表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元悪役令嬢、ニートを目指して世界を放浪中  作者: 浦賀やまみち
黄金の日々の崩壊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/5

第03話 王と侯爵の密談




 王太子ルパートと侯爵家令嬢アメリアの突然の婚約破棄があった、その日の夜。


 王立学園ではなおパーティが続き、若者たちは踊り明かしていた。

 だが、ラバマ王国王城デトロイは静かに混乱していた。


 本来なら閉じられているはずの裏門が、ひっそりと開く。

 そこから侯爵家当主の馬車が入り、やがて庭園の東屋へと案内された。


 ランプの淡い明かりの下、そこには国王が待っていた。



「早かったな」

「国の一大事とあらば」

「夕食は食べたか?」



 庭園の東屋には、簡素な食事がすでに用意されていた。

 パンとスープ、ワイン。



「まだにございます」

「儂もだ。共に食べよう」



 国王が席に着くと、侯爵家当主もそれに続いた。




 ******




「やはり、陛下もご存知でなかったのですね」



 庭園の東屋には、夜の冷えた空気が静かに満ちていた。

 ランプの火だけが、揺れる影を二人の間に落としている。



「ああ、最初に報を聞いたときは、面白くない冗談だと思ったよ」

「……どうします?」



 食事はすでに終わっていた。

 腹は満たされているはずだった。



「あの場には、この国の貴族子弟が集っている。

 他国の王族もな。もう止められまい」

「……ですな」



 それでも、胸の奥のつかえだけは消えない。

 東屋の中に、長い沈黙が落ちた。



「飲め……。飲まねば、やっておれん」

「いただきます」



 国王は、自らワインボトルを手に取った。




 ******




「娘が、少し焦っていたのは把握しておりました。

 件の男爵家令嬢にいやがらせをしていたのも……。」



 東屋の空気がわずかに重くなる。



「しかし、その上で『なぜなのか』と思わざるを得ません」

「それよ」

「男爵家令嬢を密かに調べさせました」

「わしもだ」



 小さな夜風が、庭園を抜けてゆく。

 ランプの火がかすかに揺れた。



「サハルハ男爵家は、先王のときの大戦で名を挙げ、新興の三代目。

 辺境の村を二つ治めているに過ぎません。中央の政治基盤はないに等しい。

 これでは、貴族からの大きな反発が出るに決まっています」

「側妃なら、まだしもな」

「娘の父としては、受け入れがたいですが、まさしくです。

 そこが妥協点でした。私としても、サハルハ男爵程度なら敵にもならない」

「では、これは知っているか? あの娘は、元平民だぞ」

「なんっ、ですと?」



 侯爵家当主のグラスを持つ手が止まる。

 その動揺は、テーブルの上にワインの染みを落とした。



「サハルハ男爵は、子どもに恵まれなかったようだ。

 だから、隣国の孤児院から養子を迎えた」

「待ってください。

 こういってはなんですが、子宝に恵まれない話はよくあります。

 そして、他家から養子縁組することも。

 それが、わざわざ平民を選ぶ理由はなぜです? それも男子ではなく、女子を」

「ひと目見て、ティンと来たそうだ」

「……陛下?」



 一瞬、場の空気がわずかに緩む。

 だが、その緩みは長くは続かなかった。


 国王は自分のグラスにワインを注ぎ、それを一息に呷った。



「ふっふっ……。この報告を聞いた当時、わしもお前と同じ顔をしていたのだろうな」


「何にせよ、サハルハ男爵は出会ったその日に養子縁組を申し出ている。これだけでも異常だ」



 秋の虫の声が遠くで途切れずに響いている。

 庭園の木々が夜風にさわさわと揺れた。


 それだけが、そこにあった。



「しかし、男爵家令嬢の評判はいい。すこぶると言っていいほどにな。

 ルパートが心を許すのも納得ができる」



 グラスがテーブルに置かれる音がした。



「まあ、それは同意します」



 侯爵家当主は、国王のグラスへとボトルを傾けた。

 とく、とく、とワインが満ちていく。



「ただ、おかしいのだ……。

 孤児院にも探りを入れたが、孤児院での彼女は内気で無口な少女だったそうだ」

「今と違いすぎませんか?」

「ああ……。まるで、『人』が変わったようにな」

「そして、その娘が今、ルパートのみならず……

 宰相の息子も、騎士団長の息子も、神官長の息子も、法務大臣の息子も、虜にしている」



 ランプの揺れる明かりが、グラスの赤をゆっくりと揺らしていた。

 その光はテーブルの上にも落ち、踊っているように見えた。



「あの年頃なら、奪い合いが起きて当然なはずなのに、ですね」

「いずれにせよ、もう流れは止められん」

「……はい」



 空気が重く沈む。

 風も虫の声も、途絶えていた。



「備えよ。……わしも備える」

「御意」



 何も変わらぬまま、何かだけが動き出していた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ