護の力が強すぎる為、

守りの力がそのまま相手を傷つけてしまうほどだったのだ。

運の悪い事にそれで死亡してしまう事もあったようだ。

相手も守られているからと思いきや守りの力に対して

守りの力は及ばないのが原因となっていた。

更にペンダントが所有者を自ら選ぶのにも理由がある。

それは初代の血を分けた子孫の中で魔力に優れた者が選ばれる。

それもまた、初代国王が保険として掛けていた物だった。

精霊は時には魔法のような力を振るい、また国王の目となり耳となりで、

あらゆる情報に精通する事が出来ていたのだった。

それは国を守るには巨大な力であっただろう。


精霊の存在もまた精霊界に魔力を送る為の役割を担っている。

精霊自身が例えば火の精霊が物を燃やすと

僅かばかりの魔力を精霊界に送る事が出来る。

土の精霊も植物を育てる事でその植物から

僅かばかりの魔力を精霊界に魔力を送っている。

そうして自然界では精霊と互助の関係が出来上がっているのだった。


そういった情報が頭の中に一気に流れ込んできたのだった。

その為、頭の中が破裂でもするかの如く苦痛が走り、

思わず膝をついて(かが)みこんでいた。

情報が途切れても頭の中では情報の整理が行われて頭痛が酷かった。

ようやく頭痛が収まり、気になって後ろを見ると、

アンジェもマリアも倒れ込んでいた。

気絶こそしていなかったが、頭を抱えて苦しんでいる姿は俺以上に長かった。

能力の低いものでは処理しきれずに気を失っていただろう。

そして、しばらくすると、2人とも頭痛が収まったのか、起き上がった。


「人の子よ。古き契約者の血を受け継ぐものは後ろ者か。契約の破棄か、継続か、新たな契約か、望みを言え。」

「少し待ってくれ。」

そう言って、後ろで気絶しているアメリアの所に行った。

静かに寝息を立てているので、眠らされているだけのようだ。

「鑑定」

アメリアの状態を確認する。アメリアは眠り薬で眠らされているようだ。

「キュア・ポイズン!」

かけてから魔法が発動するか頭を過ぎったが、魔法はしっかりと発動した。

「ん、うーん。」

魔法の効果がなくなったのかアメリアが目を覚ます。

「アルス様?あれ?ここは?」

目を擦りながら、起き上がる。

「キャッ。」

目の前には巨人の姿をした精霊が6体も並んでいれば悲鳴も出よう。

「大丈夫よ。」

横からマリアが声を掛ける。

「マリアンジュお姉さま。」

マリアの顔を見て一安心したのか、周囲をきょろきょろと見回す。

「ここはどこですか?」

「ここは精霊界ね。」

「精霊界?」

どうやら眠らされていたアメリアにはさっきの情報が入らなかったようだ。

その為、マリアがアメリアに掻い摘んで先程得た情報を教えた。

ひとしきり説明を受けたアメリアは現在の状況を多少は把握した。

「つまり、私たちの御先祖様たちは精霊との契約を忘れてしまった為に守護の力つまりペンダントの力が衰えてしまったという事ですね。それで、精霊たちがこの契約を破棄するのか継続するのか、または新しく契約を結び直すのか選べと言っているのですね。」

「そうね。今、このペンダントの正当な所有者と言うべき人は貴方だけですから、貴方が決めた方がいいと思う。」

マリアはアメリアがしっかりと状況を理解できたことに安心した。

「今すぐ答えないといけないのでしょう。私には即断しかねる問題のようにも思えますもの。」

「そうよね。問題のレベルが大きすぎるものね。」

マリアも同意した。

「精霊様、今すぐにお答えしなければならないのでしょうか。」

アメリアは巨人の姿となっている精霊たちに質問した。

「加護の力はもう間もなく尽きてしまう。そうなれば、今の精霊界の門は閉じられよう。そなたらが再びこの世界に来られるとも思えぬが我々としてはどちらでも構わぬ。」

炎を纏ったような火の精霊がそう答えた。

「つまり、破棄するならともかく、ここで決断しないといけないようですね。」

アンジェはアメリアに言った。

「皆さんならどうしますか。」

アメリアは俺達に訊ねてきた。

「とりあえず、今決めなければならないのなら、私は継続を願った方がいいと思うけど。」

「私も同じかな。」

アンジェの意見にマリアも同意する。

「部外者の俺が言うのもどうかと思うけど、ただ同じ内容で契約しても、将来今までと同じような結末になってしまうんじゃないかな。」

「それはどういう事でしょうか。私たちの祖先が忘れてしまったように、この先同じように忘れ去られてしまうという事でしょうか。それでしたら、事の顛末をしっかりと記録に残しておけば、忘れ去られる事は無いのではないでしょうか。」

「本当に?過去のご先祖さんたちもこんな重要な事は何かしら記録に残していたと思うけど、今では記録になければ記憶にもない。何故だと思う?」

「何故でしょう。」

アメリアはジッと考えたが答えが見つからないようだった。

「まあ、色々と考えられるけど、魔力を送るという仕事は国王一人が行っていたと思うんだ。当然、儀式には人を使ったと思うけど、その詳細はその人達には伝えてないと思うんだ。つまり、この儀式の意義ややり方などは一子相伝の極意ってやつかな。それで一子相伝っていえば聞こえはいいけど、国王が突然亡くなったり、伝えるべき事を伝え忘れたりすれば、その内、今のようになってしまうのは目に見えてるよね。それと多分記録や何かも残してはいたんだと思うけど、これを良く思わない人間が出たら、記録や書物などは処分されてしまう。当然頻繁に読み返すような代物ではないから、なくなった事にさえ気付かない事もあり得るよね。」

「それを言ったら、どうしようもないですわよ。」

まるで自分達の先祖が悪いみたいに言われてアメリアは少しムッとした。

それを気付かないふりをして続ける。

「つまり、簡単に言えば一人しか知らないからその人間を失った時に全てが失われることになるんだ。だったら、一人では無ければどうだろうか。」

「複数いれば、誰かが憶えている。確かにそれであれば失う可能性は減りますね。」

「要は、今まで国王=儀式の当事者、それもたった一人だけだったからと言える。一人だけの秘密など羨む人間も出れば独占したがる人間も出てくるだろう。だったら、例えばそうだね。ペンダントは10個ある訳だから、10人が同じ秘密を共有していれば全員が死なない限り、失う事は無くなるはずだ。だけど、ここで大きな問題がある。それは国王がペンダントの加護の力を持てない事だ。ペンダントの所有者は、お互いの敵意から身を守ることが出来る。けれど、国王はそうじゃない。10人の所有者が国王の地位を望んで国王を殺しにくれば、国王は身を守れずに殺されてしまうだろう。殺した者が国王になっても、同じことが起こるか、国王は常に身の危険を感じていかなければならなくなる。それだから、今までこの秘密は国王のみが知る秘密にしていたんだと思うんだ。」

「確かにその通りね。でも、それなら今までと同じ方が良くないかしら。」

アンジェが訊ねてくる。

「そうだね。だから今までそうしてきたんだろう。だから、これは一つの提案として聞いてくれればいいんだけど。国王と儀式をする者を分けたらどうだろうか。国王は国の運営をする人間が、魔力の供給は選んだ10人に行ってもらう。まあ、ネーミングは何でもいいんだけど、例えば魔力を供給する人間を聖職者なり守護者として地位を与える。守護者は国王にはなれない。つまり守護者は政治には参加できないとすれば、どうだろうか。勿論、魔力を送る儀式を疎かにされては問題だから、その辺りは工夫が必要だけどね。それに、魔力の高い者を血族限定にしない事で魔力の低下を抑える事も出来るんじゃないだろうか。ただ、そうすると今度は国王をどうやって決めるかだけど、それは他の国を見本にすればいいと思うんだ。他の国ではこんな特殊な事で国王を決めたりしていない訳だし。国の守りを強化するだけなら、これが一番いいと思うんだ。」

「国を強化するだけなら?」

「そう、完璧な仕組みなんてないからね。例えば10人が今の国王じゃ駄目だと全員が反旗を(ひるがえ)したら、国王に勝ち目はないよね。そうなれば、10人による傀儡(かいらい)国家の誕生になるね。それを恐れて10人の言いなりになったら、それもまた傀儡国家の誕生という結末を迎える事になる。法律なんかで縛る事も出来るけど、所詮、人が決めた事は人が壊す事もできるからね。でもそれは別に今の貴族社会でも同じことが言えるわけだし、国王と10人の関係性次第じゃないかな。まあ、他にも方法がない訳じゃないから、そこは気にしなくても

いいんじゃないかな。」

「他の方法って?」

アメリアは俺の意見を真摯(しんし)に考えてくれているようだ。

「例えばそうだね、10人の選定はペンダントが勝手にやってくれるよね。それの罷免(ひめん)を国王が出来るようにすれば一方的にならないと思うんだ。国王に敵対した時点で守護者で無くなれば加護はなくなるからね。」

「なるほど、勉強になります。」

意外とアメリアは柔軟な思考の持ち主のようだ。

「でもそんな事は可能なのでしょうか。」

「それは精霊に訊かないと分からないよ。」

そう言って精霊の方へと向き直る。

「精霊たちよ。今の話は聞いていたよね。契約を更新するのに、多少変更を加える事は可能なのか?」

「国王とやらが加護の力を持つものを外す事は可能だ。ただしその場合、我々がその国王が誰かという事を知っている事が条件となる。」

「それは精霊の門の前に来れば出来るのか、それとも俺達のように精霊の門に入る必要があるのか。」

「その場合は精霊の門の前で(あかし)の受け継ぎの儀式を行ってくれれば問題なかろう。」

俺は振り返り、アメリアを見る。

「色々と問題もあるようですけど、アルス様やアンジェリカ様、マリア姉さまが助けてくれるなら契約の変更をしたいと思いますわ。」

「もちろんよ。私たちも力になるわ。」

マリアは力強く答える。

「アンジェやマリアはいいとして、俺は表立ってやらない方がいいと思う。この国では俺は外様だからな。協力できるところは協力するでいいか。アンジェとマリアもそれでいか。」

アンジェは何故か俺の方をじっと見ていたが、

マリアの強い意思表示に流されたか頷いて同意した。

「では、精霊たちよ。我々は、契約を変更しての更新を行いたい。魔力供給は今まで通り行うが、魔力供給を行うのは証に選ばれた10人が行う。10人の選定は、この都市に10年以上定住している者の中から魔力の高い順に行うものとする。証に選ばれた者は、この国の国王で儀式を行った者であれば、証を剥奪し、その時点で次の選定者へ移行させるものとする。そしてこの効力の開始は俺達で決めさせて欲しい。もちろん、近日中に行うつもりだ。」

「その契約承諾しよう。証を前に。」

アメリアのそばにあったペンダントをアメリアが拾い集め、

精霊の前に差し出す。

ペンダントが光に包まれて、中空へと上がっていく。

6体の巨人のような姿の精霊が一斉に片腕を突き出すと、

魔力の奔流がペンダントに集まる。

それが終わると、ペンダントはゆっくりとアメリアの手の中へと戻ってきた。

「これで新たな契約が結ばれた。契約が破棄されんことを願う。儀式については直接汝らの頭の中に植え付けさせてもらった。」

光の精霊が言った。

「ところで、アルスよ。お主から気になる雷と炎の波動を感じるのだが、心当たりはあるか。」

闇の精霊が俺に話しかけてきた。

雷と炎の波動?もしかして剣の事か?

「これの事か?」

異空間収納の中から雷神剣と

レッサーデーモンが持っていた炎の剣を取り出した。

「なるほど。面白い物を持っているようだな。だが、それは歪な形で封印されているようだ。我らが元に戻してやろう。」

すると先程のように2振りの剣は中空へと上がる。

雷神剣はそれぞれの精霊から放たれた魔力に包まれる。

「封印よ霧散せよ。」

闇の精霊が言う、

「眠りから目覚めよ。」

水の精霊が言う。

「力を取り戻せ。」

火の精霊が言う。

「能力を解放せよ。」

土の精霊が言う。

「あるべき姿に顕現せよ。」

風の精霊が言う。

「新たな主を選べ。」

光の精霊が言う。

6つの光に包まれた雷神剣は一瞬、何かの獣のような姿を現したが、

再び剣の姿に戻った。

「今のアルスならば使えよう。」

光の精霊が言うと雷神剣が手元に戻ってきた。

雷神剣を握った瞬間、魔力を吸い出されるかのような感覚に襲われた。

いや、実際にじわじわと吸い込まれている。

「抑え込め。」

どの精霊が言ったのか分からないが、

雷神剣の力を抑え込むイメージが流れてきた。

そのイメージに沿って、ありったけの魔力を流し込む。

すると急激に抵抗感がなくなり、魔力も吸われなくなった。

「従えたな。」

闇の精霊が言う。

「では、もう一つもいくか。」

土の精霊が言う。

「ちょっと待ってくれ。」

一旦、ステータスを確認すると、

510あったMPが半減どころか残り220と半分以上減っていた。

「もしかして、そっちも同じような事があるのか。」

「そうだ。」

「そうだ、って先に行ってくれよ。その炎の剣も同じ強さなのか?」

「ほぼ同じだ。その剣は上位精霊が宿っている。だが、今はその力の大半が封じられている。長年封じられていたせいでその力も今は弱くなっている。いずれ消滅する事になるだろう。だが、ここで解放すれば取り戻す事ができる。」

「取り戻す前に一つ訊いていいか。解放された剣は俺以外も使えるのか?」

「主と認められればな。認められないまま使おうとすれば、魔力を吸われて、最悪死に至るだろう。」

「マジか。」

「安心するが良い。使おうとさえしなければ、余程弱い魔力の持ち主以外は死ぬことはないだろう。」

「それって弱い魔力の人間が触ったらそれだけで死んじゃうって事じゃないの?」

精霊からは何も返事がない。

しばしの沈黙の後、俺は大きな溜息をついた。

でも強力な剣が手に入るチャンスでもある。

今のやり取りでMPもだいぶ回復した。これならば、大丈夫だろう。

「よし、やってくれ。」

そういうと、中空に上がったままの炎の剣に先程と同じように

精霊が力を取り戻していった。

再び、俺の手元に剣が戻ってきた。

今度は、先程と違い、心の準備も出来ている。

魔力を吸われる前に、こちらから魔力を一気に流し込んでいく。

炎の剣が一瞬、暴れようとしたが、しっかりと握りしめ、

魔力を濁流の如く流し込んだ。

先程と同じように、抵抗感がなくなった所で魔力を流すのを止める。

「これでその2振りの剣はお主を主と認めた。」

「これからそなたらを元の世界に戻そう。」

すると、視界が一瞬ホワイトアウトしたと思ったら、像の前に立っていた。

「女王陛下、アメリア女王陛下。」

この部屋の入り口には2人の兵士が立っていた。


             つづく

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