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(9)

 森では奇妙とも言える光景が繰り広げられている。


 幾人もの大の大人が、後ろ向きで自分の足跡を踏んで行っている。


 それは人に限らず、シビルタイガーも同じように行動している。


 止め足。


 野生動物、特に熊などによく見られる行動で、自分の足跡を後退しある程度離れてから横に跳躍する。


 追手を捲く為にカイル達はそれを実践しているのだ。


「うまくいきますかね?」


「いくさ。足跡の終点からはクリフアングルの足跡が続いているんだ。そっちに行くに決まってる」


 サムの疑問に自信満々で応えたカイルだったが、問題はどこで横に跳躍するかだ。


 見える場所に足跡を残してしまえば、この行為は意味をなさない。


 後退途中にもいい場所を探しながらきてはいるが、ここまではそんないい場所は見つかっていない。


 のんびりしすぎれば追っ手に、この間抜けな行進を見られてしまう。


「どこかに飛び移れる木か岩がないか?もう距離は十分だ」


「足跡を残さずに離れた場所に行ければいいんだよね。これでいい?」


 カイル達の前に現れたのは光の橋。


 それを見たサムが一人声を上げた。


「それって光壁ですよね?物理に弱いのに乗っていけるわけが」


「一人で何ぶつぶつ言っているんだ。早くしないと置いていくぞ」


 サム以外は既に橋の中腹を越えている。


 光の橋は四人と一頭の重みが掛かってもびくともしていない。


「・・・そうでしたね。貴方は俺の魔法の常識が通用しない人だって事を忘れてましたよ」


 橋に一歩を踏み出すと、やわらかい森の地面とは一線を画す確かな感触。


 足元は透けて地面が見えているので、角度によっては宙を歩いているように見える。


「俺とカテリーナとの結婚式の時のバージンロードをこれにしたらいい演出に」


 そんな呟きを洩らしたサムだったが、耳の横をびゅんと凄まじい勢いで石礫が通過していった。


 前方では橋を渡り切ったカテリーナが次弾を地面から拾っている。


「嫌だなぁ冗談ですよ冗談」


 脂汗を流しながらサムも橋を渡りきり、少し移動した後に久々の小休止となった。







 クリフアングルを待機させていた場所を望める場所でカイル達は息を潜めている。


 時間にして僅か十分程で、追手は姿を現した。


「足跡の数からそんな大した人数じゃないのはわかってるだろうに、いくらなんでも大袈裟すぎるだろ」


 そんな呟きを思わず洩らしてしまうほどの人数である。


 軽く見積もっても三百、もしかすると五百以上いるかも知れない。


 隊の殆どは徒歩であり、クリフアングルに乗っているのはグルー族と隊の中心にいる獅子頭の男のみ。


 どうやら追撃隊の指揮を執っているのは獅子頭のようだ。


 その男は入念に足跡を調べており、カイルの心は早くいっちまえと急いている。


 やおら獅子頭が立ち上がり隊に命令を下すと、クリフアングルの一隊が本来カイル達が乗るはずだったクリフアングルの足跡の方向に走り出した。


 その数凡そ十騎。


 隊の殆どはその場に残ったままだ。


 残った隊は幾つにも別れ周辺の探索を開始した。


「どういう事じゃ?」


「潜んでいるのがばれたんだ。急げすぐにここも発見される」


 僅かな休息を打ち切り、急いでその場を離れ敵本営に向かう。 


 結局わかった事は追撃が遅れたのは本営の守りを固めてから追撃に移ったからであり、獅子頭は少人数が相手であっても過剰とも言える人数を繰り出すような石橋を叩いて渡るような慎重な性格である事。


 そして恐ろしい程、洞察力に優れているという事である。


 後退した時の足跡のズレで潜んでいるのに気付いた訳ではない。


 何かミスをしたとは思えないが、カイルに気付けない何かに獅子頭はカイル達とクリフアングルとの合流地点で気付いたのだ。


 あいつが本営に戻る前に潜入して脱出しなければならない。


 いればかなり厄介な人物である。


「もう行くんですか?もう腕も足もパンパンなんですけど」


「泣き言を言うな。フェイクだって文句の一つも言ってないだろ」


「フェイクさんならルークの上で寝てますけど・・・」


 ルークだって相当な疲労があるはずなのに、嬉々としてフェイクをその背に乗せて運んでいる。


 横を走るルークの背にいるフェイクを揺さぶり起こす。


「お前さん当然敵地に潜り込む為のいい作戦があるんだよな?」


「ん~勿論」


 言いだしっぺであるフェイクがなんの考えもなく、敵本陣に潜り込んでクリフアングルをかっぱらおうなんて言うはずがない。


 その答えにほんの少しだが安堵の空気が流れた。


「着くまでにカイルが考えるんだよ」


「丸投げかよ!」


 厳戒態勢であるだろう敵本営に何の策もなく突っ込む。


「これは終わりかもしれんのう」


 バックルの言葉に皆の思いが集約されていた。



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