「思わぬ協力者」
第19話 「思わぬ協力者」
ラウルは広場の異常な盛り上がりを聞きながら、潜入役を引き受けたことを激しく後悔していた。
ラウル「(なに、あの盛り上がり様・・・。絶対なんかすごいこと起きたじゃん!
ミスったわー・・・安請け合いするんじゃなかったなぁ・・・。)」
後悔しつつも周囲の警戒を怠らず順調に進んでいたのだが、ちょうど侵入できそうな開き窓の周囲に見張りの兵士が二人、立っているのが確認出来た。
どうしたものかとラウルが悩んでいると、兵士たちの会話が耳に入ってくる。
片方の兵士が兜を脱ぐと、驚いたことに大粒の涙を流していた。
「私は今日、この日のために生きてきたのかもしれない」
隣の兵士も真顔で頷く。
こちらは兜で見えないが、声から察するに同じく泣いているようだ。
「奇遇だな゛ 私も゛だ」
「お前、妻子がいるだろ」
「ぞれどごれとは別だ」
「別にするな」
二人とも完全に広場へ意識を奪われ、もはや見張りどころではない。
ラウルは二人の注意が逸れている隙に窓へ滑り込み、館への侵入を果たした。
ラウル「着地っと。
いやー、あんなに注目を浴びるなんて、みんな何やらかしたんだ?
こっちとしてはありがたいけどね。」
どうやら今は、館の正面側に兵士や使用人たちの意識が集中しているらしい。
ラウルはその隙に、正面とは反対側の人気が少ない区画へと進んでいった。
*******************************************************
ところ変わって館の正面玄関。
今まさにゼニスキーが吟遊楽団に変装したクルーゼたちを迎え入れようとしていた。
ゼニスキー「先ほどの舞は素晴らしかったぞ!
余程名の通った楽団とお見受けするが?」
クルーゼ「これは領主様、お初にお目にかかります。
我々、まだ名もなき楽団でございます。
にも関わらず、先ほどのようなお褒めのお言葉を賜りました事、
恐悦至極に存じます。」
クルーゼは恭しく頭を下げながら、内心では怒りを押し殺していた。
ゼニスキーの隣には、騎士団長コーブーシの姿もある。
盗賊団と騎士団を繋いでいた人間として疑われている男だ。
その男がゼニスキーと並んでカエデたちを眺めだらしなく鼻の下を伸ばしている。
クルーゼ「(こいつが・・・ゲオルグと繋がってたのか?
こんな間抜け面にゲオルグの人生が狂わされたってのか?
くそったれ・・・!)」
怒りに打ち震えていた時、ふとカエデと視線が合った。
「まだ早い」
カエデの視線がそう言った気がして、クルーゼはゼニスキーに気取られぬようゆっくりと深呼吸をしてから改めてゼニスキーの言葉を待った。
ゼニスキー「急ではあるが今日の晩餐の場を設ける。
貴殿らの舞を改めて見せていただきたい。良いかな?
十分な褒美も取らせるとしよう!まさか断るなどあるまいなぁ?」
クルーゼ「とんでもございません!存分に楽しんでいただけます様、
全力を尽くさせていただきます。夕刻頃、改めてお邪魔させて――」
ゼニスキー「あぁ、良い良い!このまま館の広間に案内させるでな!
そこで準備なりして待つが良い!」
クルーゼ「しょ、承知致しました」
クルーゼは深々と頭を下げ、ゼニスキーの誘いに乗ることを決めた。
ゼニスキーはそうとは知らずに、クルーゼの後方に目を向けると、変装したウィルに声をかける。
ゼニスキー「特にそなたの舞は素晴らしいものであった。
夕餉の際は、是非儂の目の前で舞っていただきたいな」ニチャァ
と厭らしい顔をウィルに向ける。
ウィルはわかりやすく笑顔を引きつらせながら、
ウィル「領主様からのお言葉、こ、光栄ですわぁ……」
と言葉を返すのであった。
*******************************************************
調査を続けるラウルだったが、取引品に繋がる糸口すら見つけられていなかった。
ラウル「(いや、簡単とは思わなかったけど全然わからねぇな・・・?
隠し部屋とか作られてたら流石に厳しいか?)」
いくつもの部屋や倉庫を巡ったが、怪しいものは見つからない。
物音を立てないよう慎重に調べている分、時間だけが過ぎていく。
悩みながら屋敷の中を進んでいると、不意に目の前の扉が開いた。
ラウル「(な!足音とか聞こえなかったぞ!?なんで!?)」
ラウルが軽くパニックに陥っていると、部屋の中から姿を見せたのは、スコットの姉のネーレであった。
ネーレ「え!?ラウルくん!?なんでここに―――」
ラウル「し~~~~~~~っ!?」
ネーレ「きゃっ!?」
ラウルは人差し指を口に当てるジェスチャーをしながら、ネーレを部屋の中に押し戻す。
押し戻した拍子にラウルとネーレは部屋の中に倒れ込んでしまう。
ラウル「痛てて・・・ネーレさん、ごめんなさ・・・い!?」
ラウルが気付くとネーレを押し倒したような体勢であることが分かった。
しかも目と鼻の先にはネーレの顔があるのだ。
二人の間に一瞬とも永遠ともとれる沈黙が続くと思われた、その時、
ネーレ「や・・・」
ラウル「や・・・?」
ネーレ「優し・・・く、して・・・ね?」
ラウル「!?!!!?!?!?」
ネーレは状況を盛大に勘違いしているらしい。
真っ赤な顔のまま、潤んだ瞳でラウルを見つめている。
ラウルの頭に浮かんだのは、ただ一人だった。
ラウル「(ネーレさんはスコットさんのお姉さん――!!)
ちょ、ちょっと待って、言い訳、いや説明させてください、ホントに。」
ラウルは瞬時に土下座すると、ネーレへの弁明の機会を要求した。
その様を見たネーレは思わずポカンと呆けた表情で固まってしまうが、次の瞬間クスリと微笑む表情に変わるのだった。
弁明開始から数分後―――
ネーレ「あはははははは!ごめんね、あたしったら。勘違いしちゃって。」
ラウル「いやホントまずはそこの誤解が解けて良かったッス。
そのままだったらスコットさんに殺されるとこでした・・・。」
ネーレ「ふぅん?私は別に勘違いじゃなくてもよかったんだよ?」
ラウル「え゛!? や、やだなー、ネーレさん。冗談きついですってば~」
ネーレ「で、話は戻すけど、なんでラウルくんはこの屋敷の中にいるのかな?」
ネーレは真剣な表情に切り替え、ラウルに問い質す。
ラウル「そこは見逃してくれるわけには・・・」
ネーレ「そういうわけにはいかないよ。私はここで働いているんだから。
ラウルくんが良からぬことをしているなら私は全力で止めるよ?
私をここで働けるようにしてくれた人に不義理は出来ないから」
ネーレの真っすぐな視線にラウルは「これは騙せないな」と悟る。
騙す騙さない以前に、彼女には嘘は通じないし嘘をつきたくないなとも感じた。
ラウル「わかりました。信じるかどうかはネーレさんに任せますが、
僕が知っている範囲の事は全部お話します。」
ラウルはネーレに、これまで自分たちが掴んだ事実を手短に説明した。
盗賊団。発掘調査の襲撃。ローデリアで発覚した横流し。
話が進むほど、ネーレの表情は真剣なものへ変わっていった。
ラウル「僕がわかるのはここまでです。
危ない橋を渡っている自覚はあります。
でも、他に確かな証拠へ辿り着く方法が思いつかなかったんです。」
ネーレはラウルの説明を聞き終えても、しばらく黙ったままだった。
ラウルが「せめて見逃してほしい」と切り出そうとした、その時――
ネーレ「わかった。そういうことなら私にも手伝わせて。」
ラウル「はい?」
ネーレの口からはその思いとは真逆の言葉が聞こえてきたのだった。
次回、「なにをーーーー!!姉上は魅力的だろうがーーーーー!!!」
遅い時間の投稿になってしまって申し訳ありません・・・。
あれやこれやでバタついちゃいまして・・・ごめんなさい。
読みづらい場所などありましたらご指摘ください。
感想などいただけますと執筆モチベーションに直結しますので、とてもありがたいです。
引き続きよろしくお願い致します。




