渡る世間に鬼ばっかりいない
料理は給仕に注文を頼む形式と、小皿に自分で取り分けるバイキング形式の二種類があった。
当然、好子たちは無料のバイキング形式を選んだ。
サニーはパエリアとプリンを持ってきた。一方で、好子はカレーライスと、大盛りのパフェを食べた。
自分の顔と同じくらい大きなパフェをたいらげた後で、好子は、先ほどの三人を見やった。
彼女たちはバイキング形式ではなく、個別の注文形式で料理を頼んでいた。高級そうな料理が男性給仕の手で運ばれていく。そのたびに、セミロングの女が驚嘆の声を上げた。
その声が車内に響くほど大きかったので、プリンを食べていたサニーが、ちっと舌打ちをした。セミロングに舌打ちしたのが気づかれないかと、好子はひやひやした。
だが、次の瞬間、サニーと好子に衝撃が走った。
セミロングの女が、赤髪の女へこう言ったからである。「ねえ、ソフィー。本当に今回の旅はすばらしいわ。これもすべて、カモメのセーラーサンのおかげね」
ソフィーと呼ばれた赤髪は、「そうね」と笑顔でうなずいた。
聞き間違いではないか。
いや、確かに、今、あのセミロングの女が「カモメのセーラーサン」と言った。
好子とサニーは顔を見合わせた。
「ジーパン、今の話聞こえた?」とサニーが小声で聞いてきた。
好子も「ええ、聞こえました。でも、どういうことでしょう?先輩」と声をひそめた。
サニーは身を乗り出して、こう言った。
「奴らの仲間かもしれない。襲ってくるだろうから、気を付けて」
「そんな、先輩。どう見ても、旅行中の、お気楽な学生にしか見えませんよ」
好子が見るかぎり、三人の服装もカジュアルな感じだった。セーラーサンが所属する犯罪組織のBB団とはほど遠い和やかな雰囲気だ。
緊張した顔をしているサニーのほうが、よほど悪党に見える。
好子たちの席と、三人の女たちの席とは一つのテーブルを挟んでいるだけである。ひそひそ話すら聞こえる距離だった。
これ以上、ここで相談するのは危険だと判断したらしいサニーは、部屋へ戻ろうと好子に提案した。
好子はパフェをおかわりしたかったが、とうとう、あきらめて立ち上がった。
すると、そのとき、立ち上がった拍子で、テーブルの上のグラスが好子の腕にぶつかった。そのまま、ころころとグラスが床を転がっていく。転がった先は、あの三人の席だった。
「なにやってんのよ!ジーパン」とサニーがとがめた。
「あらあら、お気になさらずに」と赤髪のソフィーがグラスを拾って、それを自分たちのテーブルに上げた。
セミロングの女が「さっきから、あの子たち、私たちのことを監視してなくない?」と好子たちをじろっとした目で見た。
どうやら、向こうは向こうで、こちらのことが気になっているらしかった。
しかし、ソフィーは笑顔で、セミロングをたしなめた。
「まあまあ、初代ちゃん。さきほどから、あの子供たちは、この珍しい高級料理を観察していたのよ。注文のやり方が分からなかったのね。かわいそうだわ。旅は道連れ、世は情け。あの子たちをこちらの席へ呼びましょうよ」
初代というのがセミロングの名前らしい。
初代は口の中でぶつぶつと言っていたが、結局、ソフィーに反論することはなかった。




