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女子高の文化祭で始まる恋  作者: 柊聖月


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12/15

あの時欲しかったもの

秋祭りが終わり、高校生活も終わりに近づいた頃、俺は長く勤めたバイトを辞めた。


バイトを辞めれば毎週の真理との時間はなくなり、安奈とも元通りになると思っていたんだけど、実際はそうはならなかった……。


ある夜、電話が鳴った。


「はい、桂木です」


「あ、大和くん? 私……真理。大和くんバイト辞めちゃったから相談できなかったんだけど、私、このままだと卒業危ないんだ」


「だから?」


「大和くん、成績良いじゃん? 助けてくれない?」


「だけど、真理の学校の方が偏差値高いし……俺じゃ役に立たないと思うよ」


「私、成績底辺だから大丈夫だと思う。大和くんお願い!」


「ん〜、何で俺なんだよ……。また安奈に言うんじゃないよな?」


「……今度は言わないよ」


「とりあえず、俺ができる範囲だけだよ」


「あ、ありがとう、よろしくお願いします」


真理の懇願に負け、週末毎に俺の家での勉強会が始まった。


真理の通う高校は偏差値が高かったが、落第ギリギリの真理には、確かに俺でも充分教えられるレベルだった。ただ、英語の和訳は流石に難しくて、結局課題を預かり徹夜気味になったこともある。


何故なら、真理は普段のサボり癖がはっきり分かるくらいに辞書を引くのが遅いし、英語の意味は前後の単語や並びによって変わることを説明するのがかなり大変だったからだ……。


なんにせよ、課題は俺がやった方が早い。


結局、途中から課題は俺がやる形になっていた。


真理は辞書引きや宿題の手間がなくなったことで、卒業に向けたテスト勉強に集中できるようになった。


でも、勉強を教えるはずが、俺がやっているんだよな……。


ただ、それでも辞書を引いて教える場面もあって、そんな時はかなり密着する形になる……。


「真理、ここわかる?」


「え〜、ん~~、どこよ〜?」


「ほら、ここ…」


そう言うと、真理は身体を寄せてきた。辞書をのぞき込みながら、ひじに真理の柔らかい身体が密着する。真理のぬくもりと甘い匂いに焦りながら、このままでいたいと思う俺もいた。


安奈との仲直りと今までのすれ違いを埋めるためにバイトを辞めたはずなのに、いつの間にか真理に振り回されている自分に気がついていた。だけど、真理のことも放っておけないと思うようになっていた。


俺は、安奈と真理、二人への想いの中で揺れていた。


安奈への想いや後ろめたさはあったが、それよりも目の前の真理が輝いて見え始めていた……。そう、安奈への想いを持ちつつ、真理を好きになっていたんだ。



その頃、安奈はひとり悩んでいた。


(喧嘩してからずっと大和くんと会ってないし、話もしてない。彼から連絡が来るのを待ってたけど全然だし、言い過ぎたのかな?


バレンタインで私の気持ちを伝えてからまだ数ヶ月だよ? 大和くん…。大和くんの声が聞きたい。もう1度言ってよ、あの時の台詞!……)


そして真理は、また別の思いを巡らせていた。


(安奈から色々聞いてたけど、大和くんって本当に優しいんだ。安奈から奪うつもりなんてなかったけど、私、大和くんに本気になっちゃったかもしれない。安奈ごめん、本気で誘惑するから……)



年が明け、真理の補習と課題は終わった。真理の卒業の見込みが決まったからだ。


「そっか、なんとかなって良かった。でもさ、真理の課題、ほとんど俺がやってた気がするよ」


「……ごめん、でもありがとう。ところでさ、大和くん、欲しいものってある? お礼したいの。私にできることなら、なんでも良いよ……」


「え…、えっと、その……」


「いいよ、恥ずかしがらなくて。私、大丈夫だから」


「その……真理……、いや……」


積極的な真理は、俺の答えを知っていて、あえて言わせようとしていたんだと思う。


ただ、その後、俺は卒業してすぐに会社勤めが始まり、忙しい日々に奔走するようになった。真理と会える時間がなくなり、また元々ハッキリ付き合っていたわけでもない俺と真理は、自然消滅という形で終わりを迎えた。


真理と一緒に過ごした時間、俺の中で真理の存在が大きくなっていたのは事実で、安奈への謝罪をすっかり忘れていた。安奈にどう説明しようか悩みながら時間ばかりが過ぎてしまい、高校の卒業を前に安奈とも会わなくなってしまった。


真理に惹かれていたあの時、俺が言いかけた言葉。


「真理が欲しい」


だからこそ、俺には安奈へ説明することなんて、できるはずがなかったのだ。

本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。

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