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第102話 通信魔法は進化する

「驚きだわ!」

 母ネコユリミは、思わず声に出してしまう。

「コレは正に革命的……タマキさんって、こんな発想どこから生まれるのかしら?」


 今も空高く舞ってはいるものの、私の目の届く範囲などたかが知れている。

 馬車の車列を襲った奴らを粗方片付け、自警団に残務をお願いしつつ、タマキ達を載せた馬車の行方を追っていたのだが……さすがに半刻も経つと、自分の把握できる範囲を超えてしまう。

 通信魔法の範囲外に到達するギリギリのラインで、使い魔の黒猫クロちゃんを送り込むのには成功したものの……首輪につけておいた魔石の容量もそう多くはなく、程なくして通信は途切れるはずと諦めていたんだけど――


「使い魔のタカやトンビたちに情報を中継させるなんて……コレがあったら1年戦争は絶対勝ち戦だったわよ!」

 ウチの娘がタマキさんに同行しているのは予想外だったけど、クロちゃんとの精神同調率も高いのか、娘の豊富な魔力と高度な感知魔法のおかげで詳細な情報を得られるのは……怪我の功名とも言うべきか。

 しかも、思考をちょっと切り替えると……タカの視界が一瞬にして流れ込み、黒い海原の上を滑る船影が見える。

 つまり……馬車を載せた船を探し当てたタカから望む風景をも「視る」ことができる。

 確かにコレは、私自身の魔法の力あってのことだけど……近距離同士で言葉を交わすだけだった通信魔法が、戦場を客観視し俯瞰もできるようになり、まるで「神の目」のように多くを見通せるようになってしまった。(※1)


 次に、船に留まったトンビに視界を合わせる。

 船の大きさはざっと見て、酒樽が200本は載るくらいなんじゃないかしら?(※2)

 舳先を見ると、赤いサル国の国旗がはためいている。

 甲板の上では大勢の水夫たちが帆綱を引き、怒鳴り声を飛ばしながら忙しなく動き回っているのが見える。

 船尾側を眺めると、一段高い甲板には大きな舵輪があり、操舵手であろうオオカミ人が立ち、何やら水夫たちに指示を出しているようだ。

 その奥には天幕が張ってあり、船長らしきサル人が腕組みしながらふんぞり返っていた。

 どうやら雰囲気からして、軍艦じゃなく商船のような気がするわね?


 そして視点は、船内のクロちゃんへ。

 ……途端に、ふわっと柔らかい紅茶の香り。

 あ、さっきお茶って言ってたのは、紅茶だったのかしら?

 キョロキョロしてみると、どうやらクロちゃんは娘の膝の上にいるようで、みんながどんなものを飲んでいるのかは見えなさそう。

 

「ニャンコちゃん、ゴロゴロいってカワイイね〜」

 などと言われながら、娘に顎の下を撫でられる感覚がうっすら伝わってくる。

 自分がネコになった感覚が体験できるなんて……何だか不思議な気持ちになってしまう。



 

 ……さて、タマキさんはどこへ?

 娘の手からすり抜け、トンと床の上に降りてみる。

 ネコの視点からみると、全てが大きく見えて新鮮ね?

 確かさっきは、ハンモックに寝かせるとか言ってたけど……。


 キョロキョロすると、光が差し込んでいる丸窓とは反対側に、ハンモックがあるのが見える。

 トコトコと歩を進めて近寄ると……割と高いトコにあるのね?

 意を決してピョンとジャンプしてみると、意外とすんなりハンモックの上に飛び乗ることができた。

 

 ……あらやだ、このままネコの生活に馴染んでしまいそうで怖いわ?

 クロちゃんは賢い子だから、ちゃんと私の思いを察知して動いてくれているのね。


 で、肝心のタマキさんは――

 まだ気持ちよさそうに寝ているわねぇ?

 意識は……まだ回復していなさそう。

 どれどれ、ちょっと直に話しかけてみようかしら。


 タマキさんの体の上に乗っかり、鼻と鼻をチョンチョンと触れ合わせる。

 これでどうかしらね?


【う。…………あ、れ? 何だろう? 何か温かいものがボクの上に乗っかっている感じがするんだけど?】

 うふふ? どうやらお目覚めのようだわ?

【へ? その声は…………ユリミさん、ですか?】

 おはよう、眠り姫さん。そろそろ動けそうかしら? ちょっと調べてみるわね?

 

 ……などと話しかけながら、タマキさんの具合を『観て』みる。

 どうやら毒物の影響はもう無さそうね。

 それでいて、魔力の回復具合は……ざっと半分、といったところかしら?

【あの…………今はどういう状況なんでしょうか? 時折何かが軋むような音がしていたり、体全体がゆっくり揺れるような感覚があるのですが?】

 

 私は、タマキさんに洋上を滑空するタカの視点を見せながら……そっと呟く。

「ふふ? 今は、あなたが考えた……作戦通りよ?」

 

 ――――――――――――――――――――


 ※1 現代でいう「早期警戒管制機AWACS(airborne warning and control system)」と「戦術データ・リンクTADIL(Tactical Digital Information Link)」の組み合わせみたいなものと思ってくださいw

 ※2 異世界なので、あえて現代の単位は使わず表現していますw 海を渡るのには小さいけれど、沿岸を航行するのには問題ないくらいの、全長20〜30m程度の中型輸送帆船を想定。

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