(2)
桶一杯に汲んだ冷水を頭から一気に被ると、身体から湯気が立ち上り空へと消えていく。
カイルの隣ではバックルやサムが、同じように身体から湯気を燻らせている。
「こんなにゆっくりしていていいんですか?」
「いいんだ。どうせ慌てて行っても結果は変わらないさ」
サムの疑問にカイルは軽く答える。
ゼフィとの付き合いもそれなりの長さになる。
全身汗びっしょりの姿で、心底勝手に離脱したのを済まなそうに釈明をしても、ゼフィは鼻にもかけないだろう。
隊長を首になるのも、文字通り首になるにしても、身体を清めて行った方がいい。
もし文字通り首になるならゼフィを人質にして、離脱すると心に決めている。
マスターである自分が死ねば使い魔であるルークも死ぬ。
普段全く言う事を聞かず、今は馬鹿ップルが如くフェイクと水を掛け合っているルークも、その時ばかりは協力してくれるはずだ。
淡い期待だと苦笑しながら、カイルは真新しい服に袖を通した。
「サム、そんなに凝視しても板は透けては見えないぞ」
「な、何を言ってるんですか!」
板を挟んだ向こう側ではカテリーナが水浴びをしている。
男女平等とは言っても、流石に一緒の場所で行水をするわけにもいかないだろう。
「ラームさんみたいな使い魔がいたら、上から覗き放題だなんてちっとも思ってませんからね」
板の向こう側で殺気が膨れ上がる。
完全に墓穴を掘ったサムを残して、ゼフィに会うべくその場を後にしたカイルだったが、結果的に肩透かしを食う形になった。
「ゼフィ様なら本営に呼ばれて不在です」
そう告げる衛兵に、いつ帰ってくるのかを聞いても首を傾げるだけで埒があかない。
また来るとだけ言い残しその場を去るが、胸中に何かもやもやしたものが残る。
「なんじゃ首は繋がったままのご帰還か」
「ゼフィがいなかったんだよ。何か嫌な予感がする」
軽口を叩いていたバックルが途端に神妙な表情へと変わる。
「戦場での勘と言うのは案外馬鹿に出来んからのう。ワシもお前さんも気をつけた方がいいかもな」
カイルはバックルの肩を叩いて返事とすると、そのまま自分の陣幕に戻り横になった。
戦闘と戦闘との間隔は短く激しくなり、小さいながらも隊を纏める心労も降り積もる雪の様に重なってきている。
いつしかカイルはまどろみの世界へと誘われ、小さな寝息を立てていた。




