五章・相棒
ラームが戦死してから九日。
カイル達を含む300人は、その数を三分の二迄減らしながらも、大本営に合流した。
そこは予想以上の激戦区だった。
昨日出来たばかりの隊が、翌日には消滅している。
そんな事は、日常茶飯事と言える。
そこに参戦して、はや一ヶ月。
防戦一方のトカタン本営では、ちょっとした変化も起きていた。
「先週ここに配置されたスーダンと言います。フェイクさん髪の毛を一本貰えませんか?」
「え~また~」
カイルの横を歩くフェイクは、渋々ながらも髪の毛を一本抜いて、声を掛けて来た青年に渡すと、青年は深くお辞儀をしてから走り去って行った。
「フェイク先生も、人気者になったもんだな」
「このままじゃ禿げちゃうよ」
フェイクは時折ではあるが、戦いにおいて剣を抜く事がある。
それはカイルやバックルでは、相手にならない強者と遭遇した時だけなのだが、一度剣を抜けば打ち合う事もなく一方的に、相手を叩き伏せる。
本営程の規模となると、誰にも見られる事なくと言うのは難しい。
相手には、既に名を上げていたのも数人いて、それをたまたま見た人が付けた異名が、戦の神。
しかしこれは、フェイクを表す異名としては、間違いだとカイルは思っている。
相手を倒すと言っても気絶させる程度で、一度もその命を絶ってないのだ。
戦の神がそんなに優しい訳がない。
先程、髪をお守りとして貰いに来た青年は、もう一つの異名を聞き付けて来たのだろう。
こちらの異名の方が、フェイクを表すのに相応しい。
金色の護り手。
防戦一方の激戦区において、カイル達は本営参戦前に失ったラーム以降は、一人も失わずに戦い抜いている。
毎日の様に部隊の再編成が行われている本営では、完全に異質と言っても過言ではない。
それが誰の御蔭なのかを、皆も薄々感じ取っているのだ。
「明日には、トカタンの支配下にある街に着く。久しぶりに羽をのばせるぞ」
到着とは言ったが、実態は後退である。
それでも街に滞在出来るのは、敗戦ムードが漂う陣内では、意気高揚の一つになりうる。
「美味しい物あるかな?」
「男にとっては食い物より女だろ。もしかしてお前さん、そっちの趣味なんじゃないだろうな?」
カイルより若いサム等は、街に近付いて来ると毎夜の様に、お金を数えている。
到着したら好みの女を買う為に、猛ダッシュして他者より先んじるつもりだ。
普段と変わりないのは「わしには妻がいる」と言うバックルぐらいだ。
「僕は好きな人以外とは、そういう行為はね。何て言うの?まだ見ぬ未来の奥さんに、操を立てるってやつかな」
「夢見る少女でもあるまいし何が操だ」
こいつは本気で言ってそうで怖い。
明日をも知れぬ傭兵は、今日を楽しむのが普通だ。
「そろそろカイルは、召喚の準備もしなきゃ」
使える時間の全てを授業に使ってきたが、それでも一ヶ月と少しでしかない。
「早過ぎないか?」
「大丈夫。もう十分召喚する為の下地は、出来たと思う。後はカイルの魂の力次第だよ」
フェイクの見る目が正しいかどうか、もうすぐ判明する。
もしスライムみたいなしょぼい魔獣が召喚されても、人知れず闇に葬り去ればいいと考えていたカイルだったが、召喚の儀式は予想に反して一大イベントとなっていった。




