104日目-その3 行方不明の女王
「ジュノー王国ご一行様が参られました。」
王座の間の兵士が中に伝えて扉が開かれる。
普段、王座の間には玉座しかないのだが、
急遽大きなテーブルが運び込まれて
地図やら何やらがテーブルの上に散乱していた。
「アルスよ。よくぞ参った。兵士達から聞いておるぞ。魔物どもを蹴散らしてくれたそうだな。本当にありがとう。」
俺達の姿を見るやモルガン公爵が歩み寄ってきた。
そして握手を求めるように手を差し伸べ、握手する。
「それで、どういう状況なんですか?」
後ろにいたアンジェがモルガン老に訊ねる。
「まずはこちらに来てくれ。」
そう言ってモルガン公爵はテーブルに広げられた地図、
パルーア周辺の地図を前に話し始めた。
「この城の物見の兵の話によれば、この近くにある森林地帯から突然魔物どもが現れたそうだ。この森林地帯はそれほど大きくはないから、これだけの魔物を潜伏させておくことは不可能なのだが、どういう訳か、そこから一気に現れたようだな。それで外の状況はアルスが一番わかっているだろう。アルスの働きでどうにか撃退できたわけだが、侍女の話だと戦闘が始まる直前に、アメリアの下へシグルドが来て危険だというので安全な場所にお連れすると言って、数人の兵士と共に女王の部屋から出て行ったそうだ。その後、侍女たちはシグルドの命令で、女王の衣服や身の回りの物をまとめてくるよう言われて部屋に戻っている。だが、その後の消息が全く分からなくなってしまった。それ以降、目撃した者は誰もおらんのだ。今、人を総動員して探させているが、まだ、見つからん。一体どうなっているやら見当もつかんのだ。」
「もしかして、王族だけが知っている部屋に隠れているんじゃないですか。」
「それはないな。その場合、誰にも見つかることなく入るのは不可能だからな。」
「そうなんですね。」
それを聞いて、とりあえず索敵を行ってみる。
城の中には無数の人がいるのが分かる。
だが、多すぎてどれが女王なのか良く分からない。
「おじい様。私たちを地下の部屋に連れていく指示を出したのはどなたでしょうか。」
俺が索敵で探している間にアンジェがモルガン公爵に訊ねる。
「地下の部屋とは?」
「私たちも危険だからという事で地下の部屋に避難するよう言われましたの。ですが部屋に入ると外から鍵を掛けられて、部屋に軟禁状態となってしまいましたの。鍵は何とか開けることが出来ましたけど、報告に戻ると言った兵士はそれ以来姿を見せてないのです。」
「うーむ。誰か知っている者はいるか?」
部屋に詰めている士官や下士官に声を掛けるが、皆知らないようだった。
「誰も知らんようだな。それでその地下の部屋というのはどこの部屋かわかるか?」
モルガンの問いにアンジェとマリアが説明する。
「そんな所に部屋というか通路なぞあったかのう?」
そう言って士官たちにも確認するが誰も知らないようだった。
「誰かにその部屋と通路を確認させよ。」
士官の一人にモルガン公爵は指示をだして、
その士官は2人の兵を連れて急いで出て行った。
「どう、アーくん、見つかりそう?」
マリアが覗き込みながら訊いてきた。
「んー、流石に厳しいかな。索敵も万能じゃないからね。索敵だと種族とか敵意があるかとかなら分かるんだけど。」
「アーくんでも分からないなら、お手上げね。」
マリアが溜息交じりに言った。
「そう言えば、モルガン公爵。シグルド侯爵の執務室や自宅は調べたの?」
「いや、まだだが。というより、勝手に調べるというのもなあ。」
「非常事態ですし、そこは仕方ないんじゃないですか。連れ出したのはシグルドで間違いないんですし、行方不明の状態を作ったのはシグルドの責任であるのは間違いないでしょ。」
「そうだな。よし、憲兵隊を招集させろ。捜査箇所はシグルド侯爵の執務室、自宅、並びに関連施設だ。」
「了解しました。」
数人の兵士が駆け出していく。
「ホフマン伯爵。このような事態になり大変申し訳ない。ホフマン殿には戻って頂いてご休息して頂いて大丈夫です。護衛も何人か付けておきますので、しばしお寛ぎ下さい。アルス達は悪いがもう少しだけ付き合ってくれ。」
ホフマン伯爵も疲れた表情を見せていたので、
アルス達を除く一行は元の部屋に戻って行った。
その間バタバタとした状況の中で、
モルガン公爵がアンジェに何か言ってきていた。
「どうしたの?」
アンジェに訊ねると
「控えの間に軽食を用意させたので、お腹が空いたのなら食べに行ってきなさいと言われました。」
そう言えば、戦闘もあったし空腹の状態だ。
「じゃあ、ここにいても今はする事もないし、食べに行こうか。」
控えの間に行くと、数人が食事をしている所だった。
交代で休憩を取っているようだ。
軽食を食べながら今回の件について
アンジェとマリアに意見を聞くことにした。
「アメリア女王は何処にいるんだろうね。」
「何処にいるかは分からないけど、連れ去られたと見たほうがいいですね。」
「どうして?」
「大体、戦闘になっているのに王が兵達に指示も出さずに逃げ隠れているなんておかしいですよ。それでは兵達や貴族達も付いてきませんからね。今回はおじい様、モルガン公爵がいてくれたので、どうにかなりましたけど、もし、隠れているのであれば、アメリアもシグルドも上に立つ資格はないと烙印を押されるでしょう。アメリアが知っているかは分からないけど、シグルドがそんな事も分からないような人間ではないはずです。であれば、シグルドが攫ったか、シグルド諸共攫われたかのどちらかでしょう。しかも戦闘はもうとっくに終わっていますし。」
「そうだよな。誰が攫ったのかは別として、攫ったのならいつまでも城の中にいるのはあり得ないよな。連れ出すのなら
戦闘中のどさくさに紛れてやった方が成功率も高いだろうしね。」
「そう考えると、もう城の中にはいないのかもしれないですね。だけど、どうやって城から出たのでしょう。」
「もしアーくんなら、どうやって攫います?」
マリアの質問にちょっと考えてみた。
「そうだな。俺なら、手っ取り早くテレポートの魔法で連れ出すかな。屋内ならゲートの魔法になるかもだけど。」
「たしかにそれなら簡単ですね。」
「だけど、問題もある。まず、第一に連れ出す人間の所までどうやっていくか。城の造りを知っていれば別だけど、はじめて行った城の中を例えばインビジビリティの魔法で姿を消しても迷っていては意味がない。案内役が必要だな。しかも城の中をある程度自由に動ける人間がいないと厳しいかな。2つ目はテレポートやゲートの魔法を使える者がそうそういるとも思えない所だな。今までこれらの魔法が使える人間がいるというのは聞いた事が無い。だけど、前の戦闘でゲートが使われた事があるのも事実だ。その者ならば可能性はあるかもしれないけどな。3つ目は継承者のペンダントの件だ。制約と加護だったかな。かなり強力なアイテムであるし、女王をそう簡単に拉致できるとは思えないんだよな。」
「アーくん、あのね。継承者のペンダントはあくまでも継承者を守るものなのよ。王になると継承者の恩恵は無くなるのよ。無くなるというのは語弊があるかもだけど、王に課せられる制約は一定期間領土から出ることが出来なくなるというもの。一定期間出てしまうと、最悪死に至る事もあると聞いているわ。加護は実のところ無いのよ。」
「は?どういうこと?加護が無くて制約のみ残るって事?」
「まず初めに、加護についてちゃんと説明しますね。」
アンジェはそう言って説明を始めた。
「基本的に王位を継いだものは先程言った制約だけが残り、加護は無くなります。そして継承者の方ですが、第3位継承権者は3年以上国外に出る事は出来なくなります。国王が国外に行く為には、継承者を2人以上連れて行かなければ出ることは出来ません。それ以外では特殊な魔法をかける事で一時的に出る事が出来るようです。それから、継承者同士、または王と継承者間で殺し合いは出来なくなります。もし殺そうとした場合、どのタイミングでそうなるのかは不明ですが、殺そうとしたものは命を落とします。そして昔はその範囲は十三連合国が国内であった為にその中で有効でしたが、近年はパルーア周辺までしか効果が無くなっていました。それに伴い、王はほとんどパルーア市国内から出ることが出来なくなりました。そして先の戦闘の話を聞く限りでは、その範囲が更に狭まってしまったように思えます。私たち以外の継承者だった者達のほとんどが城外での戦闘で死んでしまったり、捕虜とされてしまったりしたのが証拠です。捕虜となった者も継承者の証が戻ってきたことを考えるとすでに殺されているでしょう。初期の頃はもっと多くの加護と制約があったと言われていますが、その効果も内容も失われて久しいと言われています。」
「するとシグルドが女王を殺害する事は不可能と言って良いのかな?」
「城内に居れば無理でしょう。城内にいても直接手を下さなければ可能かもしれません。昔は殺す意志さえあれば呪いが発動したとも言われていますが、今はどの程度なのかはっきりと分かっていませんので。」
「ああ、そうか、先代の国王は暗殺者に殺されたんだっけ。」
「これらの事を考えると、仮に女王が国外に出された場合、女王は死ぬこととなります。シグルドが国外にいた場合、3年以内に戻らないと死に至ります。シグルドが国内にいた場合は自動的に王位を継ぐことになり、加護は無くなります。先に行われた戴冠式は形式的なものというか対外的なものなので、継承者の証を基準に考えると自動的に王位に就いた事になるのです。」
「なるほど、つまり、シグルドのペンダントさえ見つければ、アメリア女王の安否は分かるという事だね。」
「そうですね。」
軽く食事を済ませて戻ると
モルガン公爵が何人かの兵士に報告を受けている所だった。
「アルスよ。少しは休めたかな。」
「ええ、お陰様で。」
「何か分かりましたか?」
「いや、今のところは何も。ただ、シグルドの執務室に鍵が掛かっているようで、魔法で開錠を試みたが開かなかったそうだ。
自宅の方は今、捜査中でまだ戻ってきていないな。」
「執務室の鍵は魔法で閉められているのですか?」
「そのようだな。開かないものは仕方ない。とりあえずそちらは後回しだ。」
「でしたら、俺達が調べに行きましょうか?」
「そうだな。頼めるか。アルスならもしかしたら開けられるかもしれんしな。誰か案内してやってくれ。」
一人の兵士が案内をしてくれるようなのでついて行く事にした。
「こちらがシグルド様の執務室となっております。」
「案内ご苦労様です。あなたは戻ってくれて大丈夫ですよ。」
「そうですか。では、私は戻らせていただきます。」
軽くお辞儀をして兵士は戻って行った。
「ディテクトマジック!」
扉がほんのりと光った。つまり、この扉に魔法がかかっているという事だ。
「ディテクトトラップ!」
罠は無いようだ。
開錠の魔法や解除の魔法などは一度失敗すると暫く時間が経つか、
別の魔法を使うか、レベルが上がらないと失敗すると
以前、本で読んでいたので魔法の強度を上げて、開錠を試みることにした。
ノックの魔法なら開けられるとは思うが、
再度閉めるとまた鍵が掛かってしまう。
その為、最初から魔法の効果を打ち消してしまう方がいいだろう。
「ハイデンスペル・グレートディスペルマジック!」
ディテクトマジックで薄く光っていた扉が光が弾けるように霧散した。
多分成功したと思う。
扉に手をかけて開けると、すんなりと扉が開いた。
部屋の中は、他の部屋の執務室と同じような感じで
特に飾り気がある訳でもなく、意外と質素だった。
部屋には執務用の机や椅子。来客と話す用のソファーセット、
書類や本がたくさん置かれた棚、風景画が一枚額縁に入れられて
飾られている。室内は、窓から差し込む光でそれほど暗くは感じない。
「そういえば、この部屋には、使用人の控室みたいなのは無いみたいだね。」
今まで見てきた執務室には大体使用人が待機している部屋があったのだが、
ここには見当たらなかった。
「そうね。こんな部屋もあるのかしら。」
アンジェも微妙な違和感を感じていたらしく、
それが指摘した内容なのだと気付いたようだった。
「ディテクトマジック!」
部屋の中に魔法的なものがないか、調べようとした。
しかし、魔法が発動しなかったようだ。
「あれ?魔法が失敗した?」
「あれのせいじゃない?」
マリアが部屋の隅に置かれている水晶のような魔石のような物が付いている
オブジェを指さした。
そのオブジェは円柱の石の台座にまん丸い水晶だか魔石だかが
填め込まれている。
一見すると何かの魔法的な儀式にでも使われそうなこの部屋には
見事にミスマッチな置物が置かれていた。
「これはもしかしたら魔法消滅用のアイテムじゃないかしら。」
「そんなものがあるのか?」
「ええ、昔、こういったものがあると聞いた事があります。これがあれば、魔法で姿を消した者に侵入される事もなく、状態異常の魔法もかからなくなるという事で重要な場所に設置されていると。」
「じゃあ、これが無ければ、魔法で調べられるんだね。スキルはどうかな?収納!」
するとそのオブジェは異空間収納の中に入った。
「スキルは有効のようだね。」
異空間収納の中でそのアイテムを確認する。
アンチマジックピラー。これがこのアイテムの名称らしい。
効果は、魔法発動を消去するエリアを一定空間に展開するという物らしい。
つまり、この範囲の中では魔法が使えないという事だ。
「じゃあ、もう一度。ディテクトマジック!」
今度は無事に魔法が発動した。
「魔法的な物は無さそうだね。手分けして調べよう。」
まず、机を調べる。
机にある引き出しにも鍵が掛かっているが、
これは物理的に鍵を掛けられているだけのようだったので
ノックの魔法で鍵を開ける。
中には、政務的な事が書かれてある手紙が仕舞われていた。
これらを流し読みしていくが、特に変わった物は無いようだ。
もう一つの引き出しも鍵が掛かっていたので同じように開ける。
この中には、本が1冊入っていた。
本を取り出して中を見ると、何も書かれていないまっさらな本だった。
なんでこんなまっさらな本を大事に閉まっているのだろうと
不思議に思ったが、魔法的な何かが掛けられている訳でもないので
そのまま元に戻した。
アンジェとマリアもその間に色々と調べている。
アンジェは壁やソファーなどを調べていて、マリアは本棚から本や書類を
しらみつぶし見ていた。
机には何も無さそうなので、マリアが調べている棚の方に向かった。
棚は2つ並べられた状態で、棚の下3分の1くらいは観音扉となっていて、
そこには、ペンの替えやインク、羊皮紙や紙など
執務室には何処にでもあるような物が仕舞われていた。
棚の残り3分の2には本や書類が置かれている。
ただ、俺の背丈では上の方の本や書類には手が届きそうもないので、
一旦足を止めて部屋の中をぐるりと見回した。
なにかモヤモヤした違和感を感じているのだけど、それが何か分からない。
扉にかけられた、多分ハードロックの魔法、魔法消滅用のピラー、
使用人が常駐できない執務室、来客用の家具セット。
「ねえ、この部屋の来客用のソファーって何に使われてたのかな?」
「え?それは来客があった時に使うんでしょ。」
アンジェが何当たり前のことを訊いてくるんだろうと首を傾げる。
「いや、来客がある場合ってさ、お茶くらい出すよね。」
「そうね。それがどうしたの?」
「どうやって出してたのかなって?」
「それは・・・あれ?・・・他の部屋から用意させた?」
「客を放置して、他の部屋まで行って、自らお茶を出していたとか、使用人をわざわざ呼びに行ったとか、不自然だよね。普通、その為に使用人の控室みたいな所に待機させるんじゃないの?」
「そうよね。」
つまりは使用人にすら居てもらうと困る何かがあるのかもしれない。
「それに、さっきあった魔法消滅用のアイテムだけど、わざわざ部屋の扉にかからないように置かれてるのも変だよね。だって、部屋の外からなら魔法が打てるみたいだし。」
そう、先程のアンチマジックピラーは、
その効果範囲内で魔法を使わせないという物、
その外側からかけられた魔法まで効果を消滅させることはできないのだ。
「そうなの?それじゃあ、襲われた時にこっちが魔法使えなくて、相手は使い放題という事?」
「そうなるね。つまり、このアンチマジックピラーは襲撃に備えたものではなくって、別の目的のために置かれたものだと思うんだ。」
「つまり、魔法を使われるとすぐに判ってしまうものがあるという事ね。」
マリアも何か納得がいったように言った。
「それは何か?一番オーソドックスなものは隠し扉だね。」
そう言って魔法を発動させる。
「ディテクト・シークレットドアーズ!」
すると、本棚の後ろが微かに光っているのが分かった。
「見つけた。この棚の後ろに隠し扉がある。棚を退かしてみよう。」
3人で棚を動かそうとしたが、ピクリとも動かない。
「いっそ、壊してみる?」
アンジェは過激な事を言いだした。
「いやいや、それは最後の手段。何かスイッチみたいなのがあるはずだから・・・」
ふと、先程、机の引き出しにあった本を思い出した。
「まさかとは思うけど、そんなありきたりな。」
思わず、独り言を言って、机から本を取り出す。
棚を見てみると、この本が入りそうな箇所が箇所だけあった。
「マリア、この本をあそこの隙間に入れてみてよ。」
「わかったわ。」
マリアは本を受け取り、言われた所に本を差し込んだ。
カチッと音がした瞬間に、棚が左右に動き出した。
「アーくん、すごいわ。」
「さすが、アーくんね。」
2人は目をキラキラさせてこちらを見てくる。
いや、そんな称賛されるような事でもないと思うけど。
棚は人一人通れるくらいの幅で止まった。
その奥には、扉が開かれていた。
「注意して入ってみよう。」
中に入ると奥行きがそれほどない横長の空間になっていて、
すぐに下りの階段になっていた。
異空間収納の中からランタンを取り出す。
このランタンには予め、コンティニュアルライトの魔法が掛けてあり、
ディスペルされない限り、永続的に明かりを灯している。
そしてこのランタンにはシャッターも付いていて
シャッターを下ろす事で、周りに明かりを漏らさないようにもできる。
その灯りを頼りに、階段を下っていく。
階段の幅は人が一人やっと通れるくらいの幅で、
体の大きい人間が甲冑でも着ていれば
通る事が難しいくらい狭かった。
そして階段は普通の階段に比べて急な造りになっている。
「2人とも足元に気をつけてね。」
念の為、最後尾のアンジェに松明を持たせる。
これはさっきのように魔法の効果を消してしまうものがあっても
明かりを無くさない為の処置である。
執務室は2階にあったのだが、
階段は感覚的に地下2階から3階くらいまで続いていた。
ようやく少し広い所に出たので、周囲を見渡す。
部屋は石造りで、特に何か設置されたものは無いが、
床が崩落したような穴が開いていた。
穴の大きさは3~4人が手を繋いで飛び降りられるほどの大きさだ。
穴に近づいてみてみると、穴の中は井戸のように円形の縦穴になっていた。
井戸というより、大きな通風孔のような感じかもしれない。
その上に石の床があったようなのだが、
それが崩落して穴が剥き出しになっているという感じだ。
「何かしら、これ?」
マリアも近くに来て覗き込んだ。
「あれは?」
アンジェは穴には近づかず、周りを見ていたが、
穴の近くに楔が撃ち込まれたものを発見した。
楔は2本撃ち込まれていて、その両方にロープが括り付けられていた。
「誰かが降りたのかしら。」
アンジェが楔を確認しながら言った。
楔はかなりしっかりと撃ち込まれていて、
大人一人分くらい十分に耐えられるような感じだった。
「どのくらい深いのかしら。」
マリアも遠くを見るように穴の中を見ながら言った。
索敵のマップ化を見ると、穴は10mほどの深さだと判る。
周囲に魔物がいる気配はない。
「降りてみようか。」
「このロープで降りるの?」
アンジェが少し嫌な顔をした。
「一応ロープは命綱の代わりに使うつもりだよ。降りるのは魔法で降りた方が早そうだ。」
慎重すぎる気がするのだが、アンチマジックピラーを見させられれば、
魔法だけに頼るのは危険な気がする。
アンジェとマリアにロープを括り付けて、俺に掴まってもらう。
「フォーリングコントロール!」
魔法を順番にかけていく。
そして一気に穴の中へ飛び込んだ。
飛び込む際に、アンジェががっしりと俺に掴まって、
目を瞑っている様は、少しかわいいと思ってしまった。
ちなみにリリーは自分で飛ばずに俺の肩の上に乗っていた。この無精者め。
そしてゆっくりと降りて行った俺達は穴の底に着いた。
・・・つづく




