(5)
遥か上空から、次の獲物を見つけ、狩人はほくそ笑む。
平時であれば、森の狩人として大型魔獣を一人で狩れば、成人として認められる。
彼はそれだけでは、不十分と考えた。
グルー族族長の息子として生を受けたが、上には二人の兄がいる。
決して年功序列の部族ではない。
森の部族にしては珍しく、彼は街に留学に出て召喚術を納め、狩人として稀有な眼を手に入れた。
勇者として兄達を超える為、彼は今日の獲物を狩るべく、愛騎のクリフアングルを駆った。
獲物は五人からなる斥候部隊。
注意深く、持っている武器を確かめる。
剣が二人、ショートソードと大斧とボウガン。
最初に狩るなら、魔法使いであろうショートソードの男か、自分と同じ射程を持つボウガンの男だ。
その他は森に紛れ仕留めれば、たやすく命を絶つ事が出来る。
矢に塗られた毒は、掠っただけでも相手の命を奪える程、強力なものだ。
万が一外しても、森の住人である自分は、簡単に逃げ切れる自信があった。
よそ者である傭兵なぞ、生まれた時から四六時中命の危機に接っしている動物とくらべて、どれほど狩りやすいものか、彼は体感で知り抜いている。
そして都合のいい事に、獲物は二手に別れた。
周辺を確認するも、この五人以外は近くにはいない。
狩人は愛騎で進行方向に先回りをして、遠く離れた場所に繋ぐと、森と同化する様に気配を消して、哀れな獲物の到着を待った。
彼の視線に捉えられる、ボウガンを携えた男と、神に愛されたとしか思えない程顔の整った男。
気持ち的には金髪の男から殺りたいが、狩人は忠実にボウガンの男に狙いを定める。
万が一反撃で、まぐれ当たりでも喰らっては、目も当てれ無い。
そして狩人は、弓の弦から指を離した。
その放たれた矢は、一直線にボウガンの男の胸に吸い込まれたが、狩人は心で舌打ちをする。
心の臓に刺さる筈が、金髪の男がボウガンの男を押し、僅かにズレた。
金髪の男は、懸命に刺さった矢を抜き、手で押さえてるが無駄だ。
心臓に近い場所に刺さった矢に塗られた毒は、既にボウガンの男の命を奪っている。
狩人は、二の矢を継ぎ放つ。
「ひゃっ」
間抜けな声を残し、男は矢を避け、残った仲間の元に駆け出す。
上空からの眼は別れた三人とは、まだ距離があると教えてくれている。
逃げている男は、剣しか持っていない。
仲間の元に行く前に、敵の射程外から狩れると、狩人は物陰から飛び出し後を追う。
もう死んでいる男の横を駆け抜け様とした時、狩人の耳朶を最後の言葉が震わせた。
「リリスの仇だ」
死んでいる筈の男のボウガンは、狩人の眉間を貫き、上空を舞っていた死神の使いは、地上に墜落した。
「どうした?敵討ち出来たってのに、あんまり嬉しそうじゃないな」
離れた場所で墜落した、デスイーグルの死骸を回収しに行ったカイルは、クリフアングルをその近くで見つけた。
それを曳きながら、ラームの背中に声を掛けるが、余り嬉しそうな感情を感じない。
「必死でしたけど、この子はまだ子供です」
眉間を貫かれて絶命している狩人は、十五、六ぐらいの年齢だろう。
子供とは言えないが、大人とも言い切れ無い年齢だ。
「戦争に参加した時点で、子供も大人もないわい。こんなのに好き放題されるようじゃ、先は長くないのお」
この戦は負け戦になる。
誰もがそう思っているだけに、バックルの言葉を誰も否定しない。
「これは僕からの餞別」
フェイクがラームの手に握らせた袋の中で、お金特有の音が響いた。
「これもしかして、今まで稼いだお金の殆どじゃありませんか?」
中を確認したラームは、驚きの声をあげた。
「僕はお金には興味ないからね」
いつもの笑顔のフェイクを見て、袋をギュッと抱きしめる。
「全く豪気な人がいると、俺等がケチに見えちゃうじゃないですか。こっちは俺達からの餞別です」
サムが渡した袋からも、お金の音が響いた。
「お前さんの服は貰っていくぞ。死んだって証明が必要だからな。今度どこかで会っても、違う名前だな」
ラームを除く全員一致の意見は、死んだとして戦場から離脱させる。
その為には、斥候に出る今回が最適だった。
「徒歩じゃキツイだろうから、こいつに乗っていけばいい。馬より癖が強いらしいが、落ちて怪我しても誰も助けてくれないから気をつけろよ」
ラームは涙ぐみながらも、クリフアングルの背に跨がった。
「私は絶対にこの隊の事、皆さんの事忘れません」
「ふんっ!わしは腑抜けの事等すぐに忘れるわい」
そんな物言いのバックルだが、フェイクの次に大きな餞別を出している。
不器用で口は悪いが、そんな男なのだ。
「何処で目が光ってるか解らないから、もう行くんだ」
馬とはかなり操作性が違うのか、ラームはいきなり振り落とされそうになったが、すぐに立て直し森に消えて行った。
軍に戻ったカイル達は狩人を狩った代償に、ラームが命を落としたと報告した。
公式の記録として、カイル達の隊でラームが、初めての犠牲者となった。




