もう木星人じゃない
「えっ・・・。邪魔するの? うそぉー。どうして? 遊びを邪魔されたら相手も怒っちゃうかもよー。 べっつにその人が地球を壊そうが放って置けば良いでしょー? ・・・それとも、地球人のために・・・とか考えてるの?」
「・・・・・」
「そ・・・そんなの聞いたこと無いよ! きっと木星の歴史始まって以来だよ! こんな原始人達のために木星人と戦うの? ありえなーい・・・。 木星人は無敵だけど・・・。木星人と木星人が戦ったら・・・どっちか死ぬかもしれないよ・・・」
「俺のOVER DOLLは新型機だ。自信はある」
「何言っているのよっ! センサーでわかってるよ! ネロスにはろくな武器積んでないじゃない!」
「地球の武器を利用すれば・・・」
「私はシンより勉強してきたから知っているよ! あんなミサイルとか言う花火みたいなのとか、訳の分からない金属の弾を飛ばすような弓矢に毛の生えたような武器、そんなのが相手のシールドに効果あるはずがない! 原始的な核を積んでいる爆弾も簡単に無効化されるよ!」
「やはり・・・木星に武器を取りに・・・。いや、往復四日も地球を離れることは・・・。ミリン、お前が取りに行ってくれないか?」
ミリンは立ち上がると、シンの目の前で苛立っているような声を上げる。
「やだよ! 私は手伝う気なんて無いから!」
「・・・まあそうだよな」
うつむくシンを、ミリンは寂しげな目で見下ろしていた。
「シン。どうしてそんなに本気になるの? あなたおかしくなっているよ。とても木星人っぽくない・・・」
[バタンッ!]
「たのもー!」
突然シンの部屋の扉が開いたと思うと、羽月がノックもせずに入ってきた。手には何かの箱を抱えている。
「はぁ・・・はぁ・・・。シン・・・」
羽月は肩で息をしている。汗をかいて前髪がべっとりと額に張り付いていた。
「ぷ・・・プラモデルの作り方教えて・・・。はい、これガイグダン参号機・・・」
「おおっ・・・」
机の上に置かれた箱に、シンは非常に興味をそそられているようだ。箱を触りもしないが、顔を動かしていろんな角度から眺めている。
「羽月も作りたくなったのか?」
顔を上げたシンの目はキラキラと輝いていた。
「さっき突然・・・やりたくなって買ってきたの。今日は・・・、今晩はじっくりと教えてね・・・」
不快な顔をしているミリンの前で、羽月はシンの横に遠慮なく座った。
「羽月、右腕を組み立てたら左腕だ。バランスよく作っていく所に・・・。ん? ・・・羽月?」
夜の11時を過ぎた頃、羽月はガイグダンの右腕を握り締めながら目をつぶって机に突っ伏していた。今日で徹夜4日目。若い高校生といえども限界が来たようだった。
「羽月をベッドに運んでくる」
シンは羽月を抱えあげると、部屋を出て行こうとする。そこにミリンが話しかけた。
「木星人がそんなおせっかいをするのなんて見たことが無い。シン、その子は何なの? なにか・・・特別な子なの?」
「・・・別に。ただの羽月だ」
「変わってるね」
「ああ、変わった事をしているだろうな。木星人にしては・・・」
シンは扉を閉めた。
「ガイグダン! 出撃!」
自分の声で目が覚める。羽月は右手に何か違和感があると思って見てみると、ロボットの腕があった。
「な・・・なんで私の部屋なの?」
羽月が時計を見ると、朝の6時前。慌ててベッドから飛び出た。部屋を出るとシンの部屋へ向かう。しかし、その扉の前を行ったり来たり、8往復繰り返してから扉を小さくノックした。
返事がないので扉を開ける。
いや、「待ってくれ」と言う声が聞こえてきても間違いなく羽月は開けていただろう。
中に入るとミリンのために床に布団が敷いてある・・・と、言う事は無かった。羽月は唾を飲み込みながらベッドに目を向ける。そこには、シンと・・・もう一人、ミリンが寝ていた。羽月は頬を震わしながら、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「こぉらぁー!」
その大声にシンとミリンは即座にパッチリと目を開け、上体を起こした。
「なに! なにっ! 音波攻撃? ナノプローブの物理プロテクトが破られた? どこからの攻撃?」
ミリンは耳を両手で塞ぎながら周りを見回している。
「つ・・・ついに・・・。シン・・・。やりやがったなぁ・・・。(元)私の家で・・・不埒な真似を・・・。天誅!」
「・・・ん、どうした羽月・・ぐはぁ!」
ようやく羽月を焦点に捉えたシンはその人物のパンチによって、一瞬にしてベッドの外へ放り出された。そして羽月はミリンに体を向けると、彼女の顔を指差して言った。
「ミリン! あ・・・あなたも隣の部屋で私が寝ているってのに・・・。堂々と子作りしているんじゃないわよ!」
「は・・・羽月・・・。なんて・・・乱暴な・・・。敵意の無い文明人に対して・・・」
ミリンは、床に転がってぴくりとも動かないシンと羽月を交互に見ている。
「そんなに子供が作りたけりゃ、二人で同棲したら良いのよっ!」
「何・・・。子供を作るって・・・何の話? はっ・・・。・・・考えた事が無かった・・・。地球人の寿命は短い。人間をすぐに生産しなければならないだろう。しかし、人を製造するシステムなどあるはずがない・・・。どのようにして・・・」
ミリンは顔を上げると、ベッドから立ち上がった。
「羽月・・・。あなたはどうやって生まれてきたの?」
「え・・・え・・・。それはもちろん・・・、お父さんとお母さんから・・・。あれ? ・・・なんかデジャビュ・・・」
「そうか、男と女の遺伝子を使うんだったね・・・。しかし、高度な装置も無くどうやって・・・・。ちょっと羽月!」
「ひっ・・・。やな予感・・・・」
ミリンは羽月に近寄ると、その両腕をしっかりと握った。羽月はうろたえながら後ろに下がるが、ミリンの腕は振りほどけない。
「羽月! ちょっと今ここで、シンを使ってやって見て!」
「出来るわけないでしょぉぉぉぉ!」
二度目の音波攻撃を放って羽月は部屋から逃げ出した。
駅を降り、学校までの川原の道。
昨晩、シンとミリンの間には何も無かった事は分かったが、一緒に寝ていたのが気に食わないらしく、むすっとした顔で羽月は歩いていた。
「ワン ワン」
「あっ! 犬だ! かわいー!」
しかし、その顔は突然の野良犬の出現で柔らかいものとなった。羽月は駆け寄ると、しゃがんで犬の頭を撫でる。
「グルルルル ウー」
しかし、シンとミリンが近づくと、とたんにしっぽを振っていた犬は唸りだした。それを見て、羽月は少し前の出来事を思い出して言った。
「そう言えば、シンは前もペットショップで犬に吼えられていたね。どうしてなんだろう・・・」
羽月はまた頭を撫でてみるが、犬は今にも二人に飛び掛らんとしている。
「この犬という生物は、感覚の大部分を嗅覚に頼っているらしい。おそらく、俺達から臭いというものがまったくしないから恐れているんだろう。・・・と、ネロスから後で聞いた」
シンがそう言うと、ミリンは羽月をチラッと見ながら笑った。
「へー。地球人達みたいに臭うのは安心なんだ。おもしろーい」
ミリンは犬と言うものを初めて見たからか、臆することなく近寄っていく。羽月はと言うと、また気になり始めたのか、自分の腕をくんくんと嗅いでいる。
「ガウッ!」
「あっ! ミリン!」
羽月が目を向けた時、犬はミリンの左手に噛み付いていた。しかし、ミリンの表情が変わる事は無かった。だが、その口からは冷淡な口調で、冷酷な言葉が響く。
「敵意を持って攻撃してきたな。下等動物が・・・」
ミリンは、犬が食いついている左手を見ながら右腕を振り上げた。その手にはいつの間にかナタよりも大きなナイフが輝いている。
「や・・・やめてっ!」
羽月が腕を伸ばして割って入ると、ナイフの軌道がずれた。それは犬の耳をかすめ、驚いた犬は口を離した。
「あ・・・。良かった・・・」
逃げていく犬を見ていた羽月だったが、自分の左腕が焼けるように熱いことに気が付いた。視線を向けると、肘から手首の丁度真ん中辺りに深い切り傷が見える。そこから血が噴き出し、ぽたぽたと地面を濡らしていた。
「あっ・・・・。痛い・・・・」
「ちっ・・・」
左手を押さえてうずくまる羽月に駆け寄りながら、シンはカバンから一回り大きな携帯電話のような形の物を取り出した。
「動くな、羽月」
痛みのため目をつぶっていた羽月だったが、気がつけば目を開けていた。
「あ・・・あれっ?」
腕には何の傷も無い。顔に近づけて腕の角度を変えてみたりしても、わずかな痕跡も見えない。
「わ・・・私・・・。今・・・。怪我しなかった?」
「気のせいだ、羽月」
不思議そうな顔の羽月の目の前で、シンは何かをカバンにしまっていた。
「でも・・・ほら・・・。土に血が・・・」
地面には、コップ一杯ほどの液体をぶちまけたような赤黒い染みが広がっていた。
「・・・・手品だ。ミリンは本場の手品を習っている。羽月を驚かせただけだ」
「えっ・・・。そうなの? ・・・すごーい、驚いたっ! じゃあひょっとして犬が噛み付いたのも、ナイフを出してみたのも全部そうだったんだ! ミリンってすごーい!」
羽月は噛み付かれたはずのミリンの左手を取ってじっくりと見てみたが、こちらも何の跡も残っていなかった。右手にも先ほど見えた気がしたナイフなどどこにも無い。羽月は感心した顔でミリンに拍手をすると、ミリンもそれにつられて愛想笑いを浮かべた。
その時、少し離れたところにある学校からチャイムが聞こえてきた。慌てて腕時計を見た羽月は駆け出した。
「遅刻するよ! シン急いで! ミリンも二日目にして遅刻は良くないよ!」
羽月は10メートル走ると振り返って「はやく、はやく」と言いながら手招きする。そしてまた10m走ると同じように手招きをしてくる。
「ふ・・・何あれ。気分がころころ変わるし・・・。なんていうか・・・。おかしな子ね・・・」
ミリンがシンを見ると、シンは羽月に笑顔を向けている。
「ねえ、シン。それいつも持ち歩いているの? 医療用ハンディ」
「そうだ。用心のためにな」
「私達は今みたいに、ナノプローブのおかげで相当な攻撃を受けない限り怪我なんてしないじゃない。私達がハンディを使わないといけないような猛獣なんて地球には存在しないし。それってもしかして・・・彼女のために?」
「・・・考え過ぎだろ。そこまで世話は焼かない。相手は原始人だ。お前も下等生物相手にプローブで作ったナイフなど出すな」
「そうよね・・・。原始人相手に・・・ないよね」
二人は熱心に手招きをする羽月を見ていると、走らずにはいられなかった。




