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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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104日目-その4 アメリア救出

その4


落下速度を調節しながら、ゆっくりと穴の底へ降り立った。

ランタンの明かりだけでは数m先までしか見えないが、

降りた先は人工的に造られたと思われるしっかりとした石造りの場所だった。

雰囲気的にはダンジョンに近いのだが、

索敵には魔物のいる気配は今のところない。

「ここは何でしょう。」

アンジェは素早くロープを外し、剣を抜いて警戒する。

「遺跡でしょうか。」

マリアも命綱の代わりにしたロープを外しながら率直な感想を言った。

「あれを見て。」

俺が指した先は元々ロープが垂れていたと思われる所なのだが、

人がいたと思われる足跡がいくつもあった。

「こういう時はジェスがいてくれると助かるのに。」

素人の俺ではその足跡が古いモノか新しいものかはよく分からない。

ただ、ある方向に向かって行ったのは俺から見てもすぐに判った。

「10人くらいはいそうですね。シグルドでしょうか。」

あの部屋から降りたのだから、シグルド以外は考えられないだろう。

追うにしても、この足跡が古いものだったら、無駄足になってしまう。

そこで、足跡を鑑定のスキルで見てみることにした。

鑑定で分かったのは、この足跡は最近付けられたもので

新しいというのは分かった。

「新しい足跡みたいだね。古い足跡もあるみたいだけど、それは今は無視していいかな。」

鑑定した中に古い足跡も混ざっていた。

古い方は少し埃をかぶって足跡自体が薄くなっている。

「アンジェとマリアは追跡のスキルは持ってる?」

二人は首を横に振って答えた。

「そうだよね。じゃあ、ちょっと2人は周囲を警戒していてくれる?」

そう言って、スキルの画面を開く。

確か、追跡スキルがあったはず。

画面の中から追跡スキルを見つけた。

スキルレベルを最大の5レベルに上げた。

ここで見失うようなことがあれば、無駄足になってしまう。

「よし、追跡するから、ついてきて。」

索敵の範囲から外れているのは分かっているから、

かなり離されているのは分かっている。

この遺跡だかダンジョンだか分からないが、

もしパルーアの領域から外に(つな)がっていた場合

アメリア女王を連れ出していたのなら早く探さないと手遅れになるだろう。

しかし、その心配をよそに数十m進んだ所で、

索敵に引っかかった集団が現れた。

だが、数がおかしい。

この足跡の数は精々(せいぜい)10人程、しかし索敵にかかった数は30程もいる。

一旦止まり、索敵のマップで確認することにした。

人間が10、いや、今一つ消えたから9。他はガーゴイルだ。

数はかなりいる。

ガーゴイルの方も調べている間に何体か消えたという事は倒したのだろう。

「この先で人とガーゴイルが戦闘をしている。急ごう。」

気持ちは走っていきたいが、足跡を追跡しながらでは難しい。

降りてきたこの空間はかなりの広さだったが、

足跡はそこから1本の通路の中に入っていっている。

そして通路の中はいくつか分岐になっていているのだが、

この辺りから足跡が薄くなっていたので、更に慎重に進む必要が出てきた。

索敵では、すでに両方とも半数が消えている。

人間の方は残り5人、ガーゴイルは8体となっている。

「急がないとかなりマズいな。」

急ぐ気持ちを抑えながら、進んでいくと、下る階段が現れた。

ここまで来た時には人間の方の3人が

戦域から離れて行っているのが分かった。

2人が残り6体のガーゴイルと戦闘をしていると思われる。

階段を降りて行った先にまた、広い空間に出ることが出来た。

この空間は薄らと壁自体が光っており、

明かりが無くても空間の中を見渡す事ができた。

その空間の中では3体のガーゴイルが

残った最後の一人に止めを刺したところだった。

ガーゴイルは新たに入ってきた俺達に気付いて、

飛んでこちらに向かい始めた。

距離は20mほどあるので、魔法で先制攻撃が出来る。

「2体は俺が引き受けた。残り1体を頼む。」

すでにガーゴイルは半分の距離を詰めてきている。

「ダブルスペル・ライトビュレット!」

真っ直ぐに突っ込んできたガーゴイル2体を光弾が貫通し、

そのまま落下し、まるで石像を落としたかのように粉々になった。

隣では、マリアが同じように光弾を放ち、

ガーゴイルにダメージを与えていた。

ガーゴイルの羽の部分が破壊され、その勢いのまま滑り込んできた。

アンジェは滑り込んできたガーゴイルを一刀のもとに切り伏せた。

そのガーゴイルも斬られた後にボロボロと崩れ去った。

この空間に残されたのは、瓦礫(がれき)となったガーゴイルと

6体のパルーアの騎士の格好をした亡骸(なきがら)

魔術師と思われる格好をした亡骸が1体だけとなった。

ガーゴイルの近くには魔石が20個、これはすぐに確保して

死体をざっと調べてみたが、これと言った物は持っていないようなので

あとで調べ直すことにした。

この空間の先には、また通路となっていて、

そちらに残りの3人の反応があるのを索敵で確認した。

3人の歩調はゆっくりとしたもので、急げばすぐに追いつけそうだ。

「この先の通路に行ったみたいだね。急げばすぐに追いつけそうだよ。」

「それなら、死体はこのまま放置しておいて先に進みましょう。」

アンジェも同じ考えのようでマリアの言葉に頷いた。

残りの3人は、通路の先にある明るい空間の中に

入っていくのが薄らと見えた。

「見えたよ。」

そう言って走り出す。


明るくなっている空間に辿(たど)り着くと、

そこは神殿を思わせるような場所だった。

だが神殿と違い、荘厳(そうごん)さは感じられず、

どちらかと言うと禍々(まがまが)しさを感じる(おもむき)である。

その一番の要因は、この空間の奥に女性の体つきをした

大きな像が建てられているからだった。

その像は体つきこそ人間だが、四肢(しし)の先は不定形な形をしており、

顔も形は人間のようにも見えるが表情はなく、

髪に至っては、まるでメドゥーサのように

蛇のような感じで四方に広がっていた。

「誰だ。」

声を上げたのは、シグルドの隣にいたカッツェ伯爵だった。

そしてシグルドは(いびつ)な女性の像の前にある台座に

アメリア女王を乗せている所だった。

アメリア女王は気を失っているらしく、微動だにしていない。

索敵から間違いなく反応はこの3人のものだと確認した。

「おやおや、これはこれは、ネズミが3匹紛れ込んだようですな。」

「あなた達は何をしているのです。女王をこんな所に連れ去ってきて。」

「貴様らには関係のない事だ。これはパルーアの為である。それに貴様には言ったはずだ。女王に近づくなと。分かったら、さっさと失せろ。」

シグルドはアメリアの方から向き直り、アルスに言った。

「それは出来ないな。明らかにお前はアメリア女王に害を及ぼそうとしている。アメリア女王はこちらで連れ帰らせてもらう。」

「言ったはずだ。これはパルーアの為であると。今からアメリアは王としての責務を果たしてもらう。」

「なにがパルーアの為だ。どう見たってパルーアの為ではなく、お前の為じゃないのか。」

「ごちゃごちゃと五月蠅(うるさ)いガキだ。」

話に割って入ってきたのはカッツェ伯爵だった。

「五月蠅いのはあなたよ、強いものに()びへつらって、自分が強いとか偉いとか勘違いしちゃって、あなたを見てると虫唾(むしず)が走るわ。」

マリアがカッツェ伯爵にいつにもなく罵声(ばせい)を浴びせた。

「クックックッ。やはりお前は俺がいただこう。今なら許してやる、ひれ伏して、そして()いつくばってこちらに来い。」

カッツェ伯爵の表情が歪んでいるのがわかる。

「話にもならないわね。いつもあなたの言ってることは支離滅裂(しりめつれつ)だわ。」

「それから、忌々(いまいま)しいアルスよ。貴様は俺自ら八つ裂きにしてやる。」

そういうと、カッツェ伯爵は立ったままで体を丸めると、

うめき声を上げ始めた。

「な、なんなの?」

マリアがその様子に驚いて一歩後退った。

「ウガアァァァ」

先程までカッツェ伯爵だったものは、ゴボゴボと音を立てながら、

姿形が変わっていく。

「ブフアァァ」

そこにいたのはカッツェ伯爵ではなく、魔物の姿だった。

すぐさま、鑑定を行った。

「・・・デーモン。レベル30。」

この間、現れてかなり苦戦したのはレッサーデーモン。

デーモンはその上位種。

レベルはレッサーデーモンと同じだが上位種であるという事は

明らかにレッサーデーモンより強いはずだ。

「さっさと契約に基づき、排除せよ。」

シグルドが淡々とデーモンに言った。

「少しは(たの)しませろ。貴様は貴様で早く済ませろ。だが、奴は俺の眷属(けんぞく)の1体を打ち破った奴だ。3対1では万が一もある。ここは確実に行かせてもらおう。」

「眷属召喚!」

デーモンの前に魔法陣が光を放ち現れる。

それは召喚陣で、そこから、前に戦ったレッサーデーモンが姿を現した。

向こうがシグルドと話をし始めた時に

こちらもアンジェとマリアに指示を出す。

「全力で戦闘準備。」

それだけを言うと、魔法を発動させた。

「ダブルスペル・マジックシールド!」

「ダブルスペル・アースシールド!」・・・・・

防御魔法をアンジェとマリアにかけていく。


以前寝る前に、もし強敵が現れた場合の対処について話していたことがある。

アンジェとマリアは魔法をかける時に詠唱が必要である。

その為、突然の戦闘では防御魔法が間に合わない事が多いという。

その弱点を無くすために、マリアが使えない魔法を中心に

2人にかける事にしていた。

マリアも自身が使える防御魔法を掛ける事で、補うというものだった。


召喚されたレッサーデーモンが覚醒状態となったのと

3人の防御魔法を掛け終えたのは、ほぼ同時であった。

そして雷神剣(ライトニングソード)とミスリルショートソードを取り出す。

アンジェも自身の剣にエンチャントフレイムウエポンの魔法を掛けた。

「アンジェとマリアは現れたレッサーデーモンを。俺は、デーモンの相手をする。」

今回現れたレッサーデーモンは武器を持っていなかったが、

レッサーデーモンを始め、デーモン種は固有の能力を持っており

一概(いちがい)に見ただけでは、どんな能力を持っているか、分からない。

「2人とも無理はしないで。いざという時は引いてくれて構わない。」

それだけを言うと、一気にデーモンとの距離を飛んで詰めていった。

デーモンは異空間収納のような所から一振りの斧を取り出し、振り下ろした。

咄嗟(とっさ)に横へ軌道を変えて、ギリギリのところで避ける。

そして避けた瞬間に魔法を放つ。

「ファイアランス!」

炎の槍は確実にデーモンへと当たったように見えたが、

何かの障壁で直撃することはなかった。

「その程度か。お返しだ。」

そう言うと、同じような炎の槍がこちらに飛んでくる。

ダメージこそ無かったが、マジックシールドが1発で吹き飛んでしまった。

相手も無詠唱で魔法を放てるのなら魔法戦に持ち込むのは厳しそうだ。

「ミラーイメージ!」

「マジックシールド!」

幻影の分身を作りつつ、切り込んでいく。

それに対してデーモンは大きな斧を横に()ぎ払い、

2体の分身はあっけなく消え去った。

だが、その隙に雷神剣でデーモンの横腹に切り込むことが出来た。

「くっ。硬いな。」

切り込んだもののあまりの硬さにかすり傷程度しか負わせられなかった。

能力強化がかかっていてもこれでは、かなり厳しそうだ。

だが、雷神剣の追加攻撃の雷撃はデーモンの魔法防御を

1つ消滅せしめたように見えた。

再びデーモンが斧を振り戻そうとしていたので、後ろに飛び退った。

俺の目の前を斧の一閃がギリギリのところを通過する。

「あぶなっ。」

今のところ、速さだけはデーモンに勝っているようだ。

しかし、力も固さも断然向こうの方が上で

魔法に関しては同程度と見なした方が良さそうだ。

小癪(こしゃく)な。イクスプロ―ジョン!」

デーモンが片手を突き出し、魔法を放つ。

咄嗟に横に飛んで直撃は避けたものの、爆風で飛ばされる。

「ガハハハッ、踊れ踊れ。」

デーモンはイクスプロ―ジョンを連続で放つ。

高速で飛行しつつ、回避するが爆風までは避けられず、

じわじわとHPを削られる。

「アンジェ、距離をとれ。」

その言葉にアンジェとマリアが攻撃魔法をレッサーデーモンに叩き込む。

そして、それと同時にアンジェは一旦レッサーデーモンと距離を取る為、

後ろに飛び退(すさ)りながら後退する。

「テレポート!」

デーモンとレッサーデーモンが直線状になる場所に瞬間移動する。

「ハイデンスペル・ダブルスペル・ダイヤモンドダスト!」

放射状に発した冷気で部屋中の温度が急激に下がる。

放射状の攻撃範囲にいたレッサーデーモンとデーモンに

最大効果のダイヤモンドダストが襲い掛かる。

「グガアアア」

単発では魔法防御を破るだけだっただろうが、

2発同時のダイヤモンドダストで確実にダメージを与えた。

レッサーデーモンは半分凍った状態で、動きを鈍らせている。

デーモンは真後ろから魔法を受けた事で防御も出来ずにいた。

「マリア、今よ。」

「フォース!」「フォース!」「フォース!」

フォースは光魔法で魔法の中で唯一、詠唱の必要のない魔法だ。

その為、連射が可能であるのだが、

他の魔法よりも消費魔力が大きいのが欠点だ。

マリアが撃った3発のフォースは全弾命中し、

腹部の一部を(えぐ)る形で破壊した。

その機を見逃さず、アンジェもレッサーデーモンに接近し攻撃する。

「はああ、贄剣斬(しけんざん)!」

アンジェの剣がマリアが抉った腹部から真横に薙ぎ払われる。

レッサーデーモンはその斬撃で体を2つに裂かれ、上半身は地面に転がる。

それと同時にアンジェの持っていた剣は粉々に崩れ去ってしまった。

それを見たデーモンはアンジェに向かって腕を上げて

先程のイクスプロ―ジョンを放とうとした。

だが、それより早く、デーモンの目の前で爆発が起き、

デーモンはバランスを崩して魔法を命中させることは出来なかった。

ただ直撃こそ免れたが、爆風でアンジェは吹き飛ばされる事になった。

「おいおい、デーモン。勝手に相手を変えちゃ、困るんだよね。」

「フン、人間風情(ごと)きが。あのお方が随分と危険視する理由がようやく分かった。貴様にはここで消えてもらう。だが、その前に。」

そう言うとデーモンはシグルドに向かって魔法を放った。

「ロック・スピアーズ!」

シグルドの足元から石の突起が槍のように数本現れて

シグルドを無残に突き刺した。

「がはっ、なにを・・・」

石の槍はすぐに消え去り、同時にシグルドはその場に倒れ込んだ。

「お前は一体、何してるんだ。」

「フハハハ、奴がペンダントを外すこの瞬間を待っていたのだ。我の役目の一つ、この国の王族を根絶(ねだ)やしにする事。それがあのお方の望みだからな。」

ペンダントが横たわっている女王の台座に並べられているのが

辛うじて見えた。

「ペンダントを外すのを待っていた?」

「あの忌々(いまいま)しいペンダントの守りはあのお方をもってしても打ち破れぬ。だったら、ペンダントの所持者を全て殺してしまえばいいとは思わんか。だが、その為にはペンダントを外させる必要がある。あのペンダントは自ら外さなければ外す事は出来ないのだ。だから、我がこうして、こやつに近づき、その時を待っていたのだ。これでこの国を滅ぼすのも時間の問題だ。」

「なぜ、この国にこだわる?こんな小国、こだわる価値などないと思うがな。」

所詮(しょせん)、人の子。無知よのう。ならば冥途(めいど)土産(みやげ)に教えてやろう。なぜあのペンダントが数百年も経つのに老朽化一つせず存在できるのか。魔道具と言っても所詮は人間の造りし物。時間が経てば()ちていくのが道理。にもかかわらず、そうならないのはこの地が精霊界と繋がっていて、そこから無尽蔵に魔力が補充されていたからだ。だが、そこは人間のする事。そんな事も忘れ、ペンダント自体の魔力の補充が切れかかっている。だが、完全に力を失うまで、まだ百数十年はかかるだろう。ペンダントの使い方も魔力の補充も忘れ去った人間が勝手に自滅するとしても、流石にあのお方もそこまで待つ気はない。王族を皆殺しにし、ペンダントはあのお方に献上(けんじょう)させてもらう事にする。さすれば、あのお方も無限の魔力を得て更にお力をつけられ、この世界の唯一神として君臨するだろう。ブァハハハ。」

さて、時間を稼げたおかげで、減ったHPもMPも全回復できた。

アンジェとマリアも隅でポーションを飲んで回復したようだ。

「俺がそんな事を見逃すとでも思っているのか。」

「貴様こそ人間風情が我を倒せるとでも思っておるのか、この身の程知らずが。」

「イクスプロ―ジョン!」

「テレポート!」

デーモンと俺は同時に魔法を発動した。

爆発で床が抉られ、砂ぼこりが上がる。

「ハイデンスペル・ライトニングバインド!」

後背に瞬間移動した俺は雷の網(ライトニングバインド)を投射する。

雷の網はデーモンを捉えたが、

抵抗値の高いデーモンにはそれほど大きなダメージを与えられない。

だが、デーモンが動くたびにダメージを与え続ける事にはなる。

デーモンはそれを意に介さず、こちらに振り返りながら魔法を放つ。

「ファイアランス!」

「アイスジャベリン!」

デーモンが放ったファイアランスが俺のマジックシールドを吹き飛ばす。

同時に放った俺のアイスジャベリンもデーモンの魔法障壁を吹き飛ばした。

「魔法の撃ちあいか。面白い。」

「マジック・プロテクション!」

余裕を見せるデーモンに対して切れかかった防御魔法を張り直す。

「ファイアランス!」

「アイスジャベリン!」

ファイアランスとアイスジャベリンの応酬が十数回繰り返される。

こちらは、プロテクションフロムファイアとマジックプロテクションで

ダメージを軽減しているとはいえ、HPを半分削られてしまっている。

デーモンも予想外だったらしく、

かなりのダメージを負っているように見える。

「貴様、本当に人間か?」

「それ以外に見えるか?」

「どうだ、貴様。ここまで戦えたことに敬意を払い、我と契約し、望みを3つ叶えてやろう。」

悪魔の契約か。

「それで、望みを叶えた後、俺の魂を喰らうってか。」

「ほほう、どうやら契約について少しは知識があるようだな。」

俺の言葉にデーモンは舌打ちしたようにも見えた。

デーモンでも舌打ちするものなんだな。

「なんでも叶えるぞ、世界一の金持ちになる事も美女に囲まれた酒池肉林のハーレムも世界の王になる事も出来るのだぞ。」

「小さいな。」

「なに?」

「小さいって言ったんだよ。その程度のもの、俺が望むとでも思っているのか。所詮、お前には俺の望みを叶えられるはずないからな。」

「そんなことはないぞ。」

「それに、お前の契約が完全に履行される保証もないからな。そこのシグルドがいい例だ。貴様はシグルドの望みを叶える前に奴を殺した。違うか。」

「奴の望みなら叶えた。そして最後の望みは不老不死だ。奴の魂は我に喰われ永遠に我と共に生きるのだ。グァハハハ。」

「それだよそれ。お前の叶える望みは、本当の望みじゃない。上げ足取りの詐欺師でしかないだろ。」

「我を侮辱するか。」

「侮辱も何もお前はその程度の存在だよ。」

「ならば後悔するが良い。貴様もその仲間も王女も全て滅びるが良い。」

「テレポート!」

王女が寝かされていた台座の裏にテレポートする。

「その程度の物、一緒に吹き飛ばしてくれる。」

「フレアバースト!」

「セイクリッド・バウンダリィ!」

超高熱の炎がデーモンを中心として拡がっていった。

床も天井もその熱で蒸発していく。

だが、その蒸発していく中、叫び声が(とどろ)いた。

その後、一瞬暗闇に落ちたが、この部屋にあった像が薄らと輝いている。

そしてデーモンが、自分の放った魔法に焼き焦がされて

瀕死(ひんし)(てい)で横たわっていた。

俺の前にあった台座も俺の最上級の結界魔法の外側にあった部分は

綺麗になくなっていた。

アンジェとマリアは俺がデーモンと戦っている内に

アメリア女王とペンダントを守るためにこっそりと台座の後ろに回っていた。

俺も、それをデーモンに気付かれないように、

敢えてデーモンの死角になるように魔法の撃ちあいを演じて見せたのだ。

「な、に、が、あ、っ、た。」

瀕死になりながらもデーモンは自問していた。

「いやあ、俺もまさかこんなことになるとは思ってもいなかったよ。像には何か魔法的なものが掛かっているのは分かっていたけど、ちゃんと鑑定する暇もなかったからね。だけど、自分の魔法で自滅するなんて、自業自得だね。」

そう言って、雷神剣を大きく振り上げる。

「ま、まて。我がお前に仕えよう。だから・・・」

「いやだね。」

そう言って、雷神剣をデーモンに突き刺す。

デーモンは断末魔(だんまつま)を上げて息絶えた。

すると、デーモンは風化するように消え去ってしまった。

薄らと光っていた像は、徐々に光を失っていく。

「コンティニュアルライト!」

暗くなる前に唯一残された床であるデーモンがいた場所に魔法の光を灯した。

床は半円状に抉られて、天井もまた球状に消え去っていた。

唯一残されているのは、デーモンが立っていた場所の床と

俺の結界が張ってあった場所と像のある場所だけだった。

「みんな無事か。」

「ええ。なんとか。」

「ほんと、死ぬかと思ったわ。」

マリアはあまりの事に床にぺたりと座っている。

アンジェはアメリアの様子を見ている。

「アメリアも大丈夫そうよ。」

「そう。それにしてもこの像、なんだろうね。鑑定!」

「精霊界の門?」

「ねぇ、アーくん。何がどうなったの?」

「そうだねー。まず、2人が俺の考えを()み取ってくれて助かったよ。ありがとう。」

「えっとね。あれはリリーのおかげなんだよ。」

マリアが答える。

「リリーの?」

「そう、私たちがポーションで回復してる時に姿を消してたリリーが言ったの。『あるすがたたかってるあいだにおうじょをうばっちゃえ』って。たしかに、あの戦いでは私たちじゃ足手まといにしかならないし、呆けていても仕方ないしね。それでアメリアを救出するつもりで台座の方に向かったのよ。」

「そうだったのか。リリー・・・リリー」

周りを見てもリリーの姿がいない。

「リリー」

大きな声で呼んでみる。だが返事はない。

索敵マップを出して確認する。

するとマップ上にリリーの反応はあった。

ちょうど台座の陰になっている部分だ。

「リリー。」

呼びながらそっと台座の陰を覗き見る。

リリーは台座の陰にちょこんと座って、像をボーっと見つめていた。

「リリー、どうしたの?」

「あー、あるすー、なんかね、なつかしいかんじがするのー。」

そう答えながらも、リリーは像から目を離さなかった。

「あの像を見た事があるのかい?」

「んー、わかんない。けど、わかんないけど、なつかしい。」

リリーに分からない事が俺に分かるはずもない。

「この像は精霊界の門らしいね。」

アンジェとマリアにそう伝えた。

「精霊界の門?どこかで聞いた事があるような名前ね。マリアは知ってる?」

アンジェがマリアに訊ねる。

マリアは頬に手を当てて考え込んでいる。

「何だったかしら。確かに聞いた事があるような無いような。でも思い出せないわね。」

軽く首を振って答えた。

「分からないものは仕方ない。それで、どうなったかの説明だよね。2人がアメリアの方へ動くのを見て、デーモンに気取られないよう死角になるように動いて、わざと魔法の撃ちあいにしたんだ。それでお互い結構なダメージを受けちゃったからかデーモンは俺と取引しようと話しかけてきた。だけど、俺のいた世界にも悪魔の契約の話があってね。その悪魔の契約を成功させることが出来たのはたった一人の人物だけなんだ。まあ、この話自体が架空の話だと思うけどね。だって、元居た俺の世界にデーモンみたいな悪魔なんていないからね。で、その話を持ち出したら当たっちゃってね。結局、時間は稼げたから良かったけど、全員を巻き込む攻撃をしようとしたんだ。それで、テレポートでみんなの所で結界を張って凌いだんだ。だけど、その範囲攻撃でどうやら、像にかけられた魔法によって反射の魔法なのかな?自分で撃った魔法を自分が喰らうという間抜けな結果になったのさ。」

「そうだったのね。ってことは、この像は魔法で守られているってことかしら。」

「どうなんだろうね。鑑定では名前くらいしか分からなくてね。調べるか放置するか、今すごく悩んでる。」

「お城の地下にあるんだから、なにかパルーアに関係するものだと思うんだけど。」

「城の地下にあるからと言って、それがいい物とは限らないでしょ。何か封印されている物だって可能性もある訳だし。」

「確かにね。触った途端、何かの封印が解けて襲われでもしたら今のわたし達じゃあ、危険すぎるわね。」

「その通りなんだけど、リリーも何かは分からないけど、懐かしいって言ってるから、それ程危険なものじゃないと思うんだよね。」

再び像を見てみる。

すでに周りが薄暗くなっていて、像の上の方は暗くて見えない。

「うーん、よし、調べてみよう。」

スッと手を伸ばして像に触ろうとした。

「ちょっと、危ないわよ。」

「止めなさいって。」

2人が俺の服を引っ張るのと俺が像に触るのは、ほぼ同時だった。

そして、その瞬間、俺達はまばゆい光に包まれた。


                  つづく

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