(2)
魔獣の気配はするが、見張っているだけで、襲ってくるつもりはないようだ。
火を囲み、車座になって鍋をつっつく。
鍋の代わりは、バックルのヘルムである。
汚いと言うなかれ、戦場では使える物は、何でも利用するのだ。
豊富な食糧も調味料もある訳ではないが、サムのさじ加減と見極めはたいしたもので、身体に染み渡る程美味い。
「魔法使いより料理人の方が、向いてるんじゃないか?」
嫌味ではなく、自然とそんな言葉が口をつく。
「金が貯まったら、そのつもりですよ。魔法使いとしては、限界が見えているので」
サムの言葉に嘘はない。
魔導都市ファンリの名門校と言われる一つに、サムは通っていた。
そこに入ってきたフューレの少年に、才能の違いをまざまざと見せ付けられ、サムはその学校を辞めたのだ。
その少年はフューレを背負うと迄言われる逸材だったが、目の前でサムの料理にがっついている男にも、努力では埋められない差を見せ付けられた。
魔法使いに未練はない。
ささやかな夕餉が終わり、カイルが言葉を発する。
「お前さんはどうしたい?治癒が使えるんだ、使い捨ての前線じゃなくて、安全な族長のそばにいられるぞ。給金だって五倍以上は堅い」
「おかわり」
カイルの問いにフェイクは、皿の代用品である葉っぱを突き出し答えた。
「お前さんの事を話してるんだがな」
相変わらず細身のどこにそんなに入るのか、フェイクはよく食べる。
文句の一つも言ってやろうかと思ったカイルだが、治癒は想像以上に消耗が激しいとされているのを思い出し、何も言わずにフェイクが食べ終わるのを待った。
よく食べるのも、消耗した何かを回復させようと、身体が要求しているのかも知れない。
過去には治癒を使って、身体が消えた人間もいると言う。
魔法が使えないカイルには、理解出来ない世界だ。
「別にお金が目的じゃないし、本陣はこんな美味しい物が食べられるの?」
「美味しいと言ってもらえるのは、嬉しいですけど、敵に攻撃しない貴方は前線にいると、いつか死にますよ」
フェイクは無言で、サムにおかわりを要求している。
一人だけ夕餉の再延長戦だ。
「避けるのは上手いから大丈夫。僕はカイル達と一緒にいるよ」
金に興味はなく、敵に攻撃もしない。
およそ傭兵からは掛け離れた男ではあるが、お荷物から一気に最重要戦力になったと言える。
サムもラームも口には出さないが、安堵した表情を見せている。
「どれぐらいの怪我なら治せるんだ?」
「死んでなければ大丈夫」
カイルは五倍と控え目に言ったが、フェイクが言う事が本当なら、十倍でも雇う人間はいる。
「フォーメーションは、フェイクを中心に組む。余程の怪我じゃなければ、他人が見ている場所では治癒は使うな。安全な場所に行きたいなら止めはしない」
治癒が使えるのを知られれば、フェイクの意思に関わらず、別の隊に配置を換えられるだろう。
フェイクが頷くのを確認して、バックルにもそれでいいなと念を押す。
「ワシはそいつに命を救われた。借りは命を賭けて返す」
隊の方針とフェイクの意思は確認した。
後はテイマーをどうにかして、本陣に帰還するだけだ。
闇の中、炎を頼りにリリスが、ラームの腕に降り立つ。
「準備が出来ました」
斥候狩り等金にはならない。
敵であるテイマーは、純粋に人間狩りが好きなのだ。
通常なら犯罪である行為も、戦時ならば許される。
戦争には金以外にも、自分の性癖や趣味を満足させる為に、参加している者も少なからずいる。
「今度はこちらが狩る番だ」
ローテーションで見張りを交代しながら、カイル達はその時を待った。




