狼竜物語外伝・金色(こんじき)の護り手~プロローグ~
それは、輪の如く
時に、樹形図のように
全ては繋がっている
それ程大きな街とは言えないルス。
そんな街の小さな広場で、声を張り上げる男が一人。
「そこのがたいのいい兄さん!どうだい我がトカタンの軍に加わってみちゃぁ?報酬は一日50ゼニー、手柄を立てれば報奨金も出るし、勝てば全員にボーナス付きの好待遇だよ」
声を掛けられた男は、軽く手を振り、その場から離れていく。
あっさり誘いを一蹴されたが男は諦めず、遠巻きに自分を囲む観衆の一人を、次のターゲットに決めたようだ。
「そこのお嬢さん。女でも飯炊きから兵士の世話まで、仕事はいくらでもあるよ。良かったらどうだい?」
自分に声を 掛けられているのも気付かず、横をチラチラと見ている女を見て、男は歯噛みする。
ルスのような小さい街で、傭兵の募集にこんな人の輪が出来る事など、滅多にない。
ましてや、囲んでいる人の比率が、圧倒的に女性の方が高いなど普通あり得ない事だ。
男は、声を掛けた女性の視線の先、この人の輪の原因。
自分の話しを興味深げに、ニコニコと笑みを浮かべたまま聞いている青年を睨みつける。
金を溶かして、糸にしたように輝く髪。
男でも油断をすると、吸い込まれてしまいそうになるほどの美貌。
白い眉毛が奇異に映るが、これほど目鼻立ちが整っていると、それも神から与えられた神秘性を高める要素の一つと思えてくるから不思議だ。
囲んでいる聴衆の殆どは、自分の話しを聞いているのではなく、 聞いている振りをしてこの男を盗み見しているのだ。
「兄さんどうだい?良かったらうちの軍に入ってみないかい?」
余り戦力にはなりそうにないが、少なからず男性もこの場にはいる。
その中には一人二人ぐらい、そう言った趣味嗜好の人間がいてもおかしくない。
この男を引き込めば、もしかしたら追っかけてくる奴もいるかも知れないと踏んで、男はターゲットを変更したようだ。
「え~僕?どうしようかな」
脈あり!
優柔不断そうな返事を聞いて、強引に話しを推し進めようとした男を、どこからともなく現れた黒髪の青年が遮る。
「悪い事は言わねぇ。止めときな兄ちゃん」
こちらは金髪の男と違い、よく鍛えられて引き締まった身体。
間違いなく戦力になる。
「兄さん」
「お断りだ」
誘いの前に断られ、更に鋭い眼光で睨まれ、男は思わず後退りする。
「正式な仲介所を通さず、こんなとこで人を集めるなんざ、どうせもぐりだろ。報酬が本当に支払われるのかも怪しいもんだぜ」
チッと舌打ちして、男は雑踏の中に逃げ込んでいく。
どうやら黒髪の青年の言った事は、当たっていたようだ。
「お前さんどこの貴族のバカ息子だか、商家のぼんくらだか知らねーがとっととお家に帰りな。傭兵なんざ他に稼げねぇ俺みたいな奴がやるもんだ。金には困ってないんだろ?」
金髪の青年は、馬鹿にされてるのがわからないのか、笑みのままだ。
「お金?僕人間のお金なんて1ゼニーも持ってないけど」
黒髪の青年は頭をボリボリ掻くと、意を決した様に歩き出す。
「ついてきな。袖摺りあうも他生の縁てな。飯ぐらい食わせてやる」
黒髪の青年は、とんでもないのに関わっちまったと思っているようだが、放っておけない性分らしい。
暫くして歩みを止め、青年は振り返る。
「俺は流しの傭兵をやっているカイルってもんだ。言っとくがこれは貸しだからな。返せる時にちゃんと返すんだぞ」
この物語はルークが生まれる数年前。
数奇な運命に導かれて出会った二人の男の物語である。




