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オヤジ太閤記  作者: 芭音


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2/8

#2 秀吉の父になる男の桶狭間

プロローグ全3話のうちの2話目になります。

続きが気になる方はブックマークをしてお待ちください。


本話の冒頭は現代視点になります。

◼︎令和十年五月 愛知県清洲市 清洲古城跡

「人間五十年 下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。」


 敦盛を舞う青年を眺めながらビールを片手に小柄な男が座っていた。


 名を木内亮治(きうち りょうじ)、最愛の妻と共に名古屋の高層マンションに暮らし、コンサルティング会社のパートナーとして働くサラリーマンである。


 今日は部下二人を連れて、顧客である清洲の大企業が開催するイベントに参加している。


「社長!お疲れ様です。今日は御社へのコンサルティング業務を引き継ぐ者を2名連れて参加させていただいてます。」


 イベントの主催者である社長を見かけて声をかける。


「そうだったね。君が新卒だった20年前から我が社に関わってくれて本当に助かったよ。寂しくなるけど、今日は楽しんでるかい?亮治くん?」


「はい!清洲城近くの公園と駐車場を貸し切るほどの大規模なイベントとは思いませんでした。すごいですね。」


「創業50周年と会社の改名を発表するイベントだからね。再スタートの気持ちを込めて、この場所を貸し切ったんだ。清洲が本社の我が社にはピッタリじゃないか!」


 先ほど着いたばかりで、ただの公園と駐車場にしか見えない場所を見ながら頭に疑問符を浮かべていると、腹落ちしていない事を察した社長は言葉を続けた。


「この場所は清洲城跡、川の向こうにある清洲城天守は後世に再建されたもので、信長が居た頃の清洲城はまさにここにあった。

 そして、かの有名な桶狭間の戦いでは信長は清洲城で敦盛を舞った後に、今川義元を討ったんだ。そこから信長の躍進は始まる。

 それに倣って、今回のイベントでは仮設の舞台を用意して、敦盛を舞っているんだ。」


 この日本史好きの社長との付き合いで世界史専攻を何度も後悔してきたが、今日もまた後悔することになりそうだ。おっと、これ以上多忙な社長を引き止めてはいけない。


「勉強になりました。この2人に引き継いだ後も御社の発展をしっかりとサポートしますのでよろしくお願いいたします。」


「おう!しっかりと頼むよ!残念ながら天気はこの後に崩れる予報だから気をつけながら楽しんでね。」

 

 多弁な社長を皮切りに、この会社の役員・キーマンに挨拶に周り、先に部下を職場に返す頃にはすっかり2時間経っていた。


 改めて舞台を見ると敦盛を華やかに舞う青年が目に止まり、最前列で舞を眺めていた。


 まさに芸術。


 息をするのを忘れるほどに舞を見ていた。仕事ばかりの人生、その余白に芸術を楽しむことなど忘れていた。明日の休みは美術館に行こうかと思いながら腰を上げた()()()だった。


 亮治の頭上で大きな雷鳴が鳴り響いた。


 直後、経験したことのない痛みが全身を貫き、稲妻が自らの身に振り注いだことを悟った。

 意識が朦朧とする中で妻の顔を思い浮かべたのを最後に、目の前が真っ暗になっていった。


 数秒前まで確かに自分の脳だった海馬に、一度も会ったことのない家族との思い出が頭を駆け巡る。


 見慣れぬ服装、見慣れぬ場所、見慣れぬ乗り物、見慣れたくもない自らの行い(ひとごろし)…。木下弥右衛門という男の中に自分が入っていく感覚がした。


 自らの記憶と弥右衛門の記憶の二つが混じり合う。




◼︎永禄三年五月 尾張国 清洲城


 真っ暗な視界が開け、目の焦点が合いだして目の前の人間を捉えると、初対面のはずだが彼のことが織田信長であることを認識できた。


 そのオーラは、過去に世界有数の企業の会長にお会いした記憶を思い出させるには十分の迫力だった。

 

 記憶の融合は進む。木下弥右衛門という同年代の男の人生は、令和の世を生きる俺には刺激的だったが、何故か当たり前として受けられつつある。共存が成されていくのだと思った。


 その中から気になることを掘り起こす。弥右衛門の息子についてだ。その名を藤吉郎と言う。世界史専攻であっても、木下藤吉郎=豊臣秀吉であることはすぐに理解できた。雷に打たれ、時代を遡り、()()()()()()になってしまったらしい。


 パニック状態になっているためか思考回路が口からこぼれ落ちていた。


 状況の整理に区切りをつけたことで、パニック状態が落ち着き始めた。だが、余裕ができたが故に、首に当てられている刃物に気付き、自身が窮地に立たされていることを認識した。

 

 俺は窮地を脱するために、仕事のときのように合理的に思考を加速させる。


 まずは状況の整理だ。体の持ち主である弥右衛門は、目の前の織田信長と敵対関係にある。そして、弥右衛門は今川家を勝利に導きうる情報を手にしているが、落雷による炎に囲まれた逃げ場のないリングの中で信長と一対一。相手は抜刀済みのアドバンテージ付きだ。戦ったり逃げたりといった勝負では勝てないと結論付けた。


 身体を活かした勝負が無理なら、頭で勝負するしかない。信長に自分が価値の高い人間であることを説き伏せて、織田家への寝返りを成功させるのが最後の望みだ。


 信長と俺は無言のまま睨み合い続ける。


 瞬間的であるが深い思考の結果、ある勝ち筋を思いついた。


 木下弥右衛門が今川家の忍び…この時代で言う透破の頭領であることを利用する。未来人の俺が介入せずとも、信長は桶狭間で義元を討つだろうが、その手柄を木下弥右衛門のものとする。実際に討ち取るのではなく、情報提供者としてだ。弥右衛門の記憶からも桶狭間付近を通ることが予測できるので無理のある話ではないはずだ。今回の介入によって義元が通る場所が少し場所がズレることがあっても最新の情報から修正すればいい。うまくやれば遁尾衆という情報網を活用できる。


 つまり、今川家の尾張における情報網と共に織田家へと裏切る。一か八かの奇襲に打って出る信長にとって、今川の目を塞ぎ、織田の目となることは一石二鳥だと感じるはずだ。


 今回の窮地を脱するだけでなく、今後のためにも織田信長と息子である豊臣秀吉の陣営に寝返ることは良いことだと思う。天下人秀吉を父として追いかけるだけで良いので楽に生きていけるはずだ。その為にもここで死ぬ訳にはいかない。そんな決意を胸に信長に向かって叫ぶ。


「我が名は木下弥右衛門。今川に仕えし透破の頭領よ。我が力をお主に貸そう。交渉次第で義元を討つ機会を約束してやる。」


 発声を終えると、弥右衛門の意識が急激になくなっているのに気がついた。共存ではなく、自分の意識に替わるのだと察した。感じることができる後悔の念、他人事ではない感情に思わず脳内で問いかけた。


 (思い残すことはないか?)


 後悔の記憶を共有するように弥右衛門は伝えた。


 (私の家族をこの世で一番幸せにしてくれないか?皆が不安なく浄土へ旅立てるように。)


 (わかった。あとは任せておけ。)

 

 その言葉を最後に、弥右衛門の体には()()()()()()()()()()()()()()()()()

次でプロローグはラストです。

続きが気になる方はブックマークをしてお待ちください。

信長との会話が加熱する第3話は明日(1/5)に投稿予定です。

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