中二の初恋
中二の夏、初めて性欲というものを感じた。
思えば、周りの女の子たちは小学生くらいから恋だの愛だの語っていた気がする。私は、それが何だかよくわからなかった。人に恋焦がれるという気持ちは、子供だった私の想像力のはるか向こう側にあった。
親友を好きという気持ちと何が違うんだろう
父や母を好きだと思う気持ちと何が違うんだろう
恋情というものにまるで疎い私は、周りの女の子から浮かないためだけに話を合わせていた。好きな人を聞かれれば、当時はやっていたアイドルグル―プのメンバーの名前を答えた。顔の見分けもつかないのに。
恋に疎いまま、私は中学校二年生になった。
いわゆる『コイバナ』をするようなグループとはなんとなく疎遠になり、私はいわゆるオタクグループに所属した。学校ヒエラルキーは底辺に近かったが、よくわからない色恋の話より、魔法やロボットの話をしている方がずっと性に合っている。
ある日の席替えで、私は壁際の席に移動した。隣の席は話したこともない男の子。名前は前川君。
よろしく、と小さく言って鞄の中身を机に入れようとした瞬間、私は中身を床にぶちまけた。床にはペンケース、教科書、ノート、生徒手帳――そして小説、高畑京一郎作の『クリス・クロス 混沌の魔王』半裸に近いコスチュームを着た女性が表紙のその本は、決して卑猥ではなかったが『私がオタクである』
ことを宣言しているみたいでぞわぞわとした居心地の悪さを感じた。
私は好きでオタクをやっている。だが、同時にオタクであることを心中とても恥じていた。
「クリス・クロス?」
前川君がぽつりとつぶやいたのを私の耳はしっかりキャッチした。
真面目で優等生タイプの前川君が、まさかこんなマニアックなライトノベルを知ってるなんて。
そこから隣の席のよしみでぽつりぽつりと会話をするようになった。ほとんどが好きな小説の話、授業の話、私が授業中寝てしまった時は優しく揺り起こしてくれた。
恋愛などしたことはないが、異性にかまわれるという初めての感覚に私は甘やかな心地よさを感じていた。
「ほら、もう次の授業いくぞ」
そういって初めて彼に頭を撫でられた時、てっぺんからつま先に電流が走った。もっと触れられたい、私の本能がそう叫んだのだ。心臓が早鐘をうち、息が浅くなる。変態だと思われないよう、私は黙って頷いた。
触れたい、知りたい、確かめたい。ああ、この気持ちは何だろう。早熟な女の子たちがこっそり学校に持ち込んだエッチな雑誌の記事を思い出す。
卑猥な感情だと思っていたものは醜悪ではなく、それを人は恋と呼んでいることが頭の中ではっきりと繋がった。この気持ちを口にすることは陰キャの私はきっとない。
ただ私は今日、前川君に初恋をした。
―了―




