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女子高の文化祭で始まる恋  作者: 柊聖月


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13/15

駅までの短いドライブ

高校を卒業した俺は、短い春休みを終え、3月中旬から会社に勤め始めた。また4月以降は仕事の傍ら自動車教習所にも通う、目の回るような忙しい毎日だった。


春の柔らかい日差しの中、制服姿の学生たちや街路樹の芽吹きを横目に通勤する日々は、社会人になった実感が沸かず、どこか現実味を帯びない夢のようでもあった。


仕事の合間を縫いながら教習所に通い続け、9月になり、ようやく免許と車を手に入れた。


俺は行動範囲は一気に広がったが、シフト勤務で休みが不規則なため、高校時代の仲間と予定が合う事はない。平日の昼間に一人、郊外や海沿いの道路へドライブに出かけることが、唯一の息抜きとなっていた。


季節が巡り、少し肌寒く感じる様になったある秋の朝。駅に向かう道を流していると、見覚えのある姿が目にはいった。鞄を抱え、必死に駆けている女性……安奈だった。


太陽の光を反射してキラキラと輝く髪、風に揺れるスカートの裾。高校生の頃より大人びた雰囲気と、柔らかい女性らしさがにじみ出ていた。


俺は車を寄せ、声をかけた。


「駅まで? 間に合う? 良かったら乗る?」


車の窓から声をかけると、安奈は驚いたように立ち止まり振り返った。


「え、大和君。え、良いの?」


「安奈が良いなら大丈夫だよ」


「わかった、もう間に合わないと思ってたから助かる」


安奈がドアを開け、助手席に乗り込んでくる。その一連の動作を見守りながら、俺の胸は少し高鳴っていた。真理の一件があったから、避けられているのではないかと不安もあった。しかし安奈は迷わず助手席に座った。


「ごめん、間に合うかな?」


「多分大丈夫だよ。今から学校?もしかして〇〇大?」


「え、何で分かるの?」


「いや、電車で通うならあそこかなって」


「ひょっとしてあそこに彼女が居たりして?」


「いないよ〜」


「……ま、真理は?」


安奈と喧嘩して別れる原因となった「真理」。安奈は気にしているのだろうか?一瞬そう思ったが、真理のことは正直に話した。


「俺、卒業してから忙しくなっちゃって、彼女と会ってないんだ。最近は真理からも連絡ないし、多分、自然消滅じゃないかな?」


「え?」


安奈と真理と俺は、過去に微妙な三角関係だった。当時付き合っていた安奈、そして安奈の親友だった真理。


結局、俺は真理に傾いてしまい、安奈と別れている。それなのに、あまりにあっけない結末に、安奈は少し驚いたようだった。


「だって、真理、『本気になった、ごめん』って私に言ってきたんだよ?」


「確かに、あの時は誘惑されて傾いたけど、何かすれ違っちゃってさ」


「ふ~ん、やっぱり傾いたんだ……」


「ごめん……でもあんな大胆に攻められたらさ……」


言い訳がましい俺の言葉に、安奈はあきれた様子で言った。


「大和くんも男の子だったって事か!」


「な、なんだよ、それ……。じゃあ、安奈に迫れば良かったのかよ?」


一瞬、間が開いて安奈は小さく呟いた……。


「そうかもね……」


「え?」


「私の部屋とか、大和くんの部屋とか、チャンスはあったと思うよ……なんてね」


安奈は悪戯っぽく笑ったが、その言葉は、彼女が心の中にしまっていた本音のように思えた。俺の心臓が一気に暴れ出した。



タイミングを見計らったように、駅手前の踏切が鳴り出した。俺たちは反対方向の電車が通るのを待つことになった。


カン、カン、カン。遮断機の赤いランプが点滅し、警報音がリズムよく響く。会話が途切れた分、その音が大きく感じられた。


助手席の安奈に目を向ける。髪の毛や肩のライン、仕草のひとつひとつに朝の光が柔らかくあたり、大人になった安奈の横顔に、思わず視線を留めてしまう。


やがて遮断機が上がり、再び車は駅に向かって走り出した。駅のロータリーに滑り込み、車を停める。


「電車、間に合いそうだね」


「うん、送ってくれてありがとう」


「いや……俺は急いでないから」


「ううん、本当にありがとう」


「安奈に会えて……、話せて良かったよ」


「うん、じゃあ……ね」


ドアを開け、駅舎に向おうとする安奈がふと足を止めた。少し躊躇いがちにこちらを振り返る。


「……番号、まだ同じ?」


「電話? 変わってないよ」「分かった……じゃあ」


安奈は笑顔を見せながら駅構内へ歩き出す。その背中を見送る。駅までの短いドライブ、交わした言葉、そして助手席に残る朝の空気と安奈の温もり……。


俺は少しの寂しさと、それ以上の懐かしさを感じながら、一人になった車をゆっくりと走らせた。

本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。

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