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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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104日目-その2 パルーアの攻防

1階への昇り階段の所まで来ると上からはドーンという響く音や

人々の怒声が小さいながらも聴こえてきていた。

急いで階段を昇り、1階の出口まで走り抜けた。

城の中だというのに出入口までの廊下にも出入口の門扉(もんぴ)にも

誰一人としていなかった。

「おいおい、いくら何でも不用意すぎないか。」

そう思いながら、扉を開ける。

扉を開けた瞬間からあちこちで戦闘らしき音が聞こえてくる。

上空を見ると、ペガサスライダー達が上空を飛んでいる魔物と

戦闘を繰り広げているようだ。

時折、援護射撃なのか地上から魔法攻撃が飛んで行くのも見える。

状況から察するにあちこちで戦闘が繰り広げられている感じがする。

状況的にマズイと思い、防御魔法をかけていく。

「フライ!」

地上からではいまいち状況が把握できそうになかったので、

城の高い場所に移動することにした。

「あそこなら、あちこち見渡せそうだ。」

城の尖塔(せんとう)らしきものの屋根に飛んで行った。

状況はかなりひどい状況に見える。

まず、上空では、ペガサスライダーがハーピィやインプなどの

モンスターと空中戦を行っている。

そこへ地上から、まるで対空砲火のように魔法が

上空へ飛んで行っているのだが、数の暴力で苦戦を強いられているようだ。

パルーアの正門前では、トロールたちが投石を行って

城の門を破壊しようとしている。

しかし、今のところ魔法による投石の防御が功を奏しているようで

門が破壊されてはいなかった。

しかし、魔法が切れればどうなるか分からない状況だ。

街の左右の湖では、ケルピーライダーと軍船が湖を渡ろうとしている

ゴブリンやオークを乗せた小舟と戦闘をしているように見えた。

こちらは、今のところ、パルーア側が優勢に見える。

しかし、こちらの軍勢はおそらく(おとり)か時間稼ぎのようである。

パルーア正面の崩れた大橋の橋脚(きょうきゃく)を陰に、

大きな(いかだ)をつなげた橋をかけているのが見えた。

だが、上空のペガサスライダーの戦力もケルピーライダーも軍船も

そちらに近づくことが出来ずにいる。

このままでは、筏の橋がパルーアの岸まで到達するのも

時間の問題のように思える。

正門前には魔法使いや弓兵がいるようだが、橋脚が邪魔になり、

相手に損害を与えられるだけの効果を出せていないようだ。

しかも、トロールからの投石でこちら側も討って出る事は難しいと言えた。

湖の正面以外は岸から距離が離れているのでこのまま防げるが

上空と正面は逼迫(ひっぱく)した状況のように思える。

この状況を打破するためには、まず筏の橋を破壊する必要がある。

そして取って返して上空にあがり、制空権を有利にさせるのが肝要だろう。

そうと決まれば、行動あるのみ。

尖塔の屋根から橋の方へ飛翔する。

目立たないように、一気に水面近くまで下降する。

筏の橋は、2つ目の橋脚と3つ目の橋脚の間まで掛けられていた。

一気に橋に近づいていく。

自分の魔法攻撃で自分が巻き込まれないように橋と並行して飛んで行く。

「ダブルスペル・ワイデンスペル・ウインドストーム!」

1つは2つ目の橋脚付近に、もう1つは岸辺に放った。

そして放った瞬間に一気に離脱する。

1つ目のウインドストームは湖の水を巻き上げながら、

筏の橋とそれを設置していた魔物を直撃する。

筏は軋みを上げてバラバラになり上空へ巻き上げられる格好で崩壊した。

それと同時に魔物も風に切り裂かれながら飛ばされていく。

2つ目のウインドストームは岸辺にあった大量の筏やそれを運んでいた魔物、

そして、一部投石していたトロールにも襲い掛かった。

筏はバキバキと音を立てながら周囲に吹き飛ばされていく。

壊れてバラバラになった筏は空中に巻き上げられていった。

周囲に吹き飛ばされた筏は周囲に集まっていたモンスターに襲い掛かる。

状況が有利に働いていた事もあり、

岸辺には多数の魔物が密集していたのが仇となって、多くの被害が出ている。

トロールの一部にも襲い掛かったが、

さすがにトロールの巨体を吹き飛ばす事はなく、

ダメージもトロール特有の自然治癒力の前に効果は無かった。

それでも十分な足止めにはなったはずである。

一気に上空にあがった俺だが、乱戦の上空では

広範囲魔法が使えない状況になっているのが間近になってようやく気付いた。

それでもファイヤーボール程度の範囲なら十分に打てるのだが、

それ以上の範囲だと味方を巻き込みかねない。

少々骨の折れる方法になるが地道に数を減らしていくしかなさそうである。

ハーピィの攻撃は主に直接攻撃、インプの攻撃は主に精神系の魔法だ。

インプの魔法は抵抗できれば何も効果が出ないが

精神系の怖い所は混乱や、恐慌、思考低下による行動の制限、

集中力低下による魔法の封じ込め等、様々な効果がある。

実際に、混乱を来したペガサスライダーの数人が上空から落下死している。

ペガサス自体も魔法抵抗力は高いが

それでも無効化できるほどのものではないので、

ライダーの指示から逸脱して逃げようとする場面も見られた。

ペガサスライダー達は魔法使いほどではないが攻撃魔法も使えるし、

ジャベリンや、弓等の遠距離攻撃の手段を多数持っている。

接近戦においても槍で戦闘が可能なので、戦闘力自体は高い。

この戦闘での不利な点と言えば、複数の相手への攻撃手段を

持ち合わせていない所だろう。

その為、数で押されると対応できなくなるのだ。

それでも地上からの援護攻撃に助けられて何とか踏ん張っている。

その為、俺はインプを中心に攻撃を仕掛ける。

「ダブルスペル・マジックミサイル!」

この魔法は、無属性の魔法で、魔力の矢を撃つ魔法で、

魔法使いなら憶えれば誰でも使える最下級の攻撃魔法である。

この魔法の特徴は目標に必中する事、

1発のダメージは攻撃魔法の中では最弱、

しかし、シールドの魔法等限られた防御以外は無効化やダメージ軽減は無い。

さらに、使用者のレベルが奇数レベル毎に2本増える。

しかも、目標は任意に決められる。

今、俺のレベルは24である。つまり、23本の魔法の矢を作り出せる。

ダブルスペルでその2倍、つまり合計46本の魔法の矢を一回で放てるのだ。

最弱の威力しかないが、魔力の大きさでダメージも増えるので

インプ相手には1発で十分なはずだ。

最弱にして最強の魔法と言われるこのマジックミサイルなら

乱戦の中でもやれるはずだ。

頭の中で46匹のインプを数えながら視認する。

「いっけー。」

マジックミサイルは目標に向けて全弾発射された。

目標の途中に障害物や目標でない敵がいてもそれを避けて目標に飛んで行く。

まるで、どこぞのアニメのミサイルのように飛んで行った。

マジックミサイルは全弾命中し、46体のインプを殲滅した。

この魔法の弱点らしい弱点は、矢の数が多くなって目標を多く指定するのに

時間がかかる事だけだ。

1回目の斉射で、インプやハーピィがこちらに気付き、

こちらに向かってきた。

その為、向かってくる敵を最優先にターゲットして

再びマジックミサイルを放つ。

マジックミサイルの全弾発射を5回ほど行った結果、

制空権はペガサスライダー側に変わり、

戦闘自体にも余裕が出てきたようだ。

「そこの方、ジュノー王国のアルス殿とお見受けします。ペガサスライダー隊の隊長のハージェと申します。貴殿の援護感謝する。あとの掃討は・・・」

ペガサスライダーの隊長が近づいてきて、感謝の言葉を言いかけたその矢先、

敵の本陣と思われる所から1体の羽の生えた人型の生物が

上空に舞い上がってきた。

その生き物が持っている剣を一振りした時、剣から大きな火の玉が放たれて、

インプやハーピィを巻き込みつつ、1人のペガサスライダーに直撃した。

火の玉に触れたインプやハーピィはまるで蒸発したかのように

一瞬にして消え去り、ペガサスライダーはペガサスと共に火達磨になって

地上に落下していった。

「何だあれは?」

ペガサスライダーの隊長は新たに現れた敵に驚きつつも味方に警戒するよう、

号令を出した。

その人型の魔物は初めて見る魔物である。

「鑑定!」

肌は赤黒く、剣を携え、背中には蝙蝠(こうもり)のような羽を生やしている。

身長は2m程であるが、異様な雰囲気を醸し出していた。

「レッサーデーモン?」

鑑定で出た生物の名前を、思わず呟いた。

その言葉にペガサスライダーの隊長が反応する。

「レッサーデーモンだと。そんな馬鹿な。」

レッサーデーモン種、レベル30、魔界からの召喚により現れる来訪者。

魔界って異世界とはまた違うのか?

レッサーデーモンの項目を詳しく見る。

魔界に生息するデーモンの下位種。

下位種であっても知能が高く、独自の言語を話す。

姿形は様々であり、その能力も千差万別である。

「レベルだけ見たらかなりの強敵だけど、放置するのも問題だな。」

ペガサスライダーの隊長の反応を見ると

ペガサスライダー達では相手にならない程強いのだろう。

「隊長さん、あれは俺が抑えるから、他の掃討をよろしくね。」

「すまない。あれは俺達では手も足も出ない。アルス殿も無理はしないでくれ。」

そう言っている間にさらにもう一人のペガサスライダーが犠牲になっていた。

「ライトニング!」

雷撃がレッサーデーモンを直撃したかに見えたが、

魔法の障壁が掛かっているのか、魔法の無効化能力があるのか

ダメージは直前で打ち消された。

レッサーデーモンはこちらが攻撃した事で俺をターゲットとしたようで、

向きを変えてこちらに向かってきた。

「グレートディスペルマジック!」

レッサーデーモンにかかっていた防御魔法のいくつかが

吹き飛んだように見える。

それを意に介さず、持っている剣を振るった。

大きな火の玉が高速でこちらに飛んでくる。

寸での所で、回避することが出来た。

だが回避したにもかかわらず、皮膚がひりひりと痛む。

「プロテクションフロムファイア!」

あのレッサーデーモンは火属性が得意なのかもしれないと感じ、

火の耐性を強化した。

レッサーデーモンは近づきつつ再び火の玉を放った。

まだ避けられないほどの速さではないし、距離もあるので、

これも何とか回避できた。

今度は、プロテクションフロムファイアが有効に働いて、

こちらにはダメージが入らなかった。

「アイスジャベリン!」

氷の槍がレッサーデーモンへ向かって行く。

レッサーデーモンはそれを難なく避けてしまった。

「もっと近づかないと当たらないか。しかし、あの火の玉は厄介だな。」

「ライトビュレット!」

光の弾丸が光速でレッサーデーモンに当たった。

しかし、貫通力のあるライトビュレットでもダメージを与える事は

出来なかった。

どうやら低レベルの魔法ではダメージを与えるのは難しいようだ。

レッサーデーモンは、こちらが連発する魔法が

低レベルの魔法だけと思ったのか、ニタリと笑みを零し、

こちらに近づいてくる。

その間に雷神剣を取り出す。

「ヘイスト!」

「マジックシールド!」

「ミラーイメージ!」

先程の攻撃で吹き飛んでしまったマジックシールドと

接近戦用に補助魔法をかける。

そして接近戦に持ち込むために一気に近づいていく。

レッサーデーモンもこちらがミラーイメージを唱えて

分身状態になったのを見て一気に近づいてくる。

レッサーデーモンの炎の剣と雷神剣がぶつかる。

2つの剣の魔力がぶつかり、ぶつかった場所から衝撃波が生まれる。

その衝撃で、俺とレッサーデーモンはノックバック状態となり

お互い後方へ弾き飛ばされる。

フライで制御して、ノックバックを最小にとどめる事に成功した。

レッサーデーモンも同じように体制を整えたようだ。

次に剣戟を合わせるとまた吹き飛ばされてしまう。

今度は吹き飛ばされないようにフライの制御をしっかりとしなければ。

そう思いながら、再び、突っ込んでいく。

敵も同様に考えたのだろう。向こうも同じタイミングで突撃してきた。

再び剣が交わる。

またもや衝撃が走ったが、今度はどちらも予測済みの為か

どちらも吹き飛びはしなかった。

だが、その衝撃波でどちらも擦り傷程度だが、ダメージを負った。

そして2撃3撃と再び剣が交わる。

そのたびに、衝撃が走り、少しずつダメージを負う事になった。

自動回復があるとは言っても、徐々にHPは削られていく。

衝撃波が走るたびにミラーイメージで作った分身は

あっという間に消え去ってしまった。

レッサーデーモンには自動回復がないようで、

衝撃波のダメージが徐々に蓄積していっているように見えた。

5撃目を合わせた後に、一旦、後方へ飛び退った。

それというのも、相手の剣撃が非常に重く、

長期戦になれば不利になると感じたからだ。

一瞬の間をおいて、再び突撃する。

「剣技、光速剣・六連斬!」

レッサーデーモンに飛び込みつつ剣技を発動する。

初撃はレッサーデーモンの炎の剣に阻まれた。

衝撃波が発生するが、気にせず、

2撃目でレッサーデーモンを切り裂こうとした。

しかし、防御魔法がかかっていたようで、

ダメージを負わせることはできなかった。

レッサーデーモンの防御魔法は2撃目で吹き飛んだのか

3撃目、4撃目、5撃目、6撃目と

レッサーデーモンを切り裂いていく。

レッサーデーモンは切り裂かれた事で、咆哮(ほうこう)を上げる。

6連撃目を放った後に一度距離を取る。

というのも、剣技を発動すると、発動後に(すき)が生まれるからだ。

ヘイストのおかげで隙が生まれる時間は極性に抑えているが、

もし相手の反撃があったら致命傷になりかねない。

レッサーデーモンは俺が離れた瞬間に、何か呟いているように見えた。

どうやら何か魔法を発動させたようだ。

そして雄叫びと共になんと、腕が生えてきた。合計で6本の腕になった。

その間、こちらも、既に切れかかっている防御魔法を再度かけ直す。

ほぼ同時に、態勢を整えた所で、今度はレッサーデーモンが突撃してきた。

それに合わせてこちらもスキルを発動させる。

「剣技、光速剣・六連斬!」

1撃目は先程と同様に炎の剣で防がれる。

そして2撃目から6撃目まで生えてきた腕で弾かれてしまった。

まるで拳が鋼鉄のような硬さであった。

そして6本目の腕が、俺の腹部に命中する。

6撃目が終わって飛び退ろうとした所を殴られたので、

ダメージを少しは和らげたと思うのだが、

そして相手の殴打と後方へ飛び退ろうとした事で

俺は大きく後ろに吹き飛ばされる形となってしまった。

防御魔法のおかげで、ダメージこそ受けていないが、

1発で防御魔法のアースシールドは吹き飛んでいる。

プロテクションシールドも吹き飛んだが、

プロテクションシールドの効果で相手が大きく態勢を崩していて、

追撃してくる余裕は与えなかったようだ。

すぐさま、防御魔法をかけ直す。

レッサーデーモンも再び何か魔法をかけているようだ。

同じ攻撃では、こちらが殴られ損になってしまう。

「だったら、これしかないよね。」

異空間収納からミスリルショートソードを取り出す。

「いくぞ。」

「エンチャンテッド・アイスウェポン!」

一気にレッサーデーモンに近づいていく。

「ディレイスペル・テレポート!」

レッサーデーモンに近づく直前に魔法をかける。

「剣技、光速剣・十二連斬!」

先程と同じように6連撃まで弾かれるのは想定済み。

レッサーデーモンの6本目の腕をミスリルショートソードで弾き返す。

残りの5連撃をレッサーデーモンに叩き込む。

しかし、敵の防御魔法により攻撃の2回が弾かれてしまう。

そして残り3回の攻撃がレッサーデーモンを切り裂いた。

その直後、切り裂かれたレッサーデーモンは口を大きく開けて

炎のブレスを吐き出した。

だが、連撃が終わったと同時に発動した魔法により、

レッサーデーモンの後ろに瞬間移動した事で

ブレスをまともに喰らう事は無かった。

ダメージはプロテクションフロムファイアのおかげで大したことはない。

真後ろにテレポートした後、振り向きざまに雷神剣を突き刺した。

突き刺した雷神剣の雷がレッサーデーモンの体の内部から放射される。

雷による継続ダメージと電気による痺れで

レッサーデーモンは痙攣(けいれん)を起こしながら、体が崩れ去った。

その時にレッサーデーモンが持っていた剣が落下していくのが見えたので、

異空間収納に入れた。


レッサーデーモンが倒された事により、

インプやハーピィは散り散りになって逃げ始めた。

これにより制空権は、ほぼ手中に収めた格好となった。

ペガサスライダーは掃討戦に入っており、

完全に駆逐するのも時間の問題となった。


だが、この戦闘でかなりの時間を消費した事で、

最初に壊した筏の橋が壊す前と同じくらいか、

もしくはそれ以上に出来上がっていた。

ペガサスライダーの一部は地上の援護の為に、

筏の橋への攻撃に参加するべく、動き出している。

ペガサスライダーの隊長の指揮の高さゆえだろう。

ただ、トロールの投石攻撃によって城壁の一部が壊されているのも見えた。

修復しようにも、トロールの投石が続いているので修復できずにいる。

もし、筏の橋が完成したら、あっという間に街中に魔物がなだれ込むだろう。

「テレポート!」

瞬間移動で、橋の近くへ移動する。

そして、一番近くの筏の橋に向けて魔法を発動させる。

「フォース・イクスプロ―ジョン!」

突き出した手のひらから光線が筏の橋に向けて発せられて、

その光が筏に当たった瞬間、爆発を起こした。

その爆発で筏は粉砕されてそこに乗っていた魔物は湖の中に落ちていった。

「ダブルスペル・ファイヤーボール!」

2つのファイヤーボールはそれぞれ別の橋桁の陰に

隠れている魔物に向けて放たれた。

ファイヤーボールは目標地点に到達すると爆発炎上させる。

その為、物影に隠れていても爆発範囲にいる事でその効果を受ける事になる。

先程と違い、空中をペガサスライダーが飛んでいるので、

ストーム系の魔法や上空から攻撃するサンダー系の魔法は使う事は難しい。

それと氷系の範囲魔法だと湖の表面を凍らせてしまい、

それもまた使うことは出来ない。

「フォース・イクスプロ―ジョン!」

別の筏を破砕する。

その間、陸地からトロールの投石と弓矢の攻撃があったが、

全てミサイルプロテクションの影響で外れている。

あとは、トロールさえ何とかすれば、大きく時間を稼げるだろう。

トロールの数は10体程いるようだ。

その内の2体を標的にする。

「ダブルスペル・ハイデンスペル・ファイアランス!」

炎の槍が2体のトロールの胸を貫く。

貫いた炎の槍は貫いた後も消えずにトロールを焼き続けている。

トロールは痛みと熱さで地面に転がり、手で炎の槍を抜こうとするが、

実体のない炎の槍は手をすり抜けてしまい抜くことは敵わない。

トロールには再生能力があるが、それ以上の継続ダメージにより、

トロールは動かなくなった。

それを見た他のトロールたちは、こちらに岩を投げつけてきた。

その投げつけた岩の中には弾かれて筏の橋に当たって筏を壊すものもあった。

いくつか魔法の効果が切れ始めているので一旦、上空に退避することにした。

トロールたちは消えた敵を探すようにキョロキョロと周囲を見回したり、

ウロウロとしたりして、城への攻撃を忘れてしまっている。

上空で防御魔法をかけ直しながら、周囲の状況を確認する。

上空はすでに敵はいなくなっていた。

ペガサスライダーは今は地上攻撃に専念している。

湖上の軍船とケルピーライダーは未だに湖を渡ろうとする

魔物を乗せた小舟への攻撃に追われているが、

規模が小さいため、取り逃がすようなことも無さそうだった。

今一番の激戦は正面の橋付近である。

ここを何とかすれば、持ち応えられるだろう。

そうして、次の攻撃の準備をしていると、

ペガサスライダーの隊長がやってきた。

「大丈夫か、アルス殿。」

どうやら、手傷を負って一時退避したと思われたようだ。

「大丈夫ですよ。えーと隊長さん。」

「ハージェだ。」

「ハージェ隊長、次の攻撃で範囲魔法をかけて殲滅(せんめつ)したいんですけど、騎士たちを引かせることはできますか。」

「わかった。だが、引かせると相手に勢いづかせてしまうのが気がかりなんだが。」

「大丈夫ですよ。そちらが引くタイミングで攻撃を仕掛けますから。」

ハージェが少し考えこんだ後、答えた。

「こちらのタイミングで引いていいんだな。」

「ええ、そうしないと、味方に被害が出てしまうでしょ。こっちが合わせますよ。」

ハージェが状況を観察しつつ、弓矢を取り出した。

矢は特殊な矢で先端に矢じりではなく筒が付いていた。

そして遠くに飛ばすように弓を構えるとおもむろに矢を撃ちだした。

打ち出された矢は大きく弧を描いて青い煙を出しながら飛んで行った。

そして2射目を用意すると、少し間をおいてから同じように打ち出した。

今度は赤い煙を出しながら弧を描いて飛んで行く。

するとそれを見たペガサスライダーは

さっと上空へ上がり城に向かって後退を始めた。

「よし、これなら。」

「テレポート!」

魔法の射程内まで一気にテレポートする。

「ダブルスペル・ワイデンスペル・ファイヤーストーム!」

トロールが固まっている2か所に炎の竜巻が起こる。

トロールたちは突然起こった炎の竜巻に為す術がなく、

飛ばされまいと地面に這いつくばるが、それがかえって

炎に焼かれる結果となる。

中には逃げ出そうと動き出した瞬間に足元をすくわれて転びながら、

竜巻の中心に引きずり込まれる者もいた。

その周囲にいたゴブリンなどの魔物も炎に巻き込まれて

あっという間に絶命してしまった。

そして戦況が悪くなったのを察したのか、炎の竜巻を見て恐れをなしたのか、

逃げ始める魔物が出始めた。

一度瓦解すると、あとは時間の問題だった。

我先に逃げようと仲間を突き飛ばしたり、

切りつけたりと恐慌状態に陥っていった。


ファイヤーストームが収まると、そこには魔物の死骸と

怪我をして逃げるに逃げられなくなった魔物だけが

取り残されていただけだった。

ペガサスライダーの隊長のハージェが寄ってきた。

「本当に助かった。感謝するアルス殿。あとは俺達で掃討するから戻ってくれて構わない。ただ、まだ街中に魔物が残っている可能性もあるから十分気をつけて戻ってくれ。後ほど、改めてお礼に伺う。では、また。」

そう言って、残敵の掃討に向かって行った。


一度、王城の正面入り口まで戻ってきた。

そして門を開けて中に入ると、中では兵士や小間使い達が右往左往していた。

その内の見た事がある兵士の一人を呼び止める。

「何かあったのですか。」

その兵士は、ジュノー王国の部屋の扉の前に常駐していた衛兵の一人だった。

「大変なのだ。女王陛下とシグルド侯爵の姿が見えないのだ。アルス殿でしたな。なにか知りませんか。」

「いや、外の戦闘から戻ってきたばかりなので、姿が見えないとはどういうことですか。」

「いや、私も詳しい事は知らされておりませんが、とにかく、女王陛下のお姿が無く、シグルド侯爵もいなくなったとしか聞いてないのです。」

「今、捜索の指揮をしているのは誰ですか。」

「モルガン公爵が臨時で指揮を取っておられるようです。たぶん、玉座の間に臨時の指揮所を作ったとの事で、何かあればそこへ行って下さい。」

衛兵の男はそのまま走り去っていった。

女王の行方も気になるが、それよりも、アンジェ達の方が気になるので、

そちらに向かうことにした。

地下室に向かうと、全員が無事にそこにいた。

「随分と時間がかかったな。どうだったかね。」

ホフマン伯爵が状況の確認に来た。

そして、外での戦闘や女王が行方不明である事を伝える。

「我々も一度、玉座の間に行って、モルガン公爵とお会いした方が良いだろうな。」

ホフマン伯爵がそういうと

「では、全員で向かいましょう。」

と、ロバート軍務官も同意して言った。


                 ・・・続く

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