(3)
月のない墨を流したような夜に、獣の断末魔が溶ける。
バックルの斧は、既に闇と同化する程、どす黒い血に染まっている。
「お前さん寝ててもいいが、ちゃんと足は動かすんだぞ」
フェイクは頷いたのか、船を漕いでいるのか、判断しにくいが「ふぁ~い」と返事をした。
夜が明け切る前に攻撃を受け、カイル達は闇をひた走る。
ラームは時折目を閉じ、リリスの視覚から地上を見下ろすが、濃い木の陰影しか確認出来ない。
多分に洩れずデスイーグルも、余り夜が得意とは言えない。
「恐らくこちらで間違いないと思いますが、確実とは言い切れません。せめて明かりがあれば良かったんですけどね」
「明かりが必要なの?」
寝ぼけ眼のフェイクが、空に向けて光を放つと、辺りは真昼の如く照らされる。
「お前さん本当に何者なんだ」
「期待していた以上ですよ」
驚くカイルとサムをよそに、バックルは淡々とフェイクに迫る魔獣を、斧で叩き斬る。
決して突出する事もなく、常にフェイクの位置取りを確認しつつ、バックルは動いている。
本気でフェイクを、守るつもりの様だ。
「こっちです。距離150」
空を先導するリリスを、追い掛ける様にラームは走り、全員がその後に続く。
上空で旋回するリリスの下迄来て、カイル達は足を止め振り返る。
追い掛けて来る魔獣の群れに、左右から無数の矢が放たれた。
声も無く全身に矢を受け倒れていく魔獣達に目もくれず、カイル達は周囲を囲む討ちもらした魔獣を屠っていく。
追い掛けて来る魔獣がいなくなったと判断すると、弓を放っていた者達が槍や剣に得物を変更して、カイル達に加勢に加わった。
「逃げたか死んだかの、どちらかと思っていたぞ」
顔に入れ墨の入った男は、昇り始めた朝日に照らされながら、最後の魔獣を突き殺す。
「こんなのを引き連れて、戻る訳にはいかないからな。袋の口は閉じたのか?」
頷くゼフィに、カイルも剣をしまう。
闇雲に逃げていた訳ではない。
昨夜のうちにリリスを使ってゼフィに事の詳細を伝え、追い掛けて来る敵を待ち構える様に連絡を取っていたのだ。
魔獣を使役しながら、こちらの魔獣の動きに警戒しなかった、敵テイマーは罠に嵌まった。
この先は崖になっていて、カイル達が逃げて来た道も細く、テイマーが中まで入り込んでいれば逃げ道はない。
「犠牲は一人だけか。こんなのを相手にして、運が良かったな」
犠牲者等いないとカイルは仲間を見回すが、確かに一人姿が見えない。
「死にかけて変わったかと思ったが、やっぱりあいつはあいつのままだったか」
帰って来る迄、ここで酒でも飲んで待ってるとしようと、カイルはその場に腰を降ろした。




