四章・犠牲者
偵察に出たリリスは、気流に乗って上昇する。
眼下に何処までも広がる景色は、世界は丸い事を教えてくれる。
マスターであるラームも、同じ景色を共有している。
ラームは自由を感じられる空が好きだった。
嫌な事も、悲しい思い出も、空をリリスと翔けている時は、追憶の彼方にやれる。
特に傭兵と言う職業が、好きと言う訳ではない。
結局のところリリスの能力を最も活かし、生死を共にする事で、生きている実感を感じれるからに過ぎない。
空からの偵察は需要が多く、生きていくだけの金銭も手に入る。
ただ流されて生きている。
それは五年後も、十年後も変わらない。
その瞬間が音もなく迫っているのに、気付く事が出来ていれば、結果も変わったのだろうか?
森の隙間に動く影を見た気がして、リリスは僅かに高度を下げた。
まだ弓で射られても、余裕を持ってかわせる高さだ。
その瞬間は唐突に訪れた。
背後から攻撃を受け、リリスは翼に傷を負いながらも、旋回して敵を確かめる。
そこにいたのは、自分と同じデスイーグル。
空で攻撃を受けると思っていなかった為に、反応が遅れてしまった。
そして終わりは訪れた。
「うわあぁ!」
突然叫んだラームに、仲間達が駆け寄る。
「どうした?何があった?」
ラームは呼びかけにも茫然とし、猛禽類を思わせるその瞳から一筋の涙と共に、言葉を吐き出した。
「リリスが殺られました。背後から射られて・・・最後にクリフアングルが見えました」
クリフアングルは鹿を思わせる、グルー族が好んで騎乗する大型動物だ。
平地では馬に劣るが、人を乗せて崖を登る等、山岳地帯であれば馬より優秀な部分も多い。
「サム、ゼフィにこの事を伝えてくれ」
空を飛ぶリリスを射ち落とす腕と、クリフアングルがいたなら、グルー族が率いる部隊が近くにいる。
「しっかりしろ」
カイルは声をかけるが、ラームは爪が剥がれる程強く、地面を掻きむしっている。
空からの眼を奪われた。
全体的に不利なトカタン族の中で、唯一五分以上に戦えていたカイル達がいた軍も、これを契機に厳しい戦いに突入していく事になる。




