現る!
次の日、朝からずっとシンは調子が悪かった。珍しく朝6時の起床時間を守れなかったし、朝ごはんを食べている時もテレビのリモコンにフォークを刺してしまうし(ナノプローブによる怪力)、その後自分の部屋のドアが自動ドアだと勘違いして10分も開くのを待ってしまったりした。
「し・・・シン・・・。どうしたの? 朝から変だし、電車も間違えて急行乗りそうになるし、カバンも2回も置き忘れるし・・・」
「ああ、どうもおかしい。何か未知の伝染病かもしれない・・・」
シンは学校への道をため息ばかりついて歩いている。
「けどさ、昨日の今日で普通に授業をするうちの学校ってすごいよね!」
「昨日? ・・・ああ、もう少しで死ぬとこだったな。今までで一番危険な任務だった。危険と言うか・・・無謀と言うか・・・」
「昨日と言えば、ミリンどこ行ったんだろうね? 女の子なのに外泊して心配だね?」
「ああ、あいつは木星に帰ったようだ。地球圏にはいないらしい。ネロスが言ってた」
「ふーん・・・」
シンは木星の存在を隠すと言うことも忘れてすんなりと答える。しかし、もちろん羽月もまったく信じていないので、シンの妄想設定にミリンも巻き込まれているのか程度にしか考えていなかった。
「そういえば、シンもロボットに乗っているって言っていたよね? ・・・うふふ。どういうロボットなの?」
「俺のか? 名前はネロス。正式名称はOVER DOLL TYPE NEROS だ。全長12m。重さは装備によって違うが大体30t前後。と言っても反重力機関があるので重さなど無いに等しい。エンジンには金属水素反応炉を採用。まあ木星では小型艇から戦艦までに使われているスタンダードな物だな。ワープには反物質反応炉を使う訳だが、色々な問題のためOVER DOLLには無い。通常搭載されているレプリケーターは食事からOVER DOLLの簡単な武器までを作り出せるが、OVER DOLLの周辺という狭い範囲だけだ。なので、巨大かつ複雑な武器は別に装備しなければならない。普通はプラズマガン系の武器がエネルギー効率が良く好まれるが・・」
「シン、よーくわかった。あなたが細かい設定まで考えているオタクと言うことが十分わかったわ」
羽月は菩薩のような顔をして、シンの肩を叩きそう言った。
「そ・・・そうか? ちなみに色は見栄えのよくない白色だ。前乗っていた黒の方が俺はしっくりくるんだが・・」
「色? 色は白色が良いじゃない。遊園地に現れて、昨日戦っていたのも白でかっこよかったし。何しろ、ガイグダンも白色じゃないの」
「そう言えば・・・そうだな」
ここでようやくシンはしまったという顔をする。どうやら木星の事を言わないと決めていたことを思い出したようだ。
「またあの白いロボットがガイグダンのように地球を守ってくれればいいのになぁ。でもさすがに今日は例の国は攻めて来ないでしょう。アメリカの空母は沈んじゃったけど、日本の自衛隊はそれほど被害無かったらしいよ。今日は一生懸命警備? をしているんだってさ。ニュースで言っていたよ」
「本当に来ないことを祈る」
「来てもあの白いロボットがやっつけてくれるよ! 綺麗でかっこいい秘密基地から発進! ってね!」
「いや、今は光学迷彩がダウンしているので多分近くの山の中に・・・」
「何それ! それはシンのロボットの話でしょ? かっこわるぅー」
「うむむ・・・」
「あ・・・。シンが置き忘れたカバンを取りに行ったし、オタク話も聞いてたからこんな時間!」
羽月は腕時計を見る。昨日と同じく遅刻を予感させる時間になっていた。
「早く行くわよ! シン!」
「お・・・」
「こうしないとあなたは付いてこないでしょ!」
羽月はシンの手を取り、ぎゅっと手のひらと手のひらを合わせると、学校に向かって走り出す。シンも否応無しにその後に続く。
「何? 文句あるの?」
羽月はどうしてか後ろを振り向かずに言う。
「・・・・いや、別に」
揺れている羽月の長い髪の毛を見ながら、シンは嬉しそうな顔をした。
教室の前に来るとようやく羽月は手を離す。コホンと一つ咳払いをすると、シンと並ぶようにして教室の中へ入った。
「おっはよー!」
すぐさま美鈴が話しかけてくる。一緒に登校してくるはずのミリンのことをまず尋ねられたが、羽月は良く分からないと答えた。すると、美鈴はにんまりと笑った。
「それじゃあ、今日は二人っきりで登校出来たんだね! それで羽月ちゃんの顔はそんなに赤いのかぁ」
「あ・・・赤く無いわよ! 一学期も二人で来てたのに、どうして今更そんな事になるのよっ!」
「えー。例えばぁ。・・・手をつないで歩いてきたとかぁ?」
「うっ・・・。な・・・なにそれ・・・」
羽月は美鈴から目を逸らした。すると、逸らした先にいる女子も自分を見て笑っている。
良く見ると、クラスの全員がチラチラと自分を見ているようだった。
「おはよー、ご両人!」
今登校してきたばかりの光美は、ドアのすぐそばに立っている羽月とシンの肩を叩いていたずらっぽく笑う。
「なっ・・・なによ光美まで・・・。何か・・・この教室おかしくない?」
シンもポカンとした顔だったが、よく意味が分かってないらしく、澄ました顔になり自分の席へ向かって歩いて行った。
しかし、羽月は諦めきれず、絶対に何かあると踏んで美鈴や光美に詰め寄るが笑ってごまかされる。
そのとき、こちらも今登校してきたばかりであろう本多が、カバンを持って羽月達とは反対の、後ろの扉からこそこそと入って来るのが見えた。
何かピンと来るものがあったのか。羽月は突然ダッシュをすると、窓際にいる女子が手に持っている携帯を奪った。
「ちょっと貸して!」
羽月は遠慮なくその画面を見る。そこには、二人で手をつないで笑顔で歩いている羽月とシンを撮影した画像があった。
「・・・・・っ!」
キーを操作して画面を戻す。すると、メールでそれを送りつけた人間の名前が確認できた。ご丁寧に羽月とシンを除くクラス全員に一斉送信してあるようだ。
「ほ・・・・本多ぁ・・・・・」
羽月の目は光り、本多は身を震わせる。その光景を見ていた大月は、その日の日記に書き込んだという。『本田君が殺されると思った』と。
「動くな本多ぁ!」
「わが生涯に一片の悔いなしっ! ・・・でもやっぱ許してぇー」
教室から逃げ出した本多を羽月はこぶしを振り上げながら追って行った。
その羽月の後姿を、美鈴と光美はいたずらっぽくでは無く、優しい目で見ていた。
「ついに羽月ちゃんの思いが届いたのかなぁ?」
「羽月、ベタ惚れだったからねー」
シンはと言うと、羽月と本多を見て首を捻りながら一時間目の授業の用意を始めていた。
日本海を悠然と横切る黒い物体があった。それは大気圏内を飛行するどんな物よりも早く、そして静かだった。
渡り鳥はそれの接近にまったく気がつかず、軽い突風にあおられると、すぐに体勢を立て直して何事も無かったかのように飛んだ。ある漁船の乗組員はその黒い物体を見上げて、「今日もいい天気だ」と、笑顔で言った。
それは能登半島を横切る。空を何機もの自衛隊のヘリコプターや航空機が巡回しているという警戒網の中、飛騨山脈を越えた。




