強敵現る
駅まで続く川原の道。羽月はシンの左側といういつものポジションを取られて、右側を歩いていた。その更に右側に光美と美鈴が歩き、羽月をフォローする気満々である。少し離れた後ろで大月と本多が「俺たち邪魔なんじゃないだろうか?」とひそひそ話しながら続く。
「ヒロ・・・じゃなかった、ミリン。何しに来たんだ?」
「何しに来たって、ユリに・・・、じゃなくてシンに会いに来たに決まってるでしょー。 コウに振られたからってこんなところに来る事ないじゃないの。 私が好きだって言ってあげているのにねー」
ミリンはごろごろと猫のようにシンの腕に顔を擦り付ける。
「俺はお前の事が好きではない。髪や目の色を変えて、俺と考え方が違う」
「私はすきー」
二人の様子を見ながら、光美は小声で羽月に言った。
「て・・・手ごわいわよ・・・相手は・・・。シン君もあの美女相手にいつ心を動かされるか・・・・」
「それにさぁ。やけにあの二人はっきり気持ち伝えるよね? 外国ってそうなのかなぁ・・」
美鈴もポカンとした顔でシンとミリンを見ている。
「ほら、羽月! あなたも何か言いなさい!」
光美に背中をポンと押され、その勢いで羽月は口を開いた。
「あ・・・あの・・。シンとミリンは・・・どこの国で育った・・」
「うるさいなぁ貧乳は。黙っててよ」
「ひ・・・貧・・・・」
ミリンに言われた言葉が羽月の心に突き刺さった。羽月の胸は小さい方ではない。どちらかと言うと平均以上、小さいなどと言われた事が一度も無かった。それだけに、深く、深く矢は食い込んだ。
しかし言い返す事は出来ない。羽月を貧乳呼ばわりしたミリンの胸は、制服の中に大型メロンを二つほど隠し持っているんじゃないかと思うほどの存在感がある。
がっくりとうなだれた羽月を見て、光美はミリンに向かって強い口調で言う。いや、ひょっとして羽月のためじゃなく、何か他に怒る要因があったのかもしれない。
「胸がどうしたのよ! そんなの関係ないじゃない!」
「何を言っているの? 女は胸でしょ? 大きければ大きいほど良い。そのために挨拶で男に触ってもらうんだから。あなたは男なのに分からないの?」
ミリンは当然の事のように言い切った。
「私は女よっ!」
「へー・・・」
じっと光美の胸にミリンは視線を留める。その後、口に手を当てながら謝ったが、その目は笑っていた。
「ごめんなさい。あまりにも平たんだったものでー」
「こ・・・これでも最近Bになったんだからっ!」
「胸はFカップくらいからやっと見られるようになると思うけどー。そっちの子くらいならなんとか人に触らせることが出来る感じかな」
ミリンは、光美の隣にいる女の子へ目を向けている。とたんに、その小柄な少女のメガネがキラリと光った。
「み・・・美鈴はちょうどFですけどぉー」
彼女はなぜか自信にみなぎった顔で、胸を両手で持ち上げながら突き出した。
「美鈴! 裏切り者!」
光美は握った両手のこぶしを、しきりに上下させながら美鈴に向かって口を尖らしている。
「羽月はDってところかなー。・・・役に立たないよね」
ミリンにそう言われると、羽月は胸を両腕で隠しながら「役に立たないのか・・・」とつぶやいた。
美鈴は「F以上はOK」と言いながら胸を突き出して機嫌よく歩き、光美は何やらぶつぶつと「胸なんて脂肪」という言葉を呪文のように繰り返し、羽月は「貧乳・・」とつぶやいて歩く。会話が止まってしまった所でシンが口を開いた。
「それにしてもミリン。お前、胸が大きくなったんじゃないのか?」
「あ、シン分かった? さすがー。 操縦の邪魔になるから前はあのサイズにしてたんだけど、シンをコウに取られちゃったから今度はコウに負けないサイズにしたのー」
「お前・・・。ミリンまで母星を出たらパイロットの数が足りなく・・・。いや、事情があってこの話は二人の時にしよう」
「そう言えばシン。私、今日から泊まるところ無いの。あなたの部屋に泊めて」
ミリンのその言葉を聞き、羽月は顔を上げると二人の会話に割って入った。
「何言っているのよっ! そんなこと・・・・。ねぇ! シン!」
「わかった。ベッドは一つしかないけど良いか?」
「ありがとー。シン!」
[ガラガラガラガラ]
「あ、またこの音だ」
「何がどこで崩れているんだろうね・・・」
光美と美鈴はいつものように周りを見回した。すると、後ろをよろよろと大月と本多が歩いている。
「どうしたの? 二人とも・・・」
「か・・・会話の刺激が・・・強すぎて・・・」
「本田君、ティッシュまだあるよ」
大月から受け取ったティッシュを鼻に詰めなおす本多だった。
カップルの後をつけるストーカーのように思われているんじゃないかと考えながら、羽月は家に帰って来た。シンはいつもと何も変化が無いように家に入っていくが、羽月はその腕にくっついている巨大なバービー人形が気になって仕方が無い。二人は階段を上がり、まるで同棲カップルのように自然にシンの部屋へ消えた。
羽月は自分の部屋に勢い良く飛び込むと、シンの部屋側の壁に耳を当てた。会話ははっきりと聞こえないが、僅かに聞き取れる単語がいくつかあった。
「木星・・・? 地球に来た・・・? ひょっとして・・・。シンとオタク趣味が一緒なのかも・・・」
とりあえず、恋人のような甘い会話では無かったので、羽月は胸を撫で下ろした。
「話の続きだが、OVER DOLLのパイロットが二人もいなくなって、木星は困っているんじゃないのか?」
シンの部屋では、二人はソファーに座っていた。ミリンは相変わらずシンの腕にしがみついている。
「べつに良いでしょ。シンだって自分勝手に来たくせに。それに、私も適当な理由つけて申請したら、簡単に許可おりたよ」
「・・・まあ木星はそんな所だからな・・・。それで、やはりOVER DOLLで地球に来たのか?」
「もちろん! 2日もかかっちゃった! でも戦艦は一人だと動かせないし、仕方ないかな。OVER DOLLはシンと同じ池に置いてあるよ」
「そうか・・・。しかし、ネロスが俺に何も言ってこなかったのは妙だな・・・」
いぶかしげな顔で首を捻ったシンに、ミリンはいたずらっぽい目をしながら言った。
「だって私が言うなって釘刺しておいたから。シンのA・I、ネロスはいろんな事を教えてくれたよ。羽月っていう原始人と一緒に暮らしているとか、学校って言うものを体験しているとか。でももう二ヶ月だよ。そろそろシンも飽きたでしょ? 木星に帰ろうよ」
「まだ帰る気はない。ところで、ミリン。お前が地球に来たのはつい最近か?」
「昨日だよ。それがどうかしたの? 早く会いたかったの?」
ミリンは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「いや・・・。一ヶ月前、木星の技術を転用した兵器が地球にあったんだ。もしかしてお前かと思ったが・・・。では、他に木星人が地球に来ているかどうかは知らないか?」
「さー、どーだろ。シンも分かっている通り、私たちがどこどこへ行くって言って、本当にそれをするかどうかは自己申告みたいな物だからねー。期間をシンみたいに延ばしても何も言われないし。でも、原始人相手に遊んでいるのはシンくらいだと思うよ。他の木星人が飽きずにこんなつまらない星に何日もいるなんて考えられなーい」
「俺も以前そう思った。あれから一ヶ月・・・。何もアクションを起こさない所を見ると帰ったか・・・」
「でもそんなの関係ないじゃない? 他の木星人が地球で何をしようと。手伝ってあげるの? めんどくさーい」
シンはそこでミリンから目を逸らして言う。
「いや・・・。出来れば妨害しようと思っている」




