「わたしラウルくん、いま商人さんのうしろにいるの」
第14話 「わたしラウルくん、いま商人さんのうしろにいるの」
ラウルがローデリアの街に来た翌朝。
とある商人は獣人たちから楽器を買い取る準備の為、荷馬車の準備をしていた。
商人は黒い帳簿を見ながら笑いが止まらない様だった。
悪商人「いや~わしにもいよいよ運が向いてきたな。
流石は領主付きの大商人様。目の付け所が違うわ。
そもそも獣人如きにアンティークの価値などわからんのだ。
我々が有効活用していることに感謝して欲しいくらいだわい。
さ~て、今日も稼がせてもらうぞい!」
独り言の内容から、彼は楽器の価値をある程度正しく分かったうえで獣人たちから安く楽器を仕入れていることがわかる。
安く仕入れて高く売ることは商売の基本だ。
しかし彼の言葉の端々からは獣人族に対して侮蔑ともとれる感情が見て取れるのであった。
そしてその言葉を聞いているものは自分しかいないと思い込んでいるのだった。
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朝の出来事から数刻後、獣人族たちとの取引の時間になった。
通りの少し先に目を向けると、獣人たちが大量の楽器を荷台に乗せ、曳いてくる様子が見えた。
悪商人「いや、みなさま。本日もお取引よろしくお願い致します。
今日もたくさんお持ち込みいただいて。いやぁ、助かりますよ。
すぐに鑑定をさせていただきますので少しお時間いただきますね」
狸耳「商人さん、きょうもよろしくたぬ~♪」
悪商人は愛想笑いを浮かべながら、持ち込まれたものの鑑定を行っていく。
その中に一際目を引くリュートが置かれていた。
悪商人「(こ、これは!意匠といい、装飾品といい、素晴らしい出来だ!
年代鑑定までは出来ないがかなりの値がつくぞ!!)」
悪商人は内心でほくそ笑む。
しかし獣人たちに向き直る時にはどこか残念そうな表情に変えた。
悪商人「ふーむ、やはりどれも年代もので保存状態は良くないですな・・・。
うん、一つあたりこのくらいの金額での買い取りでいかがでしょう?」
狸耳が商人からの伝票を見ていると、普段は取引の時に見かけない狐耳の少女が狸耳の袖を引っ張って来る。
チッタ「ねぇねぇ。やっぱりあの楽器売るの辞めちゃダメかなぁ?
オバアがワタシに遺してくれたものだしさ・・・」
狸耳「そうたぬねぇ・・・。まぁ一つくらい減っても・・・?
よし、あの楽器は売るの辞めるたぬよ!回収するたぬな!」
狸耳の獣人が指差したのは先ほど目を付けたリュートだった。
悪商人「(マズイ、マズイ!あれは手放したくない!)
いや、まとめての売却というお話でしたでしょう?
急にお話を変えられるというのは困りますなぁ」
狸耳「いや、一つあたりいくらでの売却だから、別に構わぬたぬよね?」
悪商人「(なんだ?いやに食い下がるな?)
あ、あくまで料金算出方法であって、契約内容とは違いますよ!?
そこまで仰るなら今後のお取引は断らせていただきますよ!?」
悪商人が恫喝とも受け取れる言葉を狸耳の獣人にかけていた時、声をかけてきた人物がいた。
リューネ「あれ?チッタ。どうしたのこんなところで?」
チッタ「あ、リューネ。こんにちわ~。
商人さんとお話してるんだけど、ちょっとうまくいかなくてさ」
チッタはリューネに簡単に事情を説明する。
リューネ「へぇ?一つ引き取るだけなのに、どうしてダメなのかしら?」
悪商人「(よりによって鬼族か!?不味いな・・・早く区切らないと!!)
そ、それはですね。
今回の取引ではまとめて買い取るというお約束のもとにですね・・・」
狸耳「そんな約束、取り交わしてないたぬ。」
悪商人「口約束でも契約になるんですよぉ?ご存じないんですかぁ?」
狸耳「いや、そんな話もしてないたぬ」
悪商人「わたしは覚えてますけどねぇ!!
というわけでこのガラクタはまとめて持っていきますよぉ!!」
リューネは商人がガラクタと呼んだものに目を向けると、表情を変える。
リューネ「いま『ガラクタ』って言ったかしら?
とんでもない!!これも・・・それも!
貴重なアンティーク楽器じゃない!
あなた本当に鑑定したのかしら??」
悪商人「わたしの目利きに文句付ける気ですか!?
鬼族だって言っていいことと悪いことありますよ!
不快です!こちらで失礼します!
もうこの街とはお取引きしませんからね!!」
悪商人は声を荒げ、慌ててこの場を撤収しようとする。
悪商人は額の汗を拭った。周囲の視線も少しずつ集まり始めている。この場は早く切り上げなければならない。
ここで時間をかけてギルドの目に留まってしまうのはもっとマズイ。
無理矢理でもこの場を切り抜けよう―――悪商人が逃走を図ろうとした瞬間。
ラウル「わたしラウルくん、いま商人さんの後ろにいるの」
悪商人「うわぁぁぁぁ!!!」
急に耳元で囁かれた男性の声に慌てて飛び退く悪商人。
振り返ってみると、ギルド職員を数名引き連れた青年が満面の笑みを浮かべて立っていた。
その手には悪商人の見覚えのあるもの――裏の取引で使っている帳簿が握られていた。
ラウル「この帳簿見させてもらったけどさぁ、商人さん。
なかなか楽しそうな商売を行ってきたみたいだねぇ・・・?
たしか王国領内って鑑定結果を偽るのはご法度じゃなかったっけぇ?」
ギルド職員「我々も確認させていただきました。
ここではなんですからギルドでお話を聞きましょうか?」
悪商人 「そ、それは捏造だ!」
ラウル 「へぇ?」
悪商人「そんな帳簿、わしは知らぬ!見たこともない!」
ラウル「今朝、この帳簿見ながら
『今日も稼がせてもらうぞい!』って上機嫌だったのに?」
悪商人「な、なんでそれを!」
ラウル「はい、ゲロッた~~~!声しか聞こえなかったから勘だったのにな~。」
悪商人は口をパクパクさせながら、驚きで声も出ない様だ。
ラウル「悪いことしてんのにちょっと油断しすぎかな?
誰がどこで聞いてるかわかんないよ~。」
ラウルの言葉に商人はもう一度辺りを見回す。
いつの間にかギルド職員だけでなく、他の住民にも取り囲まれていることを悟り、その場にへなへなと座り込む。
悪商人「なんで・・・?今まで順調に商売出来てきたのに?
何が行けなかったんだ・・・?」
ラウル「お前さ、自分の儲けのことしか見てこなかったんだろ?
だから周りが見えなくなったんだよ。残念だったね。」
ラウルの言葉に悪商人は深くうなだれるのだった。
次回、「奏 手」




