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実らなかった恋の話ー初恋がいっぱいー

私の愛しい人は紙の中にいる。

 神様、どうして私のことを厚みのある世界へ造られたんですか?彼に立体感を与えてくれなんて贅沢は言いません。ただ、願わくば彼と同じ色と線だけの世界――二次元へ私を連れて行って下さい。

 毎夜毎夜、私は神様に同じ願いを祈り続けた。それは決して叶うことはなかった。もちろん、そんなばかばかしい願いが叶うなんて本気で思っているわけじゃない。私はもう中学校二年生。大人って訳じゃないけれど、おとぎ話を本気で信じるほど子供ではない。

 ただ、自分の中に初めて生まれた感情にどう折り合いをつけたらいいかわからないだけだ。

 あの優しいまなざし、少し低めの声、流れるような金髪、主人公をさりげなく庇うその優しさ――そう、私の好きな人は小説『スレイヤーズ!』のイケメン剣士、ガウリイ・ガブリエフだ。この恋が叶わないことが分かっている。私は三次元、彼は二次元の生き物だ。文字通り次元が違う。否、仮に二次元に入れたところで、彼にはリナ・インバースという唯一無二のバディがいる。彼女は剣の才能がある、魔法の才能がある。そして何より厚みがない。お似合いな二人に私は幾度歯噛みし、羨ましさで胸が苦しくなっただろう。

 自分を慰めるために、私は二次元の中にもう一人の自分を創り出した。A4サイズの大学ノートの中でだけ、私の分身と彼は二人きりになることができた。          「田中、何読んでるの?」

文芸部の部室で、部長の吉田先輩に話しかけられた。私は恐る恐る小説の表紙を見せた。ライトノベルなどオタクの読むものだとバカにされるかも知れない、そう考えたら体の芯の部分が固く冷えていった。しかし吉田先輩の反応は想像と違った。

「へぇ、いいじゃん。ボクも好きだよ」

その言葉を合図に、私の心の扉がパカリと開いた。

 それから吉田先輩とは、小説だけではなくいろんな話をした。ゲームやアニメはもちろん、家族の話や将来の話。夏には一緒に市民プールに行った。制服姿とは違う水着姿の先輩を見て、目のやり場に困ったのは内緒だ。

いつしか先輩とキスをする妄想に取りつかれている自分に気が付いた。三学期が終われば、先輩は卒業してしまう。今みたいに毎日会えなくなる。キスは無理でも、せめて告白くらいはしたいと思うようになった。

だが、私には告白を思いとどまる理由があった。先輩はちゃんと三次元で実在している。会話も交わせる。ただ――性別が同じなのだ。

私はレズビアンなのだろうか?そして先輩は女の子同士の恋愛は肯定してくれるだろうか。

悩みに悩んで、何も言えないまま卒業式を迎えてしまった。

花道を歩く先輩に私は意を決して言った。「先輩、第二ボタン下さい」

先輩は笑って第二ボタンを引きちぎり、私の掌にそれを押し込んだ。

――一生の宝物にする――

そう誓って、私は彼女の後姿を見送った。

それから数日間、私は抜け殻のような日々を過ごしていた。いつもの通り夕飯を食べながら音楽番組を眺めていたら、あるグループに目が留まった。

ボーカルが赤い髪の長髪。低い声。面差しが、吉田先輩に似ている。見た目は女性なのにのにちゃんと男だと司会者が言った。

――次元が同じで性別が違う――

雷が落ちたような感覚だった。

――この人になら、私も人並みの恋ができるかもしれない――

私の初恋はまだ始まったばかりだ。 

               ―了―


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