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ニ章・ニュービーの宴

 鋼の噛み合う音、側を空気を切り裂き掠めながら飛翔する矢、そして蔓延する血の臭い。


 紛れもなく、ここは戦場である。


「ラーム目を放ってくれ」


 カイルに呼ばれた、猛禽類を思わせる鋭い目つきの男は、空に向けて使い魔であるモヒカンの鳥を放つ。


 デスイーグル。


 体長二メートルにもなる空飛ぶ魔獣。


 召喚術師であるラームは使い魔と視覚を共有し、戦場の動きをつぶさに把握出来る。


 トカタン側の一人として、カイルは五人でなる一番小さい部隊の隊長となっていた。


 五人の部隊を三つ、総勢15人をまとめ上げるのは、顔に入れ墨が入っている壮年のトカタン族のゼフィ。


 狩りよりも農耕を生活の主軸に置いている部族だが、ゼフィの身体は無駄な肉がついておらず、少し話した印象も落ち着きがあって悪くはない。


 少なくともそれなりには自分の身を守れ、かつ無謀な突撃をやらせたり窮地にパニックにはなりそうではない。


 カイルの下についた部下も召喚術師のラームを筆頭に、以前一度同部隊にいた事もある大斧を使う戦士のバックル、風の魔法使いサムとバランスも悪くはない。


 どんな部隊に配属されるかが生死を分ける事を考えれば、これ以上は望むべくもないだろう。


 悪くない。


 カイルは、もう一度胸中で頷く。


「ねーねーねー」


 そう悪くない・・・ただ一人を除いて。


「何で他の人達は戦ってるのに、僕等はこんなに後ろにいるの?」


「それぞれ役割があるんだ。いきなり最前線に放り込まれなかっただけ感謝しな」


 新兵の何割かは、初戦で命を落とす。


 功を逸り無謀に飛び出す者、初めて目の当りにした戦場に怖気づいて、本来の力が出せず討たれる者。


 理由は様々だが、長く傭兵をやっている者が生き残る可能性が高いのは、単に経験の積み重ねがあるからだ。


 心得の一つに、自分より強い者とは戦わないと言うのがある。


 臆病者と罵られようが、全てを失うよりもマシというものである。


 戦場を偵察し終えた、ラームの使い魔が降り立つ。


「グルー族はここには参戦してないみたいですね。いるのは雇われた傭兵ばかりのようです」


「そいつはついてるな。まあこんな僻地の戦場に敵の主力は来ないだろうがな」


 トカタン族と敵対しているグルー族は、森の狩人の異名で知られている。


 総じて弓の名手であり、野生の動物を狩る為、気配の消し方が抜群に上手く、主戦場がほぼ森になるので厄介極まりない。


 さらに矢じりには毒を塗ってあるので、もし対峙すればかなりの被害が予想される。


 カイルはこいつと関わらなきゃと、ちらりとフェイクを見る。


 店に来た全員分の食事代を、賄うだけの持ち合わせをカイルは所持していなかった。


 全く知り合いのいないルスでお金を手に入れる為に、傭兵としてトカタン族側で契約せざるを得なかった。


 傭兵もある程度名前が売れていれば、契約金が支払われる。


 それでもカイル程度の実績に契約金が支払われ、いきなり少人数でありながら部隊を任されるのは、余程劣勢であるという証拠である。


 トカタン・グルー共に、大量に傭兵を雇う金など持っていない。


 ならばその金は何処から出ているのか?


 カイルの調べでは、グルーの背後にいるのは大国アストンで、トカタンにはランバル。


 これは相手を刺激はしたくはないが、資源は確保したい二か国の代理戦争なのだ。


 日の出の勢いの大国アストンと、古いだけが取り柄のランバルでは最初から勝負にならない。


 カイルはさっさとルスを離れて、グルー側で参戦する予定だったのだ。


 この厄病神がと、声に出さずに毒づく。


 大きな旗が振られ、前衛と後衛の入れ代わりの合図が出される。


「出番だ。俺とバックルが前、ラームとサムはサポートに回ってくれ」


「僕は?」


 一人場違いに、ニコニコ笑顔を浮かべるフェイクを見て、カイルはもう一度嘆息する。


「お前は俺の後ろを離れるな。いいか、とにかく生き残る事を考えろ。いくぞ!」


 総隊長ゼフィに続いて、カイル達五人も戦場の真っ只中に突っ込んでいった。


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