(3)
これはちょっとまずいなと、カイルは左の崖を見下ろす。
山岳越えの為の通りは狭く、軍は細長くなってしまっている。
今攻撃を受ければ、身を隠す場所もない。
トカタン軍が劣勢を強いられているのは、物資や戦力の差もあるが、戦術で大きな差があるのが一番の理由だ。
危険な場所を通過する前に、リリスの偵察が出来なくなったのは、予想以上に痛い。
ざわつく周囲が指差し、見上げているのは、遥か上空を旋回するデスイーグル。
駆け出そうとするラームの首根っこを、掴んで引き戻す。
「あんな上にいる奴に、攻撃しても当たる訳ないだろ」
「下にはあいつがいる」
ラームは引き止めたカイルの手を振り払い、無理矢理人込みを掻き分けて行く。
「マズイよ。上に沢山の人の気配がする」
フェイクが笑み以外の表情を、浮かべているのは珍しい。
「お前さんはバックルとサムと一緒に、いつでも逃げられる様に、後方迄下がっておいてくれ」
「カイルは?」
「俺はあの馬鹿を連れ戻す」
カイルは言い終わるや否や、人込みを掻き分ける。
ちょうどラームを見つけたところで、少し先を行く軍に上から岩が落とされ、完全に分断された。
「やっぱりばれてたか」
分断されたところに、弓が雨の様に降り注ぐ。
ラームを見つけて引き寄せる。
「死んだ奴を盾にして、後方から逃げるぞ。こんなところにいたら、いい的でしかない」
ラームも道が完全に分断されたのを見て、渋々ながらカイルの言う通りにする。
二人が盾にしている仲間の死体には、次々と矢が刺さっていく。
後方の山上に、新たな岩が迫り出しているのを確認して、カイルは叫んだ。
「走れ!残されたら間違いなく死ぬぞ!」
二人は盾にしていた死体を捨て、矢の雨の中を一目散に駆ける。
間一髪二人は、落ちてくる岩を潜り抜けた・・・はずだった。
カイルは衝撃を感じ、飛ばされた。
岩に弾き飛ばされた仲間が、カイルにぶつかったのだ。
足元には浮遊感。
「カイルさん!」
ラームの声と姿は、どんどん遠くなっていった。
崖から落ちたカイルを、茫然と見送るラームの両頬にパチンと衝撃。
「皆待ってるから先に逃げて」
笑顔以外を見た記憶がない、フェイクの怒った表情に、ラームは自分の犯した失敗に気付いた。
「私のせいでカイルさんが・・・」
フェイクは怒った表情から一転、いつもの笑顔を見せた。
「大丈夫。まだ生きてる。僕が連れ戻してくるから、ラームは先に逃げて待ってて」
崖は非常に高くカイルが落ちた先は、森になっていて見えない。
どうやって行くのかを問うより早く、フェイクは崖から飛び降りた。
時折空中で方向を変えながら、フェイクはどんどん降りていく。
方向が変わった場所に、残されているのは光の足場。
光の足場は暫くすると、空中に溶けて消えていった。




