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(4)

 ランプの明かりを中心に車座に座る五人と一頭の表情は、一様に影を落としている。


「そろそろ潮時という事じゃろうな」


 カイルの話しを聞き終わって、最初に口を開いたのはバックルだった。


 一人を除いて全員が頷く。


 口にこそ出さなかったが、皆胸中には同じような思いを抱えていたという事だろう。


「先月の給金が遅れた時から思ってたんだが、支援していたランバルも勝ち目がないと見て見捨てたじゃないかと思っている。サムはどう思う?」


「でしょうね。十中八九罠である情報に、残った戦力の半分を投入しようだなんて正気の沙汰じゃありませんからね。そんなもの各個撃破されて終わりです」


 ここに来て初めて、行方がようとして知れなかったグルー族長メイナスの居場所が判明し、トカタン上層部は色めきたった。


 敗色濃厚な中に訪れた一筋の光に見えたに違いない。


 情報の正誤すら確かめようともせずに、飛びつこうとしたところをゼフィが止めたのだろう。


「上層部は目暗しかおらんのか。まあ今の状況では座して死を待つより他はないからのう。嫌な一手を打ってきおるわい、アストンの戦術家が向こうの陣営におるというのは本当かもな」


 噂では相手のグルー族には大国アストンの仕官が職を辞して参戦をしているという。


 金だけ支援して勝利後のうま味だけを搾取しようとしたランバルと、金だけでなく人材も投入していたアストンでは最初から勝負が決まっていたのだ。


 現在戦力で劣るトカタンが曲りなりにも持ちこたえているのは、地の利がある場所に布陣出来ているからに過ぎない。


 もし半分の戦力がここからいなくなれば、一日で決着がつく事は戦術に深くないカイルにも用意に想像が出来る。


 かと言って値千金かも知れない情報を、完全に無視する事も出来ない。


 このまま持ちこたえても援軍も資金援助もないでは、いずれ破綻するのは明らかなのだ。


「それで結局どうするんですか?俺は貴方の決定に従いますよ。ここまで生き延びれたのは、貴方の判断が間違ってなかったという事ですからね。今度も信用しますよ」


 サムの全権委任宣言に続いてバックルがワシもじゃと続き、カテリーナも頷く。


 フェイクはルークを枕に寝息を立てているが、事後承諾でいいだろうとカイルは己の考えを明かした。


「メイナス暗殺には参加する。だが罠だったり少しでも無理だと感じたら、その時点で戦争から離脱する」


「決まりですね。でもゼフィも一緒に来るんでしょう?そんな事が許されますかね」


「ゼフィもそうなるだろうって事はわかっているさ。金の切れ目が縁の切れ目、俺達は所詮雇われだからな」


 納得のいかない表情をするサムを見て、カテリーナが口を開く。


 新参である彼女がこういった場で発言するのは珍しい。


「彼は優しいからな。知っているか?この隊に欠員が出た時、配属を願った奴は五万といた。私が選ばれたのは女で、この隊の生存率が圧倒的に高いからだ。男に負けないようにと頑張ってきた私を女扱いされたのは癪にさわったが、今では感謝している」


 そして彼は優しすぎるとも続けた。


 平時の有能さと戦時の有能さは違う。


 戦時でも有能であっても、ゼフィには優しさを基礎とした甘さと、一族の一員としてのしがらみにも捕らわれている。


「すぐに出発出来る様に荷物を纏めてくる」


 荷物を纏めようと出て行くカテリーナを、よせばいいのにサムが呼び止める。


「逃げる事になったら、そのまま俺と新婚旅行ってのはどうですか?」


 振り返ったカテリーナの表情はまさに鬼の形相で、その殺気は寝息を立てていたフェイクですら飛び起きて左右を見渡す程だった。


「私にも選択する権利はある。そして使い魔を覗きの道具として使おうと考えるような下衆はお断りだ」


 これは完全に振られたな。


 石になったように固まっているサムには気の毒だが、これで風壁がまともに機能するようになれば有難い。


 何より人の恋路には立ち入らないのが吉である。


「お前さんも起きたなら出発の準備をしてくれ。そう言えば枕は大丈夫だったのか?」


 暫く枕と反芻していたフェイクだったが、頭がはっきりしてきたのかカイルを力強く見つめ「枕っていえば聞いてよ。ルークがいきなり飛び込んできて顔を舐めまわすもんだから、枕もびっしょびしょなの。あれじゃあ洗わないと使えないよ」とのたまう。


 あまりの扱いの違いに軽くショックを受けるカイルだったが、精一杯の強がりで表情には微塵も出さない。


「どうかした?口の端がひくついてるけど?」


「なんでもないからお前さんも早く準備に行け!」


 せっつく様にフェイクを追い出してからカイルは溜め息をついた。


 わかっているとでも言いたげに、バックルもカイルの肩を叩いてから出て行く。


 この仲間達と一緒に行動を共にするのも後わずかだ。


 カイルはしみじみ悪くない仲間だったと思いを馳せるのだった。





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