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(11)

 クリフアングルが駆けてきた方向を辿っていけばよいだけなので、目指す場所はすぐに見つかった。


 陣幕の中迄は見えないが、獣特有の臭気が辺りに充満している。


「見張りは一人だけのようじゃの」


 今正に目の前で見張りだろう男が中からクリフアングルを引き連れて現れ、綱を渡された男は跨りカイル達が入ってきた門に向けて駆け出していく。


 恐らく彼もルークを仕留めにいく一人だろう。


「一人だけなら私が行こう。そんな格好では隊長は警戒されるだろうからな」


 カテリーナの指摘したとおり、カイルは自分の血で真っ赤に染まっている。


 どこかで新しい服を手に入れなければならない。


 無造作にカテリーナは見張りに近づき、いつも会ってるじゃないかとでも言いたげに「やあ、ご苦労様」と軽く手を上げる。


 見張りは一瞬戸惑いの表情を見せたが、返事をしようと手をあげようとした瞬間にその手をカテリーナに制され、その顔は苦悶の表情へと変わる。


 その股の間には、深々とカテリーナのしなやかな膝がめりこんでいた。


「うわっ可哀想に・・・」


 サムが両手で自分の股間を押さえ、自分がされたかのように表情を曇らせる。


「経験者同士仲良くなれるかもな」


 カテリーナが見張りと共に陣幕に消えたところで、カイルたちも動き出し陣幕の中に飛び込む。


「サムは表で誰か来ないか見張っててくれ」


 カイルは手早く血塗れの服を脱ぎ、カテリーナが制した男を後ろ手に縛る。


 中にはカイル達以外には縛られた見張りの男、そして人数には十分足りるだけのクリフアングル。


 目的は達せられたはずだが、表情は一様に暗い。


 クリフアングルがいるにはいる。


 だがその全ては厚い檻に入れられ、扉には太い南京錠と鎖が掛かっていた。


「大声は出すな。鍵はどこにある?」


 冷たい刃を首筋に当てられた見張りだが、肝が据わっているのか馬鹿にするかのように微笑を浮かべる。


「ああ鍵が欲しいならそこの壁に掛かってるぞ。ただしその鍵で開く檻にはクリフアングルはいないがな」


 彼らにとってクリフアングルはとても大事な騎獣である。


 それなのに見張りが僅かに一人しかいなかったのには理由があったのだ。 


 壁に掛かった鍵は持ち主が自分の騎獣を持ち出した後のものであり、必要なのはここにない鍵が五つと言う事になる。


 首筋に当てていた刃を、全身の力を混めて南京錠に叩きつけると、不愉快な音が陣幕に響いた。


「どうじゃ?」


「駄目だ。刃の方が欠けちまった」


「わしの愛斧があれば何とかなったかもしれんがのう」


 バックルの斧は道中で捨ててきた、もしあったとしても斧で壊せる程度のやわい錠なら見張りが一人という事はない。


「フェイク!お前さんならこれを切れるんじゃないか?」


 カイルの腕では無理でも、刃の付いてない剣でレッドグリズリーの首を一刀両断したフェイクならいけるんじゃないかと、カイルは思いついて声を上げるがフェイクから返事はなかった。


「フェイクはどこにいる?」


 バックルもカテリーナも軽く肩をすくめ首を振る。


 陣幕を僅かに開け表のサムに声を掛ける。


「知りませんよ。一緒に中に入ったんじゃなかったんですか?早くしてください。さっきから怪しんでるのがちらほらいるんですから」


「この大事な時に」とカイルも苛立ちを隠せない。


 行方不明になったフェイクを探しにいこうにも、どこにいるかもわからない人間を当てもなく敵陣内を彷徨うのは自殺行為である。


 帰って来るまでに人数分のクリフアングルを用意するのも、いつもと違う見張りのサムに気づかない間抜けが五人続けてクリフアングルを取りに来てそれを声を出させず奪うなど、十個のサイコロを振って全てが一の目が出るぐらいの可能性ぐらいしかない。


 袋小路を必死の思いで抜け出したと思ったら、結局別の袋小路に嵌っている。


 もう乾いた笑いさえ出てこない。


「なにやら外が騒がしくないか?」


 カテリーナに言われて耳を澄ますと確かに先ほどよりも外が騒がしい感じがする。


「なんか悪い予感がするのう」


「そいつは奇遇だな。俺もさ」


 慌てたようにサムが早口でまくし立てる。


「あいつが帰ってきた。こっちに近づいてきます」


「あの獅子頭か」


 床に転がっている見張りがざまあみろと毒付く。


「ここはウォルフ様の騎獣を預かっている厩舎だからな。お前達はもう終わりガフッ」


 カテリーナの蹴りで、見張り番の口から折れた歯が飛び出していき、陣幕の中は静かになった。


「サムは何とかあいつをごまかしてくれ」


「無理に決まってるでしょ。すぐに怪しまれて終わりですよ」


 悲痛に似た思いを吐露するサムにカイルは静かに続ける。


「わかってるさ。お前さんは出来るだけ入り口に奴を近づけてくれればいい。後は俺達で何とかする」


「それしかないかのう」


 バックルは見張りから奪った剣を握り締め、カテリーナも無言でカイルの横に立ち、カイルは剣を鞘から外れないように固定した。


 殺しては駄目なのだ。


 相手の戦闘能力を一撃で奪い人質にする。


 人質としてどのくらいの価値があるのかすらわからないが、もうそれしかこの窮地を脱する手がない事を誰もが理解していた。


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