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異界の境界施設  作者:
Case-M

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18/27

Case-M #16

朝、目が覚めた瞬間に――息が深かった。


 胸の奥まで空気が入って、喉がすっと通る。昨日まで「吸えてるのに、足りない」みたいな薄さがずっとあったのに、今日は最初の一呼吸から、形が整っている。


 ……それが、ちょっとだけ怖い。


 良いことのはずなのに。良すぎると、逆に「ここに合わせてしまった」みたいで。


 喉元が熱い気がして、指がそこへ行きかける。鏡を見れば、きっとあの模様がある。見たくないのに、見たい。


 俺は指を引っ込めて、代わりに髪をぐしゃっと撫でた。


「寝起きがいいって、怪しいな……」


 自分に軽口を投げて、口の端を上げる。


 笑えば、だいたいの不安は薄まる。薄まったふりをしてくれる。

 ――それが、最近の俺のやり方になっている。




 廊下に出ると、ちょうど曲がり角のところにリュカがいた。


 相変わらず表情が固い。制服の襟元まできっちりしていて、目だけがやたらに冷静。


「起きたか」


「起きた。おはよう」


「食堂。空いてる時間。今」


 短い。容赦がない。


 でも、言われた通りに足を向けると、呼吸が勝手に整うのが分かる。


 最短の動線。人の少ない時間。曲がり角の角度まで計算してるみたいな歩き方。

 俺はその後ろをついていくだけで、肩の力が抜けていった。


 ……嫌だな。楽だ。

 楽って、こういうことだっけ。

 自分で決めなくていいのは、こんなに安心するんだ。



「今日、検査とか?」


「必要な分だけ。余計な回数は増やすな」


 リュカの言い方はいつも通り淡々としているのに、途中から声の端に「面倒を増やすな」じゃなくて「危ない橋を増やすな」っていう温度が混じっている気がした。


「監査……来るとか?」


「来る。ログは残る」


 それだけ言って、リュカは俺の歩幅に合わせた。

 合わせたことを悟られないように、あくまで自然に。


 ツンデレって、こういうやつだよな……って思う。俺の世界の言葉を当てはめると、妙に納得してしまう。





 食堂は、今日もあったかい匂いがした。


 朝でも昼でもない、ここだけの時間。湯気が空気を柔らかくして、光が丸い。


 俺が席に着く前に、でかい影がドンと視界に入った。


「ミナトぉ〜。おはよぉ〜」


 ゴルドだ。


 上半身が、相変わらず「壁」みたいに分厚い。筋肉の輪郭が制服の布越しでも主張してるのに、口調はやたらと柔らかい。指先の動きが妙にしなやかで、仕草がいちいち大きい。


 そして、その目だけが――笑ってない。


「おはよ。今日も早いな」


「早いじゃないの、あんたが遅いのよぉ。顔、見れば分かるんだから」


 ゴルドは俺の前に器を置いた。


 昨日も一昨日も見たやつ。もう説明がいらないやつ。

 俺は、自然に両手で器を包んだ。

 熱い。手のひらに、じわっと移ってくる。

 喉が「来る」って先に知ってる感じがして、唾液がほんの少し増える。


 ……違和感が、減ってる。


 昨日は「飲んでいいのか」って一瞬だけ頭をよぎったのに、今日は「飲めば楽になる」が先に来る。


 迷いが遅い。遅いのが、怖い。


 俺は一口含んだ。


 温度が喉の奥を撫でる。つかえていたものが、ほどける。


 二口目で、息が胸の下まで落ちた。肩が抜ける。力が抜けて、椅子の背もたれに体重が移る。

 それがあまりに自然で、自分でも気づかなかった。


 ゴルドが「ほら」って顔をするまで。


「……やば。効く」


「でしょ」


「効くって言い方、薬みたいだな」


「薬みたいなもんよ。生存のためのね」


 ゴルドは軽口のまま、でも目だけは真剣だった。

 俺は器を持ったまま、少しだけ黙る。

 怖さの居場所がなくなって、代わりに「安心」が詰め込まれていく感じがする。


 そこへ、食堂のざわめきの隙間から、声が落ちてきた。


「……最近さ、思い出せないこと増えたんだよね」


 別の席。保護対象――人間の男が、隣の人に小さく話している。

 俺は反射で耳を澄ませてしまった。


「名前とか?」


「うん。あと、家の匂い。思い出そうとすると、喉が乾く」


 喉が乾く。

 その言い方が、俺の背中をぴりっと撫でた。


 リュカが一瞬だけ視線をそっちにやって、すぐ戻す。

 ゴルドは器の縁を指で軽く叩いて、俺の意識をこちらに戻した。


「ミナト。飲みなさい。冷めるわよ」


「……うん」


 俺は口の端を上げて、もう一口飲んだ。

 温度が戻してくれる。考える余地を奪うみたいに。





 今日は交流会、二回目。


 初回の時みたいに「何が起きるか分からない」怯えはもう薄い。

 薄い――薄いのに。

 集合場所に向かう途中、俺は廊下の角で別の保護対象と並んだ。


 年齢は俺より少し上に見える。目の下にクマが濃い。笑うのが下手そうな顔。


「……お前さ」


 いきなり、低い声。


「なんであんなに担当官たちと仲良いの? 怖くないの」


 直球すぎて、俺は噴きそうになった。


「怖いっていうか……え、怖い? みんな、優しいじゃん」


「優しいのが怖いんだろ」


「……ええ〜」


 俺が笑うと、相手は眉をひそめた。


「優しいのに、なんで帰れないの」


「それは……」


 言いかけて、俺の喉が渇いた。

 返せる言葉がない。

 その瞬間、前からレイヴが現れた。



「はいはい、雑談はほどほどね。今日は手順、ちゃんと回すから」


 軽い口調。けど、目は仕事の目だ。


 タグに指をかざして、俺の喉元あたりを一瞬だけ見てから、何も言わずに頷く。


「問題なし。……一応、今のうちに水飲んどけ」


「了解」


 俺が返事をすると、レイヴはニコッと笑った。

 あの軽薄な笑顔。なのに、今だけは妙に安心が先に来る。


 リュカが前に出て、ルートを示す。

 俺はそれについていく。

 従ってると、なんだか安心する。

 その自覚が、今日もちゃんと胸の奥で育っている。





 会場は、前回より少しだけ空気が重かった。


 重いというか――言葉が少ない。


 みんな、笑い方が「作り」になっている。


 アイスブレイクの順番が回ってくる。


「じゃあ次、そこの君。名前と、簡単に自己紹介お願い」


 俺は椅子から半分立ち上がって、口を開く。


 名前。

 本名。

 成宮湊。


 言おうとした。

 喉の奥で、引っかかった。


 おかしい。名前だ。自分の名前だ。何回も言ってきた。言えないはずがない。

 なのに、舌の置き場が分からない。


 「な」って出そうとすると、唾液だけが増えて、音が形にならない。

 時間が、変に伸びる。


 司会役が、もう一度こっちを見た。


 隣の席の人が、こっそり肘で俺をつついた。


「……おい、大丈夫? 名前だぞ」


 その小声が、逆に耳に刺さって、焦りが跳ねる。


「な、成……」


 出ない。

 喉元が熱い。息紋がある場所が、熱い。

 笑って誤魔化そうとして、でも笑いが喉で引きつった。


 笑いにもならない。何にもならない。

 ただ時間だけが、じわじわと伸びていく。


 ――成宮。湊。成宮。湊。


 頭の中では言えてる。

 なのに、喉と口が繋がらない。


 それが怖くて、焦りがさらに息を浅くして、余計に出なくなる。


 そこで、口が勝手に動いた。


「ミナト。……ミナト、です」


 言えた瞬間、息が通った。

 胸の奥まで空気が落ちた。


 会場は拍手ともつかない拍手をして、司会役が「よろしく」と流す。


 でも、俺の隣の人間は、目だけで俺を見た。


 交流会の後半、休憩のタイミングでその人が言った。


「……名前はさ、大事にしろよ」


 悪気のない声だった。

 照れ隠しみたいに笑いながら言うのに、内容だけが鋭い。


 俺は笑って返した。


「うん。……そうだよな。俺は……成宮……湊だよ」


 やっと、音が出た。

 でも、遅かった。自分でも分かる。

 その一拍の重さが、うまく笑顔に収まらなかった。



 後半、帰還した人の話が出た。


「……条件を満たして帰った人、実際にいるらしい」


「マジで?」


「うん。委員会に通って、帰還門を通ったって」


 その言葉だけで、会場の空気が少し変わった。

 希望の匂いがする。みんな、顔が少しだけ上がる。


 俺も、胸がきゅっとなった。

 帰れる。帰った人がいる。


 なのに、別の声も混じる。


「帰りたくないって言った人も、いたらしいよ」


「は? なんで」


「知らない。……でも、そういう噂」


 噂。断定じゃない。けど、耳に残る。

 さらに、ひそひそ声が続いた。


「喉に模様が出たら……戻れないって」


「やめろよ、そういうの」


「噂だって。でもさ……」


 喉が乾いた。

 俺は無意識に喉元へ手をやりそうになって、寸前で止めた。


 リュカが俺の横に立つ。


 さりげなく、人の流れから俺を外す立ち位置。


 ゴルドは一歩後ろに入った。

 距離で守る。


 レイヴは進行を切り上げるタイミングを計って、声を上げた。


「はい、今日はここまで。みんな、手順通り戻るよ」


 その瞬間、俺はふっと息ができた。


 3人が近くにいれば、俺、息ができる。


 それが今日いちばん怖い正解だと、分かっていた。




 夜、自室。


 昼の言葉が、まだ喉に残っている。

 噂。名前。模様。帰れる人。帰りたくない人。

 息が浅くなる。

 胸が詰まる。吸ってるのに入らない。


「……やば」


 声に出したら余計に現実になって、喉が渇いた。


 俺は一瞬、迷った。

 レイヴを呼んだら――また、安心してしまう。

 安心して、全部がどうでもよくなるみたいで怖い。


 でも。


 苦しい。

 苦しさのほうが、勝つ。

 俺はタグに触れて、呼び出しの手順を踏んだ。

 返事は早かった。


 ノック。


「ミナト? 入るよ」


 レイヴが入ってくる。

 いつもの軽い歩き方なのに、目は一瞬で俺の状態を拾った。


「顔色、だいぶ悪い。座って」


「……ごめん。大丈夫、って言いたいんだけど」


「言わなくていい。息、合わせよう」


 レイヴが目の前にしゃがみ込む。

 距離が近い。近いのに、怖さより、喉が「楽」を求める。


「俺の目、見て」


 言われて、俺は反射で目を合わせた。

 黒い。深い。

 覗き込まれてるのに、引きずり込まれるみたいに目が逸らせない。


「吸って。……吐いて。そう。俺に合わせる」


 俺は言われた通りに吸う。

 でも、戻り切らない。胸の奥のざわつきが残る。喉の渇きが引かない。


「……だめだ。戻んない」


「うん。今日は、いつもより残ってる」


 レイヴは、笑わない。

 軽薄な仮面を外して、仕事の顔で、淡々と続けた。


「昨日、言ったの覚えてる?」


「……治らなかったら、別の方法……」


「そう。怖がらせるためじゃない。安全のため」


 レイヴはポケットから小さなケースを出した。

 見せるというより、手順として置く。


「許可、取ってある。ログに残す。タグでバイタル見ながら、少量」


「……」


「嫌ならやらない。やめようって言ったら、すぐ止める」


 "止められる"って言葉が、俺の理性を少しだけ保つ。


 でも、その理性のすぐ下で、喉が先に反応してしまっている。

 乾いてる。

 欲しい。


 口の中に唾液が溜まって、飲み込む音がうるさい。



「……それ、なに」


「雫。安定化の補助」


「……」


「俺のやつ。担当の手順で使う。今日は、処置として」



 処置。

 その言葉が、妙に安心を連れてくる。

 俺は首を振りかけて、止めた。


 苦しい。さっきから息が浅い。目が熱い。

 何が怖いのか分からないまま、ただ怖い。


 迷いの手前に、喉だけが「欲しい」と言い続けている。


 レイヴはもう一度、言った。


「ミナト。俺の目見て」


 目を合わせる。

 喉元が熱くなる。

 頭が、なんか、ぼうっとする。


 不安が、輪郭を失っていく。

 消えるというより、遠ざかる。


 レイヴの声が近い。


「大丈夫。俺が見てる」


「……っ」


 レイヴがそう言うなら、そうなのかも。

 その"そうなのかも"が、俺の中で勝ってしまう。

 俺は小さく頷いた。


「……お願い。楽になりたい」


 声が掠れた。

 言ってしまった、と思ったのに、喉が少し楽になった。


 言うだけで楽になる。

 それが、もう怖い。


 レイヴの目がほんの少しだけ柔らかくなった。

 でも、すぐに仕事の手つきに戻る。


「分かった。少量。口、開けて」


 ケースが開く音。

 空気の匂いが一瞬変わる。甘いわけじゃないのに、喉の奥が「来る」って分かる。

 レイヴの指が、俺の唇の前で止まった。


 一拍。


「止めたくなったら、目で言え。すぐ分かる」


「……うん」


 俺は口を開けた。


 雫が、舌先に触れる。


 冷たい、じゃない。


 熱い、でもない。


 温度として認識する前に、喉がほどけた。


 息が入る。

 胸の奥まで、空気が落ちる。


 安心が、身体に先に来た。

 遅れて、心が「え、なにこれ」って追いかけてくる。


 追いつく前に、唾液が溢れて、口の端に落ちそうになる。


 俺は慌てて飲み込んだ。


 飲み込む音が大きい。


 喉が鳴る。

 指先が震える。

 肩が勝手に落ちる。


 目の奥が熱くて、涙じゃないのに潤む。


「……っ、は……」


 息が、深い。


 深すぎて、さっきまでの苦しさがどこへ行ったのか分からない。


 怖かったはずなのに。

 迷ったはずなのに。

 その全部が、今はひどく遠い。


 レイヴがすぐにタグを見て、俺の顔を見て、またタグを見る。


「バイタル、落ち着いてる。……効いてる」


「……効くって……また言っちゃった」


「今は言っていい」


 レイヴが笑いかけて、途中で止まった。

 笑ったことに気づいたみたいに、口元を引き締める。

 その一瞬が、妙に刺さった。


 俺は無意識に、レイヴの袖を掴んでいた。

 縋るみたいに。

 掴んでることに気づいて、離そうとして――離せなかった。


 上がった息が頬を蒸気みたいに熱くする。

 視界が滲む。

 俺は潤んだ目でレイヴを見上げてしまう。


 レイヴの喉が、小さく動いた。


「……ミナト」


 レイヴは俺の手を外さなかった。

 外す代わりに、手の甲を親指で一度だけ撫でる。


「大丈夫。ここまで」


「……うん」


「回数、増やさない。今日は一回で終わり。ログも残す」


 淡々と言いながら、レイヴは俺の目をまた見た。


「安心、できる?」


「……できる」


 できる、って答えた瞬間、胸がふわっと軽くなる。

 怖いことを考える前に、安心が勝つ。

 それが、今日のいちばん怖いところだ。


「よし。……寝ろ。呼吸、戻ってる」


「戻ってる……うん」


 レイヴは立ち上がりかけて、すぐ止まった。


「……あと。これでダメな日が続くなら、別の手も考える。けど、勝手には増やさない。許可が要る」


「許可……」


「俺が取る。ミナトは、苦しくなる前に言って?」


 言い方は優しいのに、手順が増える。


 囲いが、ちゃんと締まっていく。


 その場に、リュカが顔だけ出した。


 入るでもなく、境界線から確認する。


「ログ、残したか」


「残した」


「回数は」


「一回」


 短い確認。線引きの音。



 ゴルドは廊下側から「大丈夫ぅ?」とだけ声を飛ばして、すぐ引っ込んだ。


 心配を見せすぎない距離。なのに、見てる圧。


 俺はその全部に守られて、守られてることにほっとしてしまう。


 ……帰りたい、って気持ちが、どこへ行ったのか分からないまま。




 夜更け。


 スマホのメモを開いて、指を動かす。


【ミナト】

今日、交流会2回目。

帰れた人がいるって話を聞いた。希望ってこういう感じなんだと思った。

でも、名前が詰まった。

成宮湊って言おうとしたのに、喉で引っかかって、ミナトって言った。

隣の人に突っ込まれて、やっと「成宮湊」って音が出た。遅かった。

あと、最近思い出せないことが増えたって話も聞いた。

胸が、ざわっとした。

夜、息が戻らなくなって、レイヴを呼んだ。

雫(って言ってた)を少しだけ使って、落ち着いた。

怖かったのに、安心が勝った。

勝ったのが、もっと怖い。

でも、楽だった。

楽だったのが、いちばん怖い。



 ――書き終えて、俺は画面を見つめた。

 指先がまだ少し震えている。

 でも、呼吸は深い。

 深い呼吸は、気持ちいい。

 俺はスマホを伏せて、目を閉じた。

 喉元を押さえそうになる手を、布団の中に入れた。




 ――別端末に、通知が一つ上がる。

 レイヴはそれを見て、指を止めた。


 業務。監督ツール。ログ確認。

 いつもの手順。


 画面に並ぶ文字列の中で、「楽だったのが、いちばん怖い」という一行が、妙に目に残った。

 怖い。


 まだ、怖がってる。

 それを確認して、レイヴは少しの間、画面を見たまま動かなかった。


 ――あれは、効きすぎる。


 ミナトが潤んだ目で縋ってきた瞬間の重さが、まだ掌に残っている気がする。

 守りたい。離したくない。


 その衝動が、仕事の言葉の皮を押し上げてくる。


 レイヴは、自分がさっき笑いかけたことを思い出した。

 処置の途中で。手順の中で。

 笑ってる場合じゃないのに、笑いそうになった。

 なぜ笑ったのか、考えた。


 あの声が、あの目が――必死で怖くて、それでも「楽になりたい」と掠れた声が。


 そう思った瞬間、レイヴは画面をロックした。


 ロックしてから、また開いた。


 「楽だったのが、いちばん怖い」


 もう一度、その行を見る。


 怖がってる。

 怖がってるのに、楽だった。

 楽だったから、また呼ぶ。


 その流れを、レイヴは頭の中で追った。

 次も、苦しくなったら呼ぶ。

 呼んだら、また楽になる。

 怖さが遠のいて、もっと呼ぶようになる。


 ――それでいい。


 そう思いながら、「それでいい」がどっちの方向を向いているのか、一瞬だけ分からなくなった。


 ミナトのためか。


 それとも。


 レイヴは画面を閉じた。


 閉じてから、廊下の暗い方へ視線を向けた。


「……もっと、ちゃんと整えないと」


 独り言は、優しい顔をしている。

 その優しさがどこへ向かっているのか、レイヴ自身がいちばん、確かめたくなかった。

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