出撃 二人で
〈シン来ました 距離はおよそ200km こちらに向かっています〉
本日から平常授業。4時間目の国語の授業も終わりという時間に、シンの頭にネロスの声が聞こえた。
「奴もいるのか?」
〈数は1 今回は警戒していたので探知できましたが かなりのステルス性能です 速度を落として現在時速2000kmで接近 6分後に東京上空に来ます 間違いなくあの黒い機体です〉
「行くしか・・・無いな。地球での生活は・・・。なかなか・・良かった」
〈敵機の進む直線状にこの学校があります 偶然だといいのですが〉
「こちらの存在を知っているのか? なら向こうのセンサー性能はネロスより上と言うことになるが・・」
「こらっ! 悠里! 静かにしろっ!」
先生がシンを注意する。クラスメートもほとんどが、先ほどからぼそぼそと喋っているシンに目を向けていた。
「申し訳ない。少し黙っていてくれ」
「な・・・なにっ?」
先生はシンの思わぬ返答に驚き、首を前に突き出した。そのとき、授業終了のチャイムが鳴った。
「悠里、昼休み中に職員室へ来い!」
まだ何かを一人で話しているシンに先生は注意をしたが、まったく聞いていない様子にため息を付く。
しかし、シンはいつものように澄ました顔になると、先生に向かってニッコリと笑って言った。
「職員室へ・・・『行ける』と・・・良いのだが」
「・・・・はぁ?」
―ブォッ―
開け放たれていた教室の窓から突風が吹き込んだ。出しっぱなしにしていた生徒の教科書やノートが机の上から落ちる。
「やーん・・・すごい風ぇ・・・」
美鈴は顔からずれて落ちそうになった眼鏡を手で支える。
「きゃぁっ! そ・・・外!」
光美の叫び声に全員窓の外を見る。そこには・・・。
「し・・・白いロボット・・・。れ・・・例の・・・」
大月が立ち上がって言うが、あれほど近くで見てみたいと思っていた彼も、実際目の前に実物が現れると後ずさった。
窓の外に立った巨人は、三階にあるこの教室の中を覗き込むようにしてこちらを向いた。それに近づく者が一人いた。ユリ・ロア・シグン。地球では悠里シンと名乗っている少年だった。
彼は窓際まで歩くと振り返り、あっけに取られた顔をしている全員へ向かって言った。
「無駄かもしれないが、行ってくる」
その瞬間、シンの体は黒いパイロットスーツに包まれた。手には同じ色のヘルメットを抱えている。
「そ・・・その格好・・・。シン、お前が遊園地に現れて・・・。そんで昨日ロボットを全部倒した奴だった・・・のか?」
本多はその性格のなせる技で、一人臆する事無くシンに近づきながら言った。それを見て、大月もそばに来た。
「シン君・・・。君は一体・・・」
その言葉を聞いて、シンは不思議そうな表情を一瞬浮かべると、首を捻った。
「忘れたのか? 俺は以前お前たちに聞かせたぞ。俺は木星人でお前たちの言うロボットに乗っていると」
「えっ・・・・。そ・・・それは・・・。確かに・・・聞きました。・・・ですが・・・」
その話をシンのオタク・妄想話と切り捨てていたクラスメート全員が、口を開けて驚いた顔のまま固まっていた。
「そ・・・そうだ・・・。私は黒いスーツに見覚えがあった。だから・・・遊園地でその姿を見たときシンのような気がしてたんだ・・・。私達が始めて出会ったときにしていたそのスタイル・・・」
羽月は光美と美鈴の横からシンへ向かってゆっくりと歩いて行く。それを見ていた光美は、羽月のセリフから何か思い出したように言った。
「はっ! もしかして! 羽月が遊園地で助かったのは・・・。空中にふわふわ浮いていたのは・・・。シン君が何かしてくれたんじゃ・・・」
羽月は振り返って、そう言った光美に笑顔を向けた後、本多と大月の前を通り過ぎ、シンの目の前に立つと両腕を広げて抱きついた。
「シン・・・ありがとう。遊園地でも・・・、昨日頑張って戦ってくれたのも・・・。今から戦いに向かおうとするのも・・・。ありがとう」
「・・・どうしてそんな事をしたのか、そして、なぜ今から無謀な戦いに行こうとするのか、俺にはわからない。しかし、一つだけ分かった事がある」
シンは正面に羽月を見据えて口を開いた。
「どうやら、俺はお前のことが好きみたいだ。俺は、地球人の羽月の事を・・・愛してしまったようだ」
羽月はシンの顔を見ながら目に涙をためた。
教室にいるどの生徒も顔を赤らめ、光美と美鈴も抱き合って涙を流していた。
《シン 敵が迫っています 都市主要部を通過してこちらへ向かっています》
突然、教室に声が響いた。その声は、窓の外、ロボットから聞こえてきた気がしてみんなそれを見る。
「どうした? なぜ外部スピーカーを使う?」
シンは振り返ってロボットを見ながらそう言った。羽月はそんなシンに尋ねる。
「だ・・・誰? 他に誰か乗っているの?」
「いや。A・Iだ。そいつ自身とも言える奴だ」
《私は羽月を一緒に連れて行く事を 強く提案します》
シンは眉をひそめて怪訝な顔をする。
「何を言っている。死にに行くような戦いに羽月を連れて行けと言うのか?」
《どうしてかはまだ謎が解けていないので言えませんが 私の直感という物です》
「A・Iが直感? 木星人も持っていなく、地球人ゆえの特殊能力をお前が持っているはずがないだろ」
《それに どうせあなたがやられれば 地球は全て敵の思い通り 結果羽月も死ぬかもしれませんよ》
「生き残るかもしれない。それに、不利な戦いとは言え、まだ俺が100%やられると決まった訳じゃない」
「私・・・行く」
羽月の言葉に教室中は静まり返った。
「シンと行く。別に死んでも構わないよ。地球を救うためにシンを、シンだけを殺してしまうなんて・・・絶対ダメ。嫌」
「バカを言うな。昨日だって死ぬ所だったんだぞ! お前はここにいろ!」
シンは羽月の肩を手で押したが、羽月はシンの腕を強く握って放さない。
「ならなおさら離れない。シンは・・・頼りないから・・・。私がいないと!」
「・・・・」
少しおどけた口調ながらも、羽月はずっと真剣な眼差しでシンを見つめ続けていた。
「それに・・・負けないんでしょ?」
「・・・・。その通りだ。行くか! 羽月!」
「うん!」
窓際に巨人の手の平が見える。本多と大月が笑顔でその近くの窓を開けた。
「先生! 行ってきまーす!」
手の平にシンと一緒に乗りながら、羽月は教師に向かって手を振った。
「・・・・っ! 昼休み中に帰ってくるんだぞ! 二人とも!」
教師は一人前になった教え子を見るような目で羽月とシンを見ていた。
胸部ハッチが閉まり、ロボットは向きを変えると、突風と共に空へ舞い上がった。
「いってらっしゃーい!」
美鈴は窓から身を乗り出し手を振る。
「大丈夫かよ・・・。かなり不利な戦いって言ってたけど・・・」
その横で本多と大月は心配そうな顔を見せながら空を眺める。
「なぁーに言ってんの。綺麗な勝利の女神がついているんだから、楽勝でしょ!」
光美の笑顔を見て、美鈴、本多、大月の三人は・・・、いや、教室にいる全員が笑って頷いた。




