第101話 「クロネコ」の秘密
一瞬、ピンと空気が張り詰める。
すると……頭の中からお母さんの声が!
【ミーナ?なぜあなたがこんなトコに?!2両目の馬車に乗るよう言ってたわよね?】
えっと、それはその………馬車が襲われた時に、キツネ姉さんが飛び出して行ったから、私もそれを追ったんだよね。
……って、このネコちゃんって、お母さんの使い魔?
ふうと大きなため息が一つ……頭の中で。
【うーん、なかなか上手く行かないものねぇ? しょうがないわね。……詳しい事はまだ話せないけど、みんなでタマキさんを守ってちょうだいね。】
もちろん、私もみんなも、そのつもりだよ?
【今はサル国の人たちに捕まってるみたいだけど……相手の指示に、出来るだけ逆らわないようにね?】
うん、私たちじゃ誰も戦えないから……逆らうなんてちょっとムリっぽいよ。
【大丈夫!あとでタマキさんが何とかしてくれるわ?……しっかり頑張るのよ?】
へ?でもタマキさん、まだ意識が無いんだけど??
【ふふ?問題ないわよ。意識は無くても、タマキさんは大丈夫だから。】
うーん?……お母さんってば、たまに変なこと言うのよね?
ま、いつものことだし……まだ何も起きてないからいいんだけどね。
【あ、それとね……そのクロネコちゃんと一緒にいるのよ? その子はきっと、いろいろと役に立ってくれるはずだから。】
……私はお母さんと話せたおかげで、少しだけ心の平穏を取り戻すことができた。
しばらくすると、私たちの馬車は再度動き出す。
結局、抵抗することもできない私たち一行は、サル国の人たちについていくこととなった。
御者もさっきのイヌ人2人に変わったので、タヌ娘は私たち3人と一緒に荷台の中。
ついでに、金髪受付嬢と話していた……あの黒髪の魔導士も一緒だ。
私はおそるおそる、その魔導士に聞いてみる。
「あの……これから私たちは、どうなるんですか?」
するとその女性は、眠ったままのタマキさんを見ながら――
「まずはこの先の小さな港まで行って、この人を馬車ごと船に載せることになります。あなたたちはそこで解放する予定です。」
「え?船って……もしかして――」
「我々の役目は、この人をタヌが島まで送り届けることです。あなたたちまで拘束する理由はないのですよ。」
魔導士はそう言うと、前髪をかきあげながら、軽く微笑んでみせる。
「……いや、ウチはタマキさんの護衛や。そういうことならウチもついていく。」
タヌ娘は静かに、だが迷いなくそう言い切った。
「もちろん、わたしも看護師として同行します。」
受付嬢も当然の如くそう言う。
キツネ姉さんは私の顔をしばらく見つめると――
「ウチも、もちろんタマキさんをお護りしますえ? せやけど、ミーナちゃんは危ないさかい――」
「……いいえ、大丈夫です。私も治療家としてご一緒します。」
私にも迷いはなかった。
「うふふ。皆さんそう仰ると思っておりました。わたくしと同行する限りにおいては、あなた方の身の安全は保障しますのでご安心ください。」
黒髪の美女はそう言うと、なぜかニッコリと微笑んだ。
そうこうしているうちに、馬車は林を抜けさらに進んでゆく。
次第に潮の香りが漂い始め、海鳥の鳴き声が聞こえてきた。
そしてあっという間に、馬車は港に停泊していた船の中へと滑り込んだ。
薄暗い荷室の中は思ったよりも広かった。
海の匂いに混じって、縄や木材が湿ったような独特の匂いが漂っている。
4頭の馬は外されて船から降ろされ、馬車本体は荷室の一角にロープで厳重に固定される。
同時に、タマキさんを載せた担架はイヌ人の男たちによって、1階上の船室へと運ばれる。
私たち4人も同じ部屋へ案内された。
壁際にはハンモック式の2段ベッドが並んでいて、どこか殺風景。
だけど、丸い窓側にはテーブルや椅子もあって、ちょっとした応接間のような雰囲気もある。
「俺たちはここまでが任務だ。あんたらも一緒に島へ渡るんだってな?」
「ええ、タマキさんを残してウチらだけ戻るわけにも行かへんよってな。」
「そうか。まぁ俺たちが言うのも何だけど……達者でな。」
イヌ人たちはそう言い残すと、部屋を出て行った。
私たちがタマキさんをハンモックに移して寝かせていると、黒髪の魔導士が部屋に入ってきた。
「熱いお茶とお菓子を持ってきましたよ。2〜3日はこの船の中で過ごすことになるので、気楽にいきましょう。」
「へぇ?『気楽に』て言うてはりますけんど……ウチら人質なんと違いますの?」
訝しげな目を向けながら返す、キツネ姉さん。
「……まあまあ。先は長いんやし、今からそうカッカせんでもええんちゃう?それに――」
ニヤリとしながら、タヌ娘は続ける。
「ユカリが見ている風景が、必ずしも全て正しいとは限らんのやで?」




