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(3)

 カイル達は後ろ髪を引かれつつも、ゼラミの街を後にし、平原に陣を張っている。


 一日の始まりを知らせる朝日の中を、シビルタイガーが駆け抜け、その後を剣と枕を手にしたカイルが追い掛けている。


 シビルタイガーはフェイクを勢いよく押し倒し、親愛を示す様に顔を舐めまくる。


「ちゃんと起こして来てくれたんだね。いい子、いい子」


 フェイクに頭を撫でられ、シビルタイガーは甘えた様に喉を鳴らす。


 そこに追い付いたカイルは、怒り心頭で怒鳴った。


「そいつはやっぱり、お前さんの魔獣じゃないのか?これを見ろ!」


 突き出す枕には大きな穴が空いていて、中の綿が歩いて来た道程に撒き散らされている。


「もう少し避けるのが遅かったら、頭の風通しがよくなるとこだったんだぞ。敵を飼ってるようなもんだ。その虎公をどうにかしろ!」


 自分には敵意しか示さないシビルタイガーが、フェイクには親愛を示しているのも、カイルは気にいらない。


「虎公て、せめて名前ぐらいちゃんと付けてあげなきゃ。信頼は時間を掛けて築き上げる物だよ」


 出会ってからの時間はカイルと差のないフェイクが、シビルタイガーに押し倒されて舐めまくられながら言っても、全く説得力がない。


「名前を付けたきゃ、勝手に付ければいいだろ。俺を起こした用件は何だ?」


「ゼフィが呼んでるよ」


 そんな事なら、お前さんが起こしにくればいいだろと、カイルはシビルタイガーを残してゼフィの陣幕に向かう。


 残された一人と一頭は、お互いの頬をくっつけ合っている。


 この光景を見れば、マスターはフェイクと言われても、疑問は湧かない。


「名前は、僕が付けてもいいんだってさ。どんな名前がいいかな?」


 目を閉じ腕を組んで考え込む。


 やおらポンと手を叩いて、シビルタイガーの頭を撫でながら語りかける。


「君の名前はルークだ。いい、今から君の名前はルークだよ」


 シビルタイガーは気に入ったと示す様に、フェイクにほお擦りをした。


 カイルは興奮も収まらぬまま、ゼフィの陣幕を乱暴に開け放つ。


「こんな朝っぱらから呼び出すなんて、どんな要件なんだ?」


 苛立ちの交じった物言いに、苦笑を浮かべながらもゼフィは受け流し、要件を切り出す。


「ラームがいなくなってから、隊員が補充されてないだろう。彼女が新しく、君の部隊に配属されるカテリーナだ」


 何度かカイルの部隊に、新しい人間を配属させようと言う話はあったが、フェイクの治癒を秘密にしておきたいカイル達は断っていた。


 それを知っている筈のゼフィが、配属されると言い切るからには、拒否を許さない決定事項なのだろう。


「カテリーナだ。貴方達の噂は聞いている。配属されて光栄に思っている」


 年齢は20前半、日に焼けた肌に、女性とは思えない程鍛えられた身体。


 黒髪は邪魔にならないようにショートにしており、腰に下げた剣は女性に似合わぬ大剣。


 彼女を一言で言い表すなら、アマゾネスが相応しい。


「断る」


 カイルは即座に拒否した。


「私は少なくとも、足手まといにはならないと思う。それとも私が女だからか?」


「女だからだ。腕どうこうじゃなく、飢えた獣の群れに、美味そうな兎が鍋と下拵えを済ませて、ほうり込まれるようなもんだ」


「その兎の下は、獰猛な虎だ。自分の身は自分で守れる」


 押し問答が続くが、最大の理由は身を守れる云々ではなく、彼女が女であると言う事が問題なのだ。


 極限状態では、人の理性はたやすく外れる。


 色恋沙汰は、大きな問題になりうる。


「これはもう決まった事だ」


 ゼフィの一言で、拒否の選択肢は無くなった。


 カイルは溜息を落とすと、カテリーナに隊員に紹介するから着いて来いと、ゼフィの陣幕を後にした。


 呼び出されてカテリーナを見た瞬間に、サムが「惚れた。俺の子供を産んでくれ」と求婚して、股間に膝を入れられ悶絶する。


 ゼラミの街で魔法使いから賢者に、クラスチェンジしていたサムでこれである。


 カテリーナはカテリーナで、フェイクを見て顔を赤らめている。


 既に大きな問題を抱えているカイルは、もう一度大きな溜息を落とし、バックルは無言でカイルの肩に手をやり慰めていた。



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