終章・暗殺者(アサシン)と戦争の終わり
戦場において大きな手柄を狙うなら、闇雲に動き回るのは悪手としか言えない。
特にそれが少人数である場合、目立たない事も重要なのだ。
悪目立ちをすれば複数の敵から同時に狙われる羽目になる。
それは今現在カイル達が陥っている状況そのままである。
「そんな事はわかってる!」
「誰と喋ってるのさ?」
朱に染められた殺伐とした戦場に似つかわしくない暢気な声に、カイルの苛立ちは更に募る。
「お前さんの口車に乗ってあんなのを呼び出した大馬鹿な自分とだ!」
カイル率いる小隊は戦場を西から東、南から北へと縦横無尽に駆け巡っている。
言葉で簡潔に纏めれば、無人の野を行くが如く戦場を駆ける最強の小隊のようである。
「やっこさん。次の獲物を見つけたみたいだぞ」
「頼むからそのままジッとしててくれ」
カイルの願いも虚しく、遥か先の黄色い影は次の獲物に向かって駆け出していった。
「何であいつは俺の言う事を全く聞かないんだ」
思わず立ち止まり天を仰いで呟く。
「言う事聞いてるじゃない。僕がルークはどう戦えばいいのって聞いた時に、カイルが周りで好きに戦ってろって言ったからルークは好きに戦ってるんじゃない」
「周りでって言ったんだ。見えなくなるぐらい遠くで好き勝手にやれとは言ってない」
「それは見解の相違って奴だね。シビルタイガーの縄張りって三キロぐらいあるらしいからね。ルークにとっては十分周りって意識じゃないかな。いやぁ~異種の意思疎通って難しいよね」
最強の小隊、その実態は言う事を聞かない使い魔を追いかけて戦場を右往左往する新米召喚士と、その愉快な仲間達であった。
戦場で立ち止まった事で向かってきた矢を、カイルは空中で斬り飛ばす。
「サムしっかり風壁を張ってくれ!」
「ちゃんとやってますよ!」
こちらも苛立ちを募らせる一因となっている。
新人のカテリーナを遠因とした軋轢が静かに溝を作っている。
カテリーナ個人に問題は全くない。
腕は下手な男の傭兵よりも立つし、連係の仕方も思いの他巧みである。
問題はカテリーナが加わった事によるサムの心情の変化だ。
それは初日から現れた。
今まではしっかり矢を防いでいたサムの風壁が、時折ではあるが今の様に何の役にも立たずに矢を通してしまうのだ。
最初の戦闘の後、魔法の素人であるカイルはフェイクに相談した。
「サムは本気でカテリーナに惚れちゃったのかもね。ほら魔法ってイメージもとても大切じゃない。深層心理でカテリーナを守りたいって思っちゃってるんじゃないかな」
言われてみれば、カテリーナはカイル達のように矢で危険な目には一度も会っていない。
数ヶ月掛けて培った戦場での男の友情が、出会ったばかりの男女の愛情に完敗した瞬間である。
そうこうしている間に両軍から撤退の合図が出され、戦場を只管走り回ったカイル達も崩れるようにその場に座りこんだ。
疲れきった目に意気揚々と引き上げてくるシビルタイガーの姿が眩しい。
その身体は黄色だが、半分以上は朱に染まっている。
大半は屠った敵の返り血だろうが、少なからずルーク自身の血もあるだろう。
どれだけ強かろうと単騎で突っ込んでいって無傷は難しい。
それがあるからフェイクはルークを追いかけたのだ。
死んでさえいなければ、フェイクは傷を治せてしまうのだから。
フェイクがカイル達の生命線である以上、カイル達も続かない訳には行かない。
そうして奇妙な戦場横断ツアーは開催された。
「頼みがあるんだが、あいつとの契約を破棄してもいいか?」
「ダメ」
満面の笑みで即答するフェイクに、明日も枕が犠牲になるとカイルは溜め息をついた。
戦場で戦っている時よりも、自軍で就寝している時の方が命の危機を感じる。
自分の命を狙っている暗殺者を飼う程自殺志願者ではないんだがとカイルは思い悩む。
「ああそれよりも直近の問題があったな」
カイルは地面に身体を投げ出す。
ルークを追いかける為に、上司であるゼフィに許可も取らずに勝手に隊を離れたのだ。
それの釈明にも行かねばならない。
戦力が乏しい中首を刎ねられる事はないだろうが、隊長降格ぐらいはあるかも知れない。
いっその事そっちのが楽かもなと、カイルは全身の力を抜いて空を見上げた。




