(4)
皆が思い思いの場所に腰を降ろし、火を囲んでささやかな宴が催されている。
敵大将を討ち取る事は出来ず、その場から撤退させただけだが、久方ぶりの勝利にあちらこちらから笑いが洩れている。
カイルはやけ酒を煽り、その傍らではラームと使い魔が、肉を啄んでいる。
「すまないな。せっかくのチャンスを、みすみす逃しちまった」
「とりあえずは今日を生き抜けた事に、乾杯しましょう」
合わせた酒瓶が、澄んだ音を立てた。
カイル達のような下っ端の徒歩の者に、大功を立てるチャンス等そうそう訪れない。
悔しさを酒と一緒に流し込む。
「リリスがいれば、またチャンスはありますよ」
聞いた事のない女性の名に、カイルは使い魔を見る。
「もしかして、そいつの名か?」
モヒカンの凶悪な面構えは、リリス等と可愛い名前からは程遠い。
ラームは恥ずかしげに苦笑した。
「この子は女の子ですよ。亡くなった妻の名を貰いました」
召喚術士が使い魔に、名前を付けるのは珍しくはない。
感受性が高いと言われるデスイーグルだが、それでも視覚を共有出来る迄繋がるのは稀だ。
ラームが優秀な召喚士なのは、間違いない。
「部隊の女の子に」
カイルはもう一度、ラームと酒瓶を合わせた。
亡くなった妻の事は聞かない。
自分から話さない限り、過去を聞いたりしないのも、傭兵としての心得だ。
「ワシがお前の性根を叩き直してやる!」
二人から離れた場所から、バックルの怒声が響き、周辺にいる傭兵達が囃し立てる。
酒と喧嘩は宴の花だ。
「うひゃ」とか「ひぃ」とか情けない声が、響いて来る。
「あの人も不思議な人ですね。敵本陣に突入したのに、かすり傷一つ負ってない」
それに関しては異論はないと、カイルも同意する。
今も不格好ながらバックルの鉄拳を、全てかわしている。
全くかすりもしない事に業を煮やしたバックルが、己の愛斧を手にしてフェイクに斬り掛かり、宴の盛り上がりは最高潮に達している。
「当たったら死んじゃうってばさ」
「敵を倒さぬ傭兵なんぞ、死んでるも一緒じゃぁ」
バックルは完全に本気となり、斧は凄まじい勢いで空気を切り裂く。
不意に笑い声が響きそちらを見ると、フェイクがその輪から逃げ出して行くところだった。
「大酒飲んで暴れるからだ」
カイルは嘆息する。
バックルは四つん這いになり、飲食した物を大地に返している最中だ。
意外に最後迄生き残るのは、あいつみたいなタイプかもなと、カイルは茂みに逃げ込むフェイクを見送った。
「貴方何者なんです?」
茂みに逃げ出したフェイクに声をかけるのは、少しウェーブの掛かった赤みの混じった髪の男。
見様によっては、色男と言えなくもない。
「何者って・・・フェイクだけど?」
カイルの部隊で最年少の男サムは、フェイクに持っていた酒瓶を投げて寄越した。
「他の人は、魔法が使えないから気付いてなかったみたいですけど、時折景色がぶれてましたよ。大体がカイル隊長やバックルさんが、同等程度の相手と対峙した時にね」
フェイクは、苦虫を潰したような顔をしている。
サムの詰問にではなく、酒がキツすぎてあわなかった事にだが。
質問に答える気もなく、ニコニコと笑顔を振り撒くフェイクの肩をポンと叩いて、サムは仲間の元に歩き出す。
「傭兵だから、これ以上は聞きませんけどね」
立ち止まり振り返ったサムは、不意打ちでフェイクに風の刃を飛ばす。
フェイクは酔ってよろけた様に尻餅を付き、風の刃はその上を通過していった。
気付かなかった様に、顔には相変わらず笑みを浮かべている。
「やっぱり見えてますね。貴方が何者か知りませんが、俺は期待していますよ。戦場にようこそ」
勝利の宴は、夜がしらみはじめる迄続いた。




