32 出口のない絶望と言う名の死
◇
ガゴッ
「いっ……たぁ……!」
体重を乗せて脱臼した右肩を下にして通路へと倒れ込んだ所だ。嫌な音がして脱臼した肩の関節が無理矢理はまるべき場所にはまり直す。
もう私の体もボロボロだ。ユートの最後ほどではないが、色々と自由も応用も利かなくなってきた。
痛みはあるにせよ右肩はこれである程度動きが回復出来たが、腹部の裂傷は更に酷い。応急手当で止血剤を使って塞いだが動く度に止血した傷の周りの皮膚が裂ける。肺も業火で少し火傷したらしい。呼吸が熱く、重い。
カチッ
床がミシッと音を立て、一気に沈み込む。足元から一斉に鋭い杭が打ち出される。横に飛び退くが間に合わず、その杭が太腿とふくらはぎを貫通し、肉を引き裂く。体を裂かれる嫌な音と血飛沫が上がる。
「ぁああ! ……っ、いっ……!」
叫ぶ間もな肉塊が上から落ちてくる。ずっと私と同じスピードで移動しながら肉塊も追い掛けて来ている。もう空気の質がどうこう言っている余裕はない。
私は先程作った松明で肉塊を焼き、トラップを避け、進んでいる。最も避けられていなくってトラップを発動してしまい、肉塊にも喰い付かれている。
その頻度が随分と増えた。
小さく細い壁の隙間を発見する。それは狭く、粘液と血がこびり付いたシャフト。腐った肉の匂いが強い。
――――このまま行くのはもう無理だ。こっちに懸けてみるか
そのシャフトは始めは登っていたがすぐに横へとくねる。幾つも角を這い曲がり、進んでいく。トラップを気にしなくていい分、気が楽だが、肩、腹、足の痛みがまるで体を引き裂くようだ。
ズル……ル……
その音がするだけすぐに焚火の火を高アルコールで飛ばす。もう手持ちのアルコールも少ない。
その瞬間、石の隙間から肉片が滲み出し、私の腹の傷に喰い付く。
体を強くひねり、ナイフでそいつを切り離す。
狭い場所で柄を引いてしまい、その細いシャフトの石壁に柄が突き刺さる。もう力加減すらコントロール出来ていない。
嫌な音がしてシャフトは震え、大きな亀裂が空間を避ける。
――――マズ……イ!
崩壊する振動に石が落ちてくる。
急いで開いた隙間に身を押し込む。
中は隣の部屋に繋がっている。
床に転がり出ると、埃だらけの平らな床が血まみれになっている。腐敗の進んだ遺体が幾つも転がっている。
息が出来ない。
痛みに視界が掠れ、自分の体を見る。
左足は完全に裂かれている。露出した自分の白い骨に恐怖を感じる。
このダンジョンは人間を手放す気はない。幾十ものトラップや蔦の操り肉人形に体が震える。
――――ユート……私も思った以上に早く逝くかもね
大きな肉塊が背後から襲い掛かる。
床に転がっている遺体ではない。私と同じく壁の隙間からこちらへと逃げてきた個体だ。
私は自分から流れ出ている血で滑る床に足を取られながら、そいつに刃を何度も刺し込む。
だがどれも浅い。
肉塊から骨がむき出しの手が伸びる。
腐液を垂れ流しにしている巨大な目玉が私を追いかける。
剣を突き刺すと中から人間の長い髪が絡まって出てくる。
もう……まともに戦えない。
私は真っ赤になって腐臭のする体液に覆われた体を、引き摺って逃げる。
カチッ
「畜生! ユート、ちゃんと迎えに来い!」
私はトラップの作動した音を聞きながら松明を付き出す。
高濃度のガスが噴き出し、一気に熱い業火となって通路を吹き抜ける。
「ぁぁぁぁああああああ!」
天井の重い石が落ちてくる。
鋭い痛みが体中に突き刺さり、爆風が周りを全て飲み込む。
私は、瓦礫に埋もれた。




