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(8)

 ここに到着するちょっと前までが最悪の状況だと思っていた。


 だがそうではなかった。


 少なくともここに向かっている道中は、到着すれば逃げれる可能性が格段に上がるという希望があった。


 そんな希望すら微塵もない今こそが最悪なのだ。


「争った後は無いのお。足跡は南に向かっているようじゃが追いかけるか?」


「追いかけても無駄だ。俺達が追いつくより先に追っ手に追いつかれるのがおちだ」


 クリフアングルの持久力の高さは強行軍で身に染みてわかっている。


 馬よりも速度が落ちるといっても人の足で追いつける程ではない。


 本当に迂闊だったとカイルは悔やむ。


 クリフアングルは人工繁殖の難しさから馬に取って代わる存在ではない。


 成獣を捕まえてから人を乗せられるように調教するのだが、調教済みのクリフアングルが十一頭。


 売ればかなりの財産になるのだから、邪な気持ちを抱くなと言う方が無理な話なのだ。


 皆、極限状態迄疲れているが、誰一人座り込む者はいない。


 座り込んでしまえば緊張の糸が切れて二度と立ち上がれないのを知っているからだ。


 そしてカイルの判断を待っている。


 すぐに判断を下して行動に移らなければいけないが、妙策は一つも浮かんでこない。


 安全圏であるアストン領もランバル領も徒歩なら数日掛かる。


 彼らの庭である森林地帯を、無事に抜けられる可能性など殆ど無い。


 正直詰みの状況だ。


「どう考えても足がいる」


 何気なく呟いた言葉にフェイクが反応する。


「足?クリフアングルの事?」


「フェイクさん何か手があるんですか?」


 今来たばかりの方向を指差し「あそこに一杯いたじゃない」と事も無げに言い放ち、一同皆言葉を失った。


「もしかしてなんだが、お前さんの言うあそこってのは、俺達が逃げてきた敵の本陣じゃないよな?」


「そうだけど?サムは風壁をあと何度張れる?」


「魔力が殆ど尽きてますから、出来て二回がいいとこです」


 答えを聞いてフェイクがいつに無く真剣な表情で続ける。


「この人数を守り続けるってのは流石に僕でもきついかな。もう全員が生きて脱出するにはそれしかないんじゃない?」


「乗った。私はどうせ一度は死んだ身だからな。それに全員が生きてってところがいい」


「最後に華々しく散るのも悪くはないのう」


 次々に賛同の声が上がり、サムもカテリーナが行く以上反対はしないだろう。


 勿論カイルにも異論はない。


 隊長はカイルだが、いつだってこの隊の中心はフェイクなのだ。


 そして無茶な事でも可能だと思わせてくれる男に皆絶大な信頼を寄せている。


 ならばと隊長である自分も知恵を絞らなければいけないだろう。


「止め足って知ってるか?」


 こうして暗殺の為ではなく、逃亡の為の潜入作戦は口火を切った。

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