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Historia de Familia ~家族の物語~  作者: Levia
第2章  過去遺物(ギフト)

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「いっつたいむとぅだ~~~んす♪」

第18話  「いっつたいむとぅだ~~~んす♪」



作戦会議から数日後。

領主館前の広場は、いつになく多くの人で賑わっていた。

普段であれば領主への陳情に訪れた者や警備に当たる騎士たちが

行き交うだけの場所に、今は簡素な舞台が組まれ、色鮮やかな布や

鳥の羽飾りによって華やかに彩られている。


「何が始まるんだ?」

「西の方から来た旅芸人らしいぞ」

「舞姫が四人もいるって聞いたけど?」

「五人だろ?」

「いや四人だ。ひとり妙に怯えている娘がいたが」


そのころ楽団の舞台裏では。

ウィルはその噂を耳にしながら、両手で顔を覆っていた。


ウィル「もう噂になってるぅ・・・・・・」


チッタによって薄く化粧を施され、ウィッグまで付けたウィルの姿。

本人がどれだけ否定しようとも美しい舞姫にしか見えなかった。


ウィル「今ならまだ体調不良ということで帰れませんか・・・・・・?」

チッタ「ダメ」

ウィル「即答・・・・・・」

チッタ「ウィルが一番大事。今日の主役」

ウィル「僕は楽器の調達役だったはずですぅ!」

チッタ「でも可愛い」

ウィル「理由になってませんよぉ!」


少し離れた場所では、カエデが腰に手を当てながら身体を伸ばしている。


カエデ「諦めや、ウィル。ここまで来たら腹括るしかあらへんで」

リューネ「そうそう。わたしたちだって恥ずかしいんだから、一緒に頑張ろ?」

アイシャ「でもウィル、すっごく似合ってるわよ?」

ウィル「慰める気あります!?」

クルーゼ「安心しろ、ウィル」


サングラスと付け髭を身につけたクルーゼが、ウィルの肩へ力強く手を置く。


クルーゼ「お前がどれだけ美しく舞えても、俺は絶対に惚れねぇ」

ウィル「当たり前です!」

クルーゼ「・・・・・・・・・・・・多分」

ウィル「今の間は何ですか!?」

ドノヴァン「若、そろそろ刻限ですぞ」


舞台の脇から顔を出したドノヴァンの言葉に、全員の表情が引き締まる。

この演舞は、ただの見世物ではない。

領主館と周辺の騎士たちの注意を引き付けるための陽動。

その間にラウルがゼニスキー男爵とコズールイを結びつける証拠を探し出す。

失敗すれば、ラウルは敵地の中で孤立する。


カエデ「ラウルなら大丈夫や」

リューネ「うん。だからわたしたちは、わたしたちの役目をやろう」

アイシャ「そうね。絶対に目を逸らせない舞台にしてやりましょう」


ウィルも胸元を押さえ、大きく息を吸った。


ウィル「僕の商人人生・・・・・・今日で終わったりしませんよね?」

チッタ「大丈夫」

ウィル「ほんとですか?」

チッタ「今日から別の人生が始まるだけ」

ウィル「大丈夫じゃない!」


そんなウィルの叫びとともに、チッタが舞台へ飛び出した。


チッタ「みんな、おまたせ~~~」


広場に集まった住民たちの視線が一斉にチッタへ向けられる。

チッタはリュートを胸に抱くと、舞台の中央で小さく一礼した。


チッタ「今日はわたしたちが、バルストのみんなに楽しい時間を届けるよ~」


観客たちから歓声が上がる。

チッタは満足げに尻尾を揺らすと、後方に控える演奏者たちへ視線を送った。


チッタ「それじゃあ、いっつたいむとぅだ~~~んす♪」


リュートの軽やかな音色。

続いて太鼓が力強い拍子を刻み始める。

重なった音が広場いっぱいに広がり、観客たちの手拍子を誘っていく。

最初に舞台へ現れたのはカエデだった。

腰から伸びる飾り布を翻しながら、力強く、それでいて滑らかに舞う。

剣術の足運びを取り入れた鋭い動きに、観客から歓声が上がった。

続いてリューネとアイシャ。

リューネはややぎこちなさを残しつつも懸命に舞い、アイシャは持ち前の度胸で観客へ笑顔を振りまいていく。


「すげぇ! 本物の舞姫なんて初めて見たぜ!」

「あの緑髪の姉ちゃん、動きが格好良いぞ!」

「赤髪の一本角の娘も可愛い!」


アイシャ「どうやら遠目にはバレてないみたいね!」

カエデ「今は舞に集中せぇ!」


ウィル同様、カエデたちもウィッグを付け一応の変装はしていたのだった。

その頃舞台裏に残されたウィルは、両膝を震わせていた。


ウィル「無理です・・・・・・やっぱり僕には無理ですよぉ・・・・・・」

チッタ「ウィル」


演奏を続けながら、チッタが静かに呼びかける。


チッタ「大丈夫。昨日いっぱい練習した」

ウィル「でも・・・・・・」

チッタ「みんな、ウィルを待ってる」


ウィルがそっと舞台の向こうを覗く。

広場には大勢の人々。

領主館の窓からは騎士や使用人たちまで顔を出している。

自分が失敗すれば作戦が崩れる。

ラウルの危険が増す。

商売とは違う。

損得を計算しても、逃げるという答えにはならなかった。


ウィル「・・・・・・ラウルさんには、絶対に黙っていてもらいますからね」

チッタ「それは無理かも」

ウィル「そこは嘘でも頷いてください!」


ウィルは涙目のまま、一歩を踏み出した。

ちょうど曲調が静かなものへ変わる。

カエデたちが舞台の左右へ分かれ、その中央へ道を作った。

薄布が揺れる。

淡い色の羽飾りが、太陽の光を受けて煌めく。

そして金髪ツインテールのウィルが、舞台の中央へ姿を現した。


―――その瞬間、広場から音が消えた。

太鼓も。リュートも。観客の話し声も。


実際には演奏は続いている。

それでも、誰もが音を忘れた。

風に揺れる長い髪。

舞台衣装に合わせて薄く彩られた顔。

恥じらうように伏せられた瞳。

緊張のため胸元で固く結ばれた両手。

森から迷い出てきた妖精が、初めて人前に姿を見せた。

そんな錯覚さえ抱かせる佇まいだった。


ウィル「・・・・・・どうして静かなんですかぁ・・・・・・」


消え入りそうな一言。

それを聞いた観客のひとりが、胸元を押さえた。


「か・・・・・・」


隣の男が震える声で問いかける。


「か?」

「かわいい・・・・・・」


その一言を皮切りに、広場が爆発した。


「うおおおおおおおおおおおっ!!」

「誰だ、あの娘は!?」

「見たことねぇぞ!」

「どこのお姫様だ!?」

トーマス「こっち向いてくれええええええ!」

レオナ「名前だけでも教えてえええええ!」


窓から様子を見ていた騎士たちまで身を乗り出す。

領主館の門を警備していた騎士は職務を忘れ、舞台の方へ顔を向けていた。

遊んでいた子どもたちは舞台の前まで駆け寄り、女性たちは衣装を食い入るように見つめ、男たちは揃って言葉を失っている。


ウィル「ひっ・・・・・・!」


あまりの歓声にウィルは一歩後退する。

しかし背後からチッタのリュートが、優しく背中を押すように鳴った。


チッタ「ウィル。右、左、くるり」


ウィルは練習した動きを思い出す。

右へ一歩。

左へ一歩。

両手を胸元で重ね、それから花が開くように腕を広げる。

腰元の薄布がふわりと広がった。

最後に小さく一回転。

羽飾りが光を散らす。

それだけだった。

それだけで、広場の住民たちの感情は限界を迎えた。


「うわあああああああああああ!!」

「今の見たか!?」

「見た! 目が合った!」

「お前の後ろにいた俺とだ!」

レオナ「いや、私とよ!」

トーマス「もう一回! もう一回やってくれぇ!」


商店の店主は店を放り出し、通りかかった御者は荷馬車を停め、巡回中の騎士まで列を崩していた。


アイシャ「ねぇちょっと・・・。私たち、必要だった?」

リューネ「・・・・・・負けた気がする」

カエデ「くっ、確かに可愛い。認めたくあらへんけど可愛い・・・・・・!」

クルーゼ「手前ぇら、舞を止めんな! あとウィル! もう一回転だ!」

ウィル「クルーゼさんまで楽しんでませんか!?」

クルーゼ「お客様が求めてんだ! 応えんのが一流ってもんだろ!」

ウィル「僕は商人ですぅ!」

クルーゼ「なら需要に応えろ!」

ウィル「商人として正しいこと言わないでください!」


その時、領主館の二階にある大きな窓が開いた。

でっぷりと太った男が、身を乗り出すように舞台を見下ろしている。

ゼニスキー男爵だった。


ゼニスキー「おい! あの娘たちは誰なのじゃ!?」


近くにいた使用人が慌てて答える。


使用人「本日バルストの街に到着した吟遊楽団の様です。

    しかし初めての来訪の為、情報はございません。」

ゼニスキー「今すぐ館へ招け! 他の舞姫も全員じゃ! 

      特に中央の娘は必ず連れて来い!」


ゼニスキーが騒いでいる様子を横目に捉え、付け髭のクルーゼが笑みを深める。


クルーゼ「かかった」

ドノヴァン「見事に食いつきましたな」

クルーゼ「見事過ぎて、ちょっとウィルの今後が心配になってきたけどな」

ドノヴァン「既に手遅れかと」


広場では、いつの間にかウィルを讃える声が響いていた。


トーマス「羽の姫!」

レオナ「羽の姫様ぁぁぁ!」

「バルストに来てくれてありがとう!」


ウィル「羽の姫って誰ですか!?」

チッタ「ウィルのことだよ」

ウィル「なんで!? 僕にはウィルって名前があります!」

チッタ「じゃあ、羽姫ウィル」

ウィル「混ぜればいいわけじゃありません!」


ウィルの悲痛な叫びさえ、観客には可憐な演出として受け止められた。


後日、街の芸術家や吟遊詩人たちは競うように舞姫の作品を描き、歌った。

街中では羽姫が身に着けていた装飾品が流行し、少女たちは舞姫の姿を

真似ようと、こぞって装飾品を収集した。


あの日。

バルストの住民たちは、色鮮やかな羽飾りを纏った一人の舞姫を目撃した。

しかしその正体は知れず、二度と表舞台に現れなかった。

人々は舞姫に憧憬と恋慕の思いを込め、こう語り継ぐ。

『幻の羽姫』と―――


なお、歌姫本人といえば――


ウィル「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


後日、自身を描いた絵画を目にするたびに膝から崩れ落ちたという。



次回、「思わぬ協力者」


悪ノリしました苦笑

後悔はしていません!


読みづらい場所などありましたらご指摘ください。

感想などいただけますと執筆モチベーションに直結しますので、とてもありがたいです。


引き続きよろしくお願い致します。

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