「久々の狩猟」
第17話 「久々の狩猟」
内見の後、お昼を済ませたラウルたちは一度別れ、それぞれ黒狼撃退の準備をするのであった。
~~~~ギルド建屋前 お昼過ぎ~~~~
ラウル「(カエデ姉まだかなぁ・・・)」
カエデ「ラウル~お待たせ~。ほな行こか~」
ラウル「お、やっと来た。あれ?カエデ姉防具新調した?」
カエデ「ふふふ、修理と調整してもらっただけやねんけどな?かなり調子いいねん!
やっぱりあの工房正解やわぁ」
ラウル「あぁ、昨日見つけたってところね」
カエデ「今度ラウルも連れてくな?でもあんたも身軽なのが好きなのは知ってるけど、
レザーアーマーくらいは装備せにゃ怪我するで?」
ラウル「・・・『全部避ければどうってことないわよ!』ってもう一人の姉に教わったんでね・・・
でもそろそろ防具も考えないとなぁ」
カエデ「あの子は・・・特殊やから・・・なんかゴメンなぁ・・・」
二人は軽口を叩きながら、依頼主である街はずれの牧場主のところまで移動する。
これから黒狼の撃退クエストに挑むのだ。
ラウル「っていうかカエデ姉、得物レイピアに変えてきたの?うわ・・・撃退じゃなく狩猟する気まんまんじゃんか・・・」
カエデ「あったり前やろー?ラウル!黒狼やぞ?黒狼!流石に素材は大剣には使えないけど、防具の強化には使えるやん!」
魔物全般に言えることであるが、素材を売却するのであれば傷物でない方が高額で取引が出来る。
大型の魔物なら多少傷ついていても素材は取れる。しかし小型種は違う。
大剣で胴体を裂けば、その時点で素材の価値は大きく損なわれてしまう。
ラウル「村で狩った時は、姉ちゃんが最後魔法ぶちかましたからねぇ・・・じゃあ気合い入れないとな!」
ラウルは一層気合を入れ、黒狼との戦いに思いを馳せるのであった。
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牧場主「この度は依頼を受けて下さってありがとうございます!」ペコリ
牧場主である地底族の男性は二人に向かって頭を下げた。
ラウル「(ふわーーでかーい!こんな腕で殴られたくないな~)あ、いやいやこちらこそです。
黒狼の被害、結構ひどいんですか?」
ラウルは地底族の大きさにびっくりしつつも状況を確認する。
牧場主「えぇ・・・うちの乳牛と羊が数頭・・・やつら数頭の群れの様で、我々だけでは捕まえられず・・・」
牧場主は苦い顔をしながら俯いている。
握りしめた拳にかかっている強さから、かなり悔しそうな様子が伝わってくる。
カエデ「それはしんどいなぁ・・・今回は最低限撃退出来ればええんか?」
牧場主「はい、理想はこの牧場は襲うことを嫌だと思わせられれば良いのですが・・・新月も近づいているのでちょっと焦っています」
カエデ「今日は二度目の銀月か・・・確かに新月になるとあいつらなんでか元気になるからなぁ」
ラウル「今日は銀月ってことは迎え撃つっていうよりはあいつらの縄張りに入っていく感じになるね」
一般的に新月は魔物の活動が活性化する。
逆に金月の日は魔物の活動がおとなしくなり、襲われづらくなるのだ。
一説には月の光を魔物が嫌うからと言われているが、理由はハッキリせず未だ証明されていない事象である。
ラウル「どっちの方向から狼が来たかわかりますか?」
牧場主「詳細までは何とも言えませんが、北側の柵が壊されていたので、おそらく北側の森をねぐらにしていると思います。」
ラウル「ありがとうございます!まずはそこから探ってみようと思います」
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日没を迎え、世界に夜の帳が下りる。
空には銀色の月が輝いている。
ラウル「あんまりマジマジと月を眺めることってないけど、何で色が変わるんだろうねぇ」
カエデ「さぁ・・・?いろんな説があるけど、どれもふわっとしとるしな。っと今は狼さんに集中しようか?」
既に二人は森の中に入っており、警戒しながら進んでいる最中である。
ラウル「ごめん、カエデ姉。しかし結構歩いてるのになかなか引っかからないねぇ」
カエデ「方向違ったのかなぁ?もう少し進んでダメだったら一度戻ろか?」
なかなか捜索がうまくいかず、焦りを見せる二人。
その時、遠くから狼のものと思われる遠吠えが聞こえるのであった。
ラウル「やっと!」
カエデ「どうやら縄張りに入ったらしいな!」
遠くの方から複数の足音が凄まじいスピードで近づいてくる。
二人は背中合わせになり、なるべく死角を無くすように警戒するが、木々と黒狼の所以でもある漆黒の毛皮のせいで
なかなか正確な位置を把握することが出来ない。
僅かな時間の後、足音は二人の周囲を囲むように走り回り始めた。
どこにいるのか見えない。 なのに、見られている気配だけが濃くなっていく。
カエデ「ラウル!」
ラウル「なに!?」
カエデ「作戦は!?」
ラウル「『いのち大事に』で!」
カエデ「了解!」
ここは狼たちのホームグラウンドである。
油断した瞬間に、あの世への入り口が大口開けて迎え入れてくれるだろう。
狼の足音が一つ、急激に近づいてきたのを合図に、二人はそれぞれ得物を手に前方に回避行動を取る。
その一瞬後、二人が立っていた位置に1頭の狼が飛び掛かってきた。
まずはカエデが反応し、レイピアで狼の動きを制するように目先に刺突を繰り出す。
それに対し狼が意識を向けた瞬間、ラウルは狼の首元に一直線に駆け出し、片手剣を深々と突き刺す。
即死ではない。だが致命傷であることは明らかだった。
二人は狼を一瞥すると、再度周囲の警戒を始めた。
ラウル「まずは1頭!」
カエデ「次いくで!」
二人の周りにはまだ複数の足音が響いている。
前方に足音が集中し始めた次の瞬間、ラウルは左側からヒュッという風切り音を聞いた気がした。
半ば本能的に身をかがめると、頭のすぐ上から「ガチンッ!」と狼の咬合音が聞こえた
ラウル「あっぶな!!」
ラウルは蒼褪めながらも回避に成功したが、現在地は狼の腹の下。
狼もラウルを見失っている様子で、その隙をついて逃げ出そうとしたのだが――
狼「ギャンッ!」ドサァツ
ラウル「グエッ」
狼の脳天にレイピアが突き刺さり、ラウルはそのまま狼の下敷きになったのだった。
カエデ「何やっとん!?集中しぃ!」
ラウル「わ、分かってるけど避けたこと褒めて・・・!(モゾモゾ)プハァ!」
ラウルは何とか抜け出したが、片手剣を拾う前に狼の猛攻が再開する。
今度は2頭同時に襲い掛かってくる。
武器を落としたことを理解しているのか、2頭ともにラウル側に狙いを定めたようだ。
ラウル「しっつこ・・・いっ!?」
ラウルは狼の爪撃を、上体を反らして躱す。
だがその瞬間、後方から飛び掛かってきた別の狼と目が合った。
瞬時にラウルは身体を反った状態から両手を地につき、全身をバネの様に収縮させ、その反動で後方に蹴りを繰り出す。
ラウルの蹴撃は狼の側頭部を綺麗に捉え、脳震盪を発生させる。
ラウル「とどめ!」
ラウルは狼の心臓が存在するであろう位置に向かって、双掌を叩きこむ。
鈍い衝撃。 狼の身体がびくりと痙攣し、そのまま崩れ落ちた。
3頭目を倒し、4頭目から距離を取ろうと振り返った瞬間、銀閃が目の前を走った
次の瞬間、4頭目の頭にも綺麗にレイピアが刺さっているのだった。
遠くにはレイピアを投げた後であろう、美しいフォームのままのカエデの姿
ラウル「あの・・・?カエデ姉?外れてたら危なかったんじゃ・・・?」
カエデ「安心せぇ、外さん」 フンス!
ラウル「えぇぇ・・・」
周囲には足音も気配も確認出来ず、一先ずの戦いはここに決着するのであった。
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カエデ「一応確認するんか?」
ラウル「今後の事もあるし、一応、ね。」
二人は闇夜の中を狼の足跡に沿って歩き続けている。
狼が4頭だけで全てなのか分からなかった為、巣となる場所を探しているのだ。
暫く歩き続けていくと、崖下にある洞穴にたどり着く。
入る前に洞穴前の足跡を確認するカエデ
カエデ「成体はさっきの4頭だけ見たいやね・・・それよりも小さな足跡が何頭か出入りしとる。
まだ中にいるか、それともこっちに気付いて逃げてしまったか・・・」
ラウル「逃げたとしても、子狼だけだと生き続けるのはちょっと厳しいかな・・・」
カエデ「シャキッとしい、ラウル。それも含めて自然の流れや。致し方ない。」
カエデは狩人として割り切った考えをラウルに説く。
ラウルもわかってはいるものの小さい存在が対象となると甘さが垣間見える。
やれやれ、と思いながらもカエデは洞窟内の確認を促す。
カエデ「ねぐらにしてたんやったら、酸欠の心配もないやろ。中も確認しとこか?」
ラウル「そうだね、行こう」
洞穴はそこまで深くもなく、少し進んだ先で大きく開けていた。
中には動物の骨が散乱しており、おそらく牧場にいた牛や羊であると思われた。
カエデ「見る限りでは大丈夫そうやな。そろそろ夜も開けるし、牧場まで戻ろか。」
ラウル「そうだね・・・ん?」
その時ラウルの視界の端で白い何かが動いたのを捉えた。
ラウルが近づいてみると岩陰に身を縮めるようにして、一頭の子狼が震えていた。
漆黒の狼たちのねぐらの中で、その毛並みだけが月明かりを浴びた雪のように白かった。
ラウル「なんで白毛なんだ?しかも身体が傷だらけだ・・・」
カエデ「違う種類の狼の子が混ざったのかな?それかアルビノ・・・?でもあり得るか・・・?」
動物や魔物の世界でも、異なる存在は排除される傾向にある。
体毛の色が違うならなおさら。
子狼は怯えながらもラウルたちに威嚇の鳴き声を上げる。
震えながら。必死に。
子狼「グルルル……!」
ラウル「ちっちゃ」
カエデ「感想それかい」
子狼はラウルのブーツに飛びかかる。
ガブッと噛み付くも全然痛くない。
ラウル「おぉ」
子狼「グルルル!」
ラウルはしゃがみ込む。
ラウル「今日まで頑張ったんだな」
頭を撫でる。
最初こそ抵抗していた子狼だったが。
やがて力尽きたようにその場へ座り込む。
ラウル「カエデ姉どうしよっか?」
カエデ「放置したら死ぬな」
ラウル「だよねー」
カエデは深いため息を吐いた。
カエデ「連れて帰るんやろ?」
ラウル「うん」
即答だった。
子狼はラウルを見上げる。
まだ警戒している。
だが。尻尾だけ。
ほんの少し、一度だけ揺れた。
ラウル「カエデ姉」
カエデ「ん?」
ラウル「また家族が増えたね」
子狼を抱え上げながらラウルは屈託なく笑うのであった。
白毛の子狼はラウルの腕の中で小さく震えていた。
それでも目を閉じる頃には、その身体から少しだけ力が抜けていた。
生き延びるために張り続けていた緊張が、ようやくほどけたかのように。
その寝顔は、不思議なほど穏やかだった。
次回、「招待状」
あちこちで水害被害のニュースが多いですね。
被害に遭われたみなさまが一刻も早く、元の生活を取り戻せます様、微力ではございますがお祈り申し上げます。
読みづらい場所などありましたらご指摘ください。
ご感想などいただけますと執筆モチベーションに直結しますので、とてもありがたいです。
引き続きよろしくお願い致します。




