カギのかかった小部屋
40センチメートル以上もあるガラスの闘争棒は、大きくて置き場所に困る。
そんな邪魔なガラスの闘争棒を見て、好子はこう感想をぽつりと言った。
「ひょっとして、私、アームド先輩に嫌われているんでしょうか?」
「ひょっとするも何も、殺意の感じられる魔法道具ばっかりじゃない。ジーパン、あんた、絶対、恨みを買っているよ。思い当たる節はないの?」とサニーが問うた。
「……そういえば、この前、魔法機動隊のお仕事で、ヤクザの事務所に討ち入りするアームド先輩を見かけたんです。そのとき、『がんばれ、アームド・レディ先輩!』と応援するつもりが、『がんばれ、カーマ―ド・レミィ先輩!』と先輩の本名をさらっと言っちゃったんですよ」
麗美の本名は竈 麗美である。
本名を書けば、命を奪うマジカル死帳というものがある。魔法少女の戦いにおいて、本名を敵に知られるのは、致命的なことだった。
「それ、相当、アームド先輩を怒らせているんじゃない?」とサニーは言った。
好子は肩を落とした。「いずれ、私も、アームド先輩にコンクリート詰めされた挙句、広島湾へ突き落されたヤクザたちと同じ運命をたどるのでしょう……」
念のため、サニーと好子は、麗美からもらった魔法道具を、すぐ使えるよう床に置いておいた。
二人は寝るための準備をした。
部屋にはシャワー室があったが、一人専用だった。これでは、襲われたときに二人でキスができない。そこで、二人は洗濯魔法を使って、全身をきれいに洗うことにした。ついでに、服も洗いたかった。
呪文を唱えると、巨大なドラム缶型の洗濯機が二人の目の前に現れた。裸になった二人は、服を抱えたまま、そのドラム缶の中へ入りこんだ。じゃぶんと水の音を上げて、二人の体が洗濯機の中を舞う。そのまま、ぐるぐるとドラム缶が回転し始めた。
魔法のお湯なので、巨大洗濯機の中でおぼれることはない。
「ああ、いいお湯でしたね。きれいになりました」とパジャマを着ながら、すがすがしい気持ちで好子は言った。
「ドライヤーはどこかしら?」とサニーが部屋の中を探し回った。
好子も髪を乾かすため、ドライヤーを探したが、どこにも見当たらなかった。その最中、部屋のクローゼットの扉を開けようとした。だが、カギがかかっていたため、そこだけ探すことができなかった。
「招魂魔法を使って、お部屋に聞いてみたらどうですか?先輩?」と好子が聞くと、サニーは首を振った。
「……それがね、試してみたんだけど、招魂魔法が効かないの」
「へえ、不思議ですね」
招魂魔法とは、物体や建物に魂を宿らせて、人語をしゃべらせるようにする便利な魔法である。便利なので、二人は何度も使ったことがあった。
「魔法が通用しないのは、おそらく、壁に魔法退散フィールドが張りめぐらせてあるせいね。フィールド内部では、物を動かすことができないっぽい。魂を呼び出すこともね。魔法がすべて使えるわけじゃないわけ」
魔法退散フィールドのせいで、一部の魔法が使えないらしい。
まるで、牢屋みたい。
そう言いかけて、好子ははたと気づいた。まさに、今、自分たちが置かれている状況が牢屋そのものなのだ。
外部との連絡もできず、使える魔法は限られていた。事実上、閉じ込められたのではないか。
ふかふかのベッドに入り込んだ好子は、いろいろと考えてみたが、よい策を何も思いつかなかった。思いつかぬまま、眠りに入った。
ニセ大学生三人やら、セーラー服を着た侵入者やら、消えた乗員やら、いろいろなことが起きた一日が、こうして終わりを告げた。




