31 友人へ
彼の横に行き、しゃがむ。弱く喉でヒューヒューっと痛々しく呼吸する音がする。
「……ユート」
彼の睫毛が震え、目がゆっくりと開く。
「……ねぇ、立つよ」
彼は僅かに笑うと鮮血が口から溢れ出る。
「流石に……もう無理だ。……悪いな、シロイ」
彼はもう重度の怪我と火傷が全身を覆っている。私が彼を運べればいいのだが、私のこの腕と脇腹ではそれも選択肢にはならない。
「……置いて行け」
「ふざけんな」
私の声が静かな通路に響く。
「俺達の状態ぐらい理解出来ている。出られたとしても、俺は、死ぬ」
彼は私の方へ目を向けて微笑む。もうすでに焦点は合っていないのか、微妙に視線がズレている。
「もう身体を、自由に、動かせねぇ。痛みも、何故か、感じねぇ」
彼の顔に軽く触れる。高温過ぎて火傷しそうな体温だ。だが、汗はもうかいていない。そして顔色に生気ない。
「行け」
私は頭を振ってそれを拒絶する。
「嫌だ。絶対に運んでやる」
「じゃ、今、ここで殺せ」
二人の間に沈黙が重く圧し掛かる。
「生きたままあんなモンスターに喰わせるのかよ」
彼の手が私の手に触れる。
「シロイ……頼む」
私の手が震える。立ち上がり、ナイフを拾ってユートの横に戻る。
「先に、向こうで……待っているぞ」
彼が微笑む。
「うん。ちゃんと待っていなよ」
私は彼の心臓に刃先をあて、体重を乗せて一気に押し込んだ。
ズブッ
それは一突きで彼の弱くなった心臓を切り裂き、命を終わらせる。
彼の体が一瞬痙攣し、静かになる。
彼の頭がゆっくりと下向きなる。
ポタッ ポタ
血が地面に染みを作り、広がっていく。
ユートの、血。
真っ赤で、少し腐臭のする、血。
私はそれを暫く眺めてから立ち上がる。
――――抜け出さないと。外に蔦の事を教えないと
怒り。
悲しみ。
後悔。
絶望。
そしてこのダンジョンに対する、やり場のない憎悪。
声にならない悲鳴が頭の中で響く。
私は立ち上がり、振り返らずに通路を歩く。




