(2)
リリスを失ってから、数度戦闘に突入したが、いずれもグルー族の姿はなかった。
そのかわりに話題になったのは、単身で斥候を狩るグルー族の若者がいると言う噂。
空にデスイーグルを見つけたら近づくな。
その下には死に神がいる。
トカタン軍で、まことしやかに語られる噂に、一人異常に反応する男がいた。
「ちょっと心配ですね」
サムはグルー族の若者の噂を聞いている時のみに、その目に異常な光りをともすラームを心配している。
リリスを失ってから口数が減り、食事も録に取っていない。
戦闘に入っても、まるで自分の命を大切にせず、誰かを探している。
「このままじゃあいつは死ぬな」
「ふんっ!使い魔がやられたぐらいで、腑抜けになる奴は死んでも仕方ないわい」
相変わらずのバックルの物言いに、カイルは苦笑しつつもその場を離れる。
カイル達の隊長であるゼフィに、呼び出されているのだ。
フェイクはラームを心配しているのか、ずっと側について笑顔を振り撒いている。
残念ながら、余り会話は成立していないようだ。
結局はラームが、自分で立ち直るしかないのだ。
ゼフィの話しは、カイルが予想していた話しだった。
山岳を一つ越えて、大本営に合流。
これは前線を、維持出来ていないと言う事だ。
本営に合流すれば、ここよりも熾烈な戦いが予想される。
全く目の前の戦いに集中出来ていないラームが、命を落とすのは簡単に予想出来る。
違約金を払ってラームが戦場から離れるのが一番なのだが、違約金は高く設定されており、とても今までの稼ぎでは払えない。
何よりも本人が、戦場から離れる気がない。
「ちょっと話しがあるんだがいいか?」
カイルはフェイクを呼び出した。
相変わらず笑顔を絶やさないが、僅かばかりだが陰りも見える。
「やっぱりまずいか?」
「死相が出てるね。このままだと死んじゃうかな」
それは流石に、笑顔のまま言う事じゃないだろと、カイルは渋面になる。
やはり戦場から引き離すしかない。
そのチャンスは、本営に合流するまでしか残されていない。
「新しい魔獣を呼び出して契約して、リリスを忘れてくれでもすればいいんだがな」
「召喚術は、お互い必要とされる者が呼び出されるからね。そんなに簡単に、割り切れるもんじゃないよ」
「お前さん随分詳しいな。もしかして召喚術も、使えるとか言うんじゃないだろうな?」
テイマーすら知らなかったフェイクが、召喚術を使えるとは思えないし、何より使えるなら魔獣を引き連れている筈だ。
「使えるよ」
予想に反して、フェイクはあっさりと肯定した。
「使えるなら、なんで召喚してないんだ?」
「こっちで呼び出して契約すると、色々と面倒な事になっちゃうから」
時折、フェイクの言う事の意味が、カイルには解らない。
「そうだ!僕が召喚術を教えてあげるから、カイルが召喚すればいいじゃない」
「冗談は止してくれ」
戦争が終わる迄に習得出来るとは思えないし、何より使い魔を失ってラームのような状態になるのは、ごめんだとカイルは断ったが、フェイクは心底残念そうな表情を浮かべている。
「結構素質あると思うんだけどな。僕の見る目は確かだからね」
お前さんの見る目は節穴だろと、カイルは山岳越えの準備を皆にする様、指示を出した。




