正義の味方
〈パイロットスーツ レプリケート完了〉
コクピット内で、シンの体は黒いヘルメットとスーツに覆われた。
「慣性装置オンライン、火気管制装置オンライン、燃料重水素モードでオンライン、反重力装置オンライン、光学迷彩ON、ステルスモードON、電磁シールドON、物理抑制フィールド形成完了」
〈各部フルチェック 発進OK〉
「行くぞっ!」
学校の中庭に突風が吹いた。
〈速度時速3000km超 到着予想時間56秒 戦闘時間は20分を予定しています〉
「敵を粉砕する時間まで勝手に予想するな。それに、10分で終わらす。俺は一時間目の国語の授業が好きだからな」
〈なるほど では私が地球モードでの国語の授業をやってあげましょうか〉
「いらん。俺はあの学校の雰囲気でやるのが好きなんだ」
〈おやおや またもや木星人らしからぬ事を・・・〉
「ほら、敵が見えたぞ。お前も手伝え」
〈核反応抑制粒子散布中 もうやっています〉
「まずは一機!」
ネロスは銀色の飛行タイプの敵とすれ違いながら腕を伸ばす。その手にはいつの間にか大型のナイフが握られていた。胴体を上下に切り分けられた敵は爆発をすると粉々になった。
〈チタディアムナイフ レプリケート完了 粒子散布完了するまで接近戦をお願いしますしかし こんな物理攻撃でも十分ですね 本来は大型の猛獣用武器ですが〉
「ベイドール三号星にいたコーマドロスの方がスピードが速く強かった。火も吐いたしな」
〈こちらもミサイルを吐きましたよ〉
「かまわん。突っ込むぞ」
空を飛ぶ3機のロボットから数百発のミサイルが発射された。全方向から迫り来る小型のミサイルを無視して、シンの乗るネロスはそのうちの一機に向かって行く。
[ドドドドドドドドドォーン]
全てのミサイルが命中したかに見えた。しかし、その煙の中からネロスは姿を現す。
〈シールドダメージ ゼロ〉
「花火だな」
敵の一体が切り裂かれると、次の攻撃をする間もなく他の二機もシンの攻撃で爆発をする。
「しかし、ステルスモードなのに位置がばれたな」
〈偶然には思えません 敵は木星のセンサー技術を搭載しているのかもしれません しかし 様子から 接近してやっとこちらの存在を見つける事が出来る程度の物と考えられます〉
「木星の技術を転用したとしても、地球の物質やエネルギーではこの程度の機体やセンサーしか作れないと言う事だな」
〈それでもこの星を制圧するには十分です しかし 残念ながら地球には 気まぐれな木星人がいた それが 敵の計算外になるのでしょう〉
「気まぐれか・・・。いい言葉だな。そう、俺は気まぐれでやっているだけ・・・」
〈決して羽月のためではない〉
「そう言う事だっ! ・・・って余計な事を言うな!」
ネロスは次々に集まってくる銀色の飛行タイプのロボットを切り刻む。あまりの性能の違いに距離を取り、退却の機会をうかがうロボットを今回は逃がす気も無く、腕部レーザーで粉々にする。
「学校まで破片を飛ばされる訳にはいかないからな」
〈この距離なら届く確立は100%ありません ただの個人的恨みだと推察されます〉
「ああ、認めよう。その通りだ」
全ての飛行タイプの敵を打ち落とすと、次は地上タイプの敵へ向かう。こちらは空が飛べないようだが、装甲も厚そうで、手にはロボットの大きさと釣り合いの取れるライフルやバズーカを持っている。
「敵の胴体の厚みからして、このナイフの全長では効果的にダメージを与えられるとは思えないな」
〈ではソードに伸ばしますか?〉
「伸ばした上に、レーザー全砲門を開け。なんせ時間が無いからな」
〈欲張りですね〉
ネロスが地面に足をつくと同時に目の前にいたロボットが真っ二つに左右に割れる。ガスタービンエンジンの爆発に巻き込まれながらも、その炎の塊から何十本ものレーザーが照射された。
全てのレーザーはただ単に全方位に発射されたものという訳では無く、無駄なく的確に周りのロボットの体を貫通する。厚い装甲が紙だったかのごとく穴をいくつも開けられたロボットは倒れ、人型の鉄くずとなった。
〈狙われています 後方100メートル 発射されます 直撃コース〉
放たれた直径9cm、長さ30cmの尖った円錐状の巨大な弾丸は数百m先のビルに風穴を開けただけだった。ライフルを構えた重厚な人型ロボットは、ターゲットを見失い、慌てたように首を振る。
[ザンッ]
大根でも切るような爽快な音がすると、そのロボットの両足は膝のところで切断されていた。
「借りるぞ」
倒れたロボットから、先ほど巨大な弾丸を発射したライフルをネロスはもぎ取った。
〈武器発射モジュール接続完了 残弾8発〉
「少ないな。予備マガジンももらおう」
手足をバタつかせるロボットの頭を踏み潰し、胴体に取り付けられている予備弾薬をネロスは掴んで剥がした。
〈武器を現地調達 エコですね〉
「この間、羽月に教えてもらったばかりだからな。すぐ実践するなんて俺は優秀な生徒だろ」
アスファルトを砕いてネロスは大きく飛び上がった。その驚異的な速度に周りの敵はセンサーで捉えきれずに、頭部に目のようについているカメラを動かす。しかし、当然光学迷彩を施しているネロスは肉眼では見えない。
[ガガガガガガガガガ]
上空から降ってくる自分たちの武器と同じ物から放たれる弾丸に、あるものは腕を吹っ飛ばされ、あるものは腹部に大きな穴を開けられ、あるものは爆発をする。
「精度が低いな」
〈シンが この初めて触る玩具を使いこなせないのでは?〉
「じき慣れる」
ネロスは全長12m。この長さ5mの武器を見事に操り、あたりの陸上型敵ロボットを丁寧に破壊していく。ネロスより一回り大きいグレーを基調とした、都市迷彩色に塗られたロボット達は、無駄弾を放つだけで倒れていく。
「ちっ・・・。被害が大きいな。怪我人はどうだ?」
〈このあたりはすでに避難完了しています 生命反応は敵以外無し〉
「悪いが敵パイロットの命まで大切にする気は無い。そのあたりは木星人の冷酷さを出させてもらおう。もちろん、余裕があればエンジン部とコクピットは外すけどな」
〈コクピットだけを狙い撃ち 破壊するのが一番効率的だと思いますが・・・ あなたはもう木星人ではありませんね シン〉
「お前はそれを勧めるのか?」
〈いえ 私も地球のやり方が気に入っています〉
「ならレーザー最小出力で敵の制御ユニットだけを狙い打って 早急に沈黙させるか」
〈賛成しま・・・ ピー 警告 ロックされています 右後方上空 距離30km〉
「俺達がロックされた? そんなバカな・・・」
[ズガーン]
ネロスは吹き飛ばされ、周りにいた敵のロボットを巻き込みビルに突っ込んだ。そのビルは折れるようにして崩れ落ちる。しかし、すぐさまその煙と土ぼこりの立つ場所から飛び立つ機体があった。
頭部左右にブレードアンテナを備え、各部にナイフを思わせるようなプロテクターを見せるシェイプアップされた機体。白を基調とし、ボディの排出口などには少しの青色が使われているロボット。ネロスであった。ネロスは光り輝き、虹色の光を放ちながら回転するように空へと舞い上がる。
高校の教室では、数人の生徒が叫んだ。もちろん、羽月・光美・美鈴、そして、大月と本多だ。
「うそっ! これって、あの時のロボットだ! だよねっ?」
「本当だぁ。遊園地に来ていたのだよ! すごーい・・・。キラキラ光って綺麗ぃー」
光美と美鈴が声をあげると、大月と本多もそばへ集まってきた。
「すごい・・・。みなさん見ています? 急に現れたと思ったら、周りのかっこ悪いロボットを破壊していきますよ! さっきから次々と敵ロボットが壊れて行くと思ったら・・。このロボットがどこからか武器で壊していたんですよ、きっと!」
「やっぱ正義の味方なんだよ! だって、かっこいいもんな、こいつ!」
どこかの命知らずなテレビ局が、超望遠レンズで捕らえた映像に教室は盛り上がっている。一人、蚊帳の外でいるミリンは「おせっかいだなぁ」とつぶやいていた。




