(4)
男は使い魔だけを連れ、来た道を全速力で引き返している。
斥候に出た少人数を、己の使い魔をリーダーとした群れで、なぶり殺す。
男はその行為に、愉悦を感じていた。
一人、また一人と狩る度に、残された相手が次第に恐慌に落ちるのを楽しみ、時には生きたまま群れに食わせる。
久しぶりの手応えのある相手。
今回も楽しんでいたはずなのに、気がつけば群れは壊滅し、傍らの使い魔だけになってしまっている。
ギリっと歯を食いしばる。
逃げ切れば、もう一度群れを掌握し楽しめると、男は必死で足を交互に動かす。
朝日は昇り始めたが、まだ闇の色が濃い森の中で、男の先の闇がうごめいた。
全身は泥と傷だらけで判別しづらいが、手に持った大斧は先日弓で射った男に似ている。
「アイス殺れ!」
マスターに、命令された使い魔は襲い掛かるが、柄が曲がる程力任せに振られた斧に弾き飛ばされ、木に全身を強打して破裂した。
刃では無く、斧の側面で殴り飛ばされたのだが、どれほど力があれば破裂等するのだ。
背負った弓を構え矢を番え様とするが、指が震えて矢が掴めない。
影は近づき、掴まれた弓はボキリと音を立てた。
「ワシはお前に感謝している。己の未熟を嫌と言う程知った。それに気付かせてくれたお前に、全身で感謝を伝えたい」
影は斧を投げ捨て、男を両腕ごと力強く抱きしめる。
熱過ぎる死の抱擁に、男の唇と全身から悲鳴が上がる。
やがて悲鳴は、骨が折れる音に掻き消され、180度に後ろに曲がった男の濁った目は、地面に向いている。
「いかんな。守るべき相手を放って来てしもうた。また未熟なワシに気付かせてくれたお前に感謝する」
グルー軍で、その残虐性から有名になりつつあったテイマーの男は、歴史に名を残す事なく名もなき男に討たれた。




