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(3)

 それは唐突に、しかし必然として訪れる。


 深い眠りにいても尚、身の毛の弥立つ様な殺気にカイルは身を捩る。


 刹那まで頭を預けていた枕が、バスッという爽快な音と共に貫かれ、羽毛が陣幕の中に舞い上がり、闇に浮かぶ襲撃者の二つの双眸はカイルを睨み付けている。


「てめぇ幾つ目の枕だと思ってんだ!今度という今度は容赦しねぇ!敷きもんにしてやるから覚悟しやがれ!」


 勇んで剣の柄に手を掛けるカイルだったが、陣幕の入り口から掛けられた声に剣を掴んだまま其方を見つめる。


「カイルさんゼフィさんが呼んでおります」


 暗くて顔の判別はつかないが、声からするとゼフィの陣幕を訪れた際に応対した衛兵のようだった。


「わかった、すぐに行くと伝えてくれ。虎公ついてたな、お前さんとの決着は後にしてやる」


 その肝心のルークはというと、緊張感も何もなく、舌と前足で猫よろしく顔の毛づくろいをしているのがはっきりと暗闇でも伝わってくる。


 完全に馬鹿にされている。


 苛立つ気持ちを抑えながら外に出るが、今回ばかりは馬鹿にされても仕方がない。


 何しろ普通に入って来たであろう衛兵に、全く気づく事無く惰眠をむさぼり続けていたのだ。


 思い返せば、襲撃にあった時は常に深い眠りに落ちている時だった。


 それもそんな状態であるのに、気付けるほどの殺気を放ってからルークは襲って来るのだ。


「まさか俺を鍛えてるつもりじゃねーよな」


 話に聞いていた以上に頭がいいのは確かだ。


 人の話しを理解している節も感じるし、戦闘において好き勝手に暴れまわってはいても、味方に攻撃を仕掛けたことは一度も無い。


 あくまでカイルを除いてだが・・・


 マスターであるカイルが死ねば、使い魔であるルークも死ぬ。


 それを理解しているのであれば、攻撃を避けなければ枕が犠牲になる事もないんじゃないか?


「却下だ」


 それを信じて頭に大きな風穴を開けられたらたまったもんじゃねぇと、浮かんだ考えは自らで否定してからゼフィの陣幕に入った。


 上役であるゼフィは当然の如く一人用のテントではあるが、中は余計な物は一切無く殺風景である。


 唯一の違いがあると言えば、ランプに照らされた中央に置かれた机と彼が座っている椅子ぐらいであろう。


「戦線を勝手に離脱して済まなかったな」


「それに関しては不問に処す。立ち話もなんだ、座ってくれ」


 ゼフィと向かい合う形で腰を下ろすが、胸の中にある不安のという名のしこりは一層大きくなったように感じる。


 深夜にわざわざ呼び出した位だ、戦線離脱よりも原因は本営にゼフィが呼び出された方にあると当たりはつけていた。


 それでも離脱に関しては減給ぐらいはあると思っていたのが、不問と言うのだから喜びよりも不安の方が大きい。


「実は・・・」と切り出された話しを聞いている内に、勘は馬鹿に出来ないというバックルの言葉を思い出していた。


「人員は私と君の小隊、それに部隊が壊滅して未編成の者を五人程連れて行くつもりだ」


「それは部族長からの御指名か?」


「いや私が決めた。族長は残っている戦力の半分を投入しようと言っていたが、私が止めて自ら志願した。君達も五人一緒の方が何かと都合がいいだろう?」


 その言葉にカイルはゼフィが全てを理解しつつも、苦渋の決断をしたのだと悟った。


 トカタン側の圧倒的な戦術理解度の不足。


 もしこの聡明な男が族長であったなら、もう少し上の立場であったなら戦争の結果も違ったものになっていたかも知れない。


「俺の一存では決められない。とりあえず仲間と相談してから返事はする」


「一刻後には出発する。出来るだけ早く決めてくれ」


 即答こそ避けたが、心の内は決まっている。


(参加だ)


 陣幕を出たところで立ち止まる。


「女の出迎えじゃなくて、お前さんの出迎えってのも寂しい限りだな」


 カイルを待っていたであろうシビルタイガーは眠そうに欠伸をしていた。


「お前さんが俺の大事な枕を、使い物にならなくした事は不問にしてやる・・・もうここに戻る事もないだろうからな。ルーク、フェイクを叩き起こして連れてきてくれ。なんなら顔と枕の風通しをよくしてもいいぞ」


 ルークは尻尾をピンと立てて暗闇へと姿を消して行く。


「やっぱ人の言葉を理解してんのかもな・・・チッ俺が名前であいつを呼ぶなんて」


 俺にも寂しさを感じるセンチメンタルな心っつーもんがあったんだなと、カイルもまだ黒が濃い闇の中へと歩みを進めた。

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