西方遊撃隊
〈シート レプリケート完了〉
シンの真後ろ、少し高い位置に突然現れた椅子に羽月は腰掛けた。
こんなロボットを見せられたら少しの事では驚かない。それに、突然椅子が現れるよりも、遊園地で50mの高さから落ちて地面すれすれでふわりと浮いて止まった事のほうがよっぽど不思議だ、羽月はそう思った。
羽月は座りながら、前にいるシンを後ろから両手で抱きしめる。それを感じて、シンはかぶっていたヘルメットを投げ捨てると羽月に目をやり、笑った。
「怖くないか、羽月?」
「ううん。全然。シンがいない昨日の方が不安だったもん」
「しかし・・・。二人乗りにも出来たんだな、ネロス」
シンの言葉にネロスは内部スピーカーで答える。
《本来 OVER DOLL は副座機なのですよ》
「二人乗りだと? まさか。操縦系統は一人でまかなえるような作りになっているし、第一そんな話聞いた事もない」
《太古 最初のOVER DOLL 操縦者は 後ろに愛する者を乗せて戦ったと記録にあります》
「そんな記録・・・。本当か?」
《これはメインコンピューター、そのCPUを含むコアモジュール、ブラックボックス内にのみ存在する記録です》
「その情報をどうしてお前が知っている?」
《私は『新型』ですからね》
「・・・頼りにしているぞ、新型」
シン達の前方モニターに黒い点が映った。赤い警告色と共にその映像は拡大される。黒いOVER DOLL は武器を構えてそれをこちらに向けていた。
《敵プラズマライフル こちらをロック・・》
「させるかぁ!」
ネロスは急旋回を見せる。視界はゆがみ、羽月の目にはどちらが地面でどちらが空なのか分からなくなった。
「きゃぁー・・・・って、あれ? 全然普通・・・。こんな時って体が壁に張り付くんだったような・・・」
自分で傾けていた体を羽月は元に戻して目を丸くしている。
「コクピット内はあらゆる力を無効化している。快適だろ? 右側にレプリケーターがあるから好きな飲み物でも出しておけ」
シンはそんな事を言いながらも慌しく機体を操作する。これが木星人50歳以下若手部門一番と思わせる技術だ。
しかし、ネロスが動こうとする方向に、黒い機体はすぐに回りこんで来る。それから放たれた青いエネルギーの塊をネロスは間一髪のところでかわした。
「何だあいつ! 昨日の戦いでもう俺の操縦のくせを掴んだのか!」
《プラズマ砲かすりました シールド維持 しかし 地上にある立体駐車場消滅 幸いにも死傷者ゼロ》
「ダメだよ! まだ人は避難していないはずだよ! シン!」
羽月が何も無くなってしまった地面を見ながら叫んだ。
「海に出るか・・。付いてきてくれればいいが・・・」
ネロスは螺旋を描き上昇する。そして、方向を太平洋に向けると流星のように飛び去る。
《付いてきます 何かあちらに考えがあるのかもしれません》
「向こうも人に怪我させちゃダメって思ったんだよ、きっと!」
明るく笑っている羽月に、シンは申し訳なさそうに言った。
「残念だが羽月。木星人はそんな事考えない。地球人なんて・・・原始人、猿と同じだと考えているからな。それに、昨日は大軍で日本に攻めてきた奴だ。その時、死傷者も出ている」
「そ・・・そうかぁ・・。えっ・・・。相手も木星人なの? 話し合いで何とかならないの?」
「は・・・話し合う? 敵とか?」
シンは意外そうな顔をする。その顔を見て羽月も意外そうな顔をした。
《考えにくいですね 相手は地球を征服したい こちらは守りたい 話は平行線です》
「そうだ。無駄だ」
「でもさ・・・。何かの勘違いかもしれないし・・・。私も光美とたまにケンカするけど・・・。話し合ったらすぐにお互いに謝ってまた元通りだよっ!」
「そんな話・・・。しかし、勘のいい地球人の言うことだ。一度従ってみよう。木星チャンネルを開け」
《開きました》
「こちらは木星帝国所属、西方遊撃隊小隊長ユリ・ロア・シグン 機体名TYPE NEROS 。登録されてないかもしれないが新型だ。認識番号・・」
《どうした? もう降参か? ユリ》
「――――っ!」
スピーカーから聞こえてきた声に、シンは目を見開いた。
《声門分析 この声は登録にあります 名前は・・》
「フル・トア・リント 。フル教官だ。西方遊撃隊中隊長」




